第148話 本気の一本
ガラスの精霊はガラスペンの中に普段はいるようだった。
師匠が柔らかい布を敷いた小箱を作ってその中にペンを入れ細工室に置いた。
その中に潜っているようで、俺の目にはガラスペンが光って見える。
俺がガラスを作る時は周辺でうろうろしたり、溶けたガラスの中に入ったりして慌てたこともある。
でも基本、うろうろしているだけなので次第に慣れてきた。
素材のガラス棒とペン先を作りだめしておく。
時間が取れる時に一気に作業しようと思ってる。次に作るのは師匠にあげようと思ってるペンだ。
それから家族の分。それから献上品を作って、タビーたちへ贈る分だ。
献上品を作るにはいろいろ考えないといけないと思うんだ。
豪華さとか、そういうの必要だよね。
素材とかも必要だし、ダンジョンに行くとかしなきゃいけないかもな。
師匠に頼めばいいのかなあ? そこがわからないんだよね。
「合同演習の異変の件で原因がわかった。どうやらダンジョンが出来ていたらしい。今調査中なので森には近づかないようにしてくれ。では講義に入る」
モレー先生がそう報告した。
王都にないダンジョンが北の森にできたってこと?
これはダンジョンアタックがそのうちできるかもしれないってこと?
お昼にアリファーンから放課後サロンに来てくれないかって誘われた。
呼ばれた件は合同演習の話だった。
「担任から報告があったかと思うのだけれど、合同演習の異変はダンジョンが出来てたからと説明されたと思う。確かに初級ダンジョンが森の奥にできていた。しかし、原因が正しくダンジョンの溢れなのかと言えば違うと報告が上がっている。人為的な痕跡があったらしい」
え、これ俺たち聞いていい話?
「そのアリファーン殿下、それは俺たちが聞いていい話なのか?」
タビーの言葉に俺とルーンはぶんぶんと首を縦に振った。
「巻き込んでしまった君たちには報告する必要があると思ってね。誰がとかはまだわからないんだ」
「北の森が解放されても、ダンジョンは危険てことなのか?」
タビー頼もしい。
「そこのところはまだわからないかな? 解放されればアナウンスはあると思うよ」
「ダンジョンか」
タビー顔がにやにやしてるなあ。行きたいって言ってたからな。
それからは普通に授業の話とかして別れた。
師匠に報告だ!
「ああ、一応色々聞いてはいるが……第二王子殿下がね……」
ふむ、と師匠は思案顔になった。
「何かあれば後見人の俺に連絡が来るようになっているから、ルオは勉強の方に……と、ガラスペンに注力していればいい」
「ガラスペンに注力する! 頑張るよ!」
「あ、いや、そこまでは……」
ガラス~~!
俺は浮かれて工房まで走った。
師匠公認! 思いっきりやるぞ~!
まあ、平日はガラス棒づくりに終始しちゃうんだけどね。
「あれ? ガラス棒の数、増えてる?」
おかしい。作った本数より一割くらい多くなってる。
……小人さん?
いやいや、普通に考えたら、多分……。
俺は細工室の方に視線を向けた。
(主?)
「なんでもないよ」
それから炉に火を入れてガラス棒をまた作った。
ガラス棒の他に管ガラスも。
模様をつけるのに棒だとできないことがある。
なのでこれも大量につくる。
徐冷庫に入れて、出来上がっている方のガラス棒は細工室に運んだ。
「ありがとう」
俺はとりあえずそう言っておいた。
ちかちかっとペンが光って光は消えた。
休みが来たので、今日は一日工房に籠る。
お昼はお弁当持ち込みだ。
仕上がるまで手は止められない。
管ガラスの外側や内側に金や銀を炙って煙を吹き付ける。
そうすると色がつく。それを閉じ込めて模様をつける。
前世ではペンダントトップに良く使われる技法だ。
宇宙っぽい不思議な色合い。
藍色に黄色の螺旋。ピンクは金を使う。金と銀で青緑とか、繊細で色が変わるのだ。それに宝石を閉じ込めることもある。
ラヴァに炎を出してもらう。銀を炙って煙を吹き付ける。
炙ったガラスにガラスの点を打つとそれが模様になる。その炎の周りをいつの間にか、ガラスの精霊が浮かんでうろうろしていた。
集中していたから、気付いていたけど、気にならなかった。
師匠に贈るガラスペンは師匠の瞳の藍色からイメージをした。
宇宙の星とコランダムという名前から。
サファイアとルビーがあるけれど、俺が持っているのはダンジョンで拾ったサファイア。
ペン先と軸の接続部分は宇宙を模した玉。ペン軸は根元から藍からグラデ―ションで透明になっていく軸の中に妖精のような羽が浮かんで見える。これは外縁部がピンクで内側に向かって白へとグラデーションになっている。
先端にはダンジョンで拾ったサファイアを多面体に加工してガラスの中に閉じ込めた。ペン軸は十二本の溝で、少し太めの0.7くらいの線になるように調整した。
「できた」
(主、綺麗)
(とっても素敵だよ)
ラヴァとガラスの精霊からお褒めの言葉をいただいた。
嬉しい。
徐冷庫に入れて冷ます。
その間にペンケースを作ることにした。材料は木だ。
クッションを敷き詰めて絹の柔らかいルヴェール染めで覆う。蓋の内側にも敷き詰めて外は藍色の布を張りつけた。
布にはコランダムと金糸で刺繍がしてある。あらかじめ、カリーヌに頼んでたものだ。
内側には小さく隅にルヴェールと入れた。
「師匠、喜んでくれるかな」
箱の蓋を閉じて、工房を後にした。
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