第147話 ガラスの精霊
よろりと師匠がふらつく。
「俺、覚悟はしていたんだ。いや、していたはずなんだが……」
(しっかりして! 主!)
カルヴァが師匠の周りを飛び回っている。
「ガラスの精霊さんはこのペンに興味が?」
(んんとね。このガラスペンの元になったガラスに宿っていたんだけど、物凄い魔力を吹きかけられて、進化したんだ)
ラヴァの炎が原因だった!?
(それに、最近素敵なガラスがいっぱいできてて仲間が増えてきたんだ。とっても凄い事なんだ)
『そうだね。凄いことだ』
精霊王様の声だ!
『ガラスの精霊は生まれてはいたんだけど、まだ上級の精霊が生まれる段階にはいなかったんだ。それがね。そのペンのおかげで進化できた。ありがとう』
「そうなの? ラヴァが頑張ってくれたから?」
(僕、頑張った!)
『そうだね。二人の純粋な思いが力になったんだよ。お願いがあるんだけれど、いいかい?』
「お願い?」
『そのガラスペンをルヴェールの精霊教会の祭壇に奉納してもらえないかな?』
「このペン?」
『そう。そのペンはちょっと特殊のようだからね』
「特殊?」
「わかりました。近いうちに納めにいけるよう手配します」
『そんなに急がなくていいよ。二人で捧げてくれると嬉しいかな』
「二人で?」
師匠と俺は顔を見合わせた。
『そう。よろしくね』
そう言うと気配が消えた。
(精霊王様、僕のこと、気にしてくれてた! 嬉しい!)
小さな炎がくるくると空中を回った。
「とりあえず、このペンはすばらしいってことだ。ルオ、精霊を誕生させたんだからな」
「うん!」
師匠に褒められた! 嬉しい!
「あーでも、これは世に出せないから、他のを作ってくれ。見本を何本か」
「わかった! でも次に作るの決めてあるんだ!」
「ん? 自分で使うものか?」
「ふふ、内緒だよ!」
そう言うと、師匠は胃のあたりを手で押さえた。
「そ、そうか。できたら見せてくれると嬉しい」
「うん! それはもちろんだよ!」
そして浮かんでいるガラスの精霊さんはどう扱えばいいのかな?
魔力必要じゃないのかな?
ラヴァは上級になったばかりで魔力が必要だったみたいだけど。
(僕、ここ気に入ってるからここにいていい?)
「この部屋?」
(うん。それと隣。ガラスの気配が濃いから)
「うん。大丈夫だよ? ね、師匠」
「もちろんだ」
(よかったー!)
くるくると飛び回る小さな白い炎は可愛らしかった。
「とりあえず、今日はガラスはなしだ。話し合う必要がある」
師匠に執務室に連行された。
「あの出来栄えと、書き味もいい。和紙とセットで売り出したいくらいだ。で、だ。献上品をまた作る必要がある」
「ええ~」
「今度は王家だけでいい。時期も出来たらだ。頼めるか?」
「僕、第二王子殿下の誕生日に贈ろうと思ってたの……あと、タビーと、ルーンに」
「第二王子殿下の誕生日知ってるのか?」
「九月十八日って言ってた」
「そうか。来年になるなあ。ゆっくり作ればいいと思うが……」
「じゃあ、ルーンには違う誕生日プレゼントにしなきゃ……十二月だって言ってたから」
「そうか……すまないな。それとハンスを呼んだ。作り方を教えて欲しい」
「え、ハンスに?」
「ルオが全部作るわけにいかないだろう? ハンスに覚えてもらって、売り出すんだ」
「でも、鏡造りが大変じゃない?」
「それはそうだが、和紙も売り上げを拡大するチャンスだ」
「ついでにインクをつけるといいよ。レター用に封筒作ってセットにすれば?」
「なるほど。それはいいな」
俺と師匠きっと悪い顔してる!
(あの子、大人しい子みたいね)
カルヴァが話が一段落ついたら、話しかけてきた。
(うん。ずっと空中で揺れてる)
ラヴァも参加だ。
「ガラスの精霊か。本当に俺はびっくりしたぞ」
「そうなの?」
「精霊王様まで出るとは……」
「ゴーストみたいな感じだね」
「なんだそれ」
出るっていったら、ねえ?
その日はいろんな話をして終わった。あ、ポーションだけは作ったよ。その間、師匠はチャロに色々教えてた。
「ラヴァは凄いね」
(僕、凄い?)
「うん。ラヴァと一緒にガラスペン作ったからガラスの精霊さんが生まれたんだもの」
(主と一緒だからって言ってた! 主が凄いの!)
「僕が凄いの?」
(そう!)
「じゃあ、二人で凄いんだ」
(僕と主が凄い?)
「うん」
(一緒! 嬉しい!)
「ありがとう、ラヴァ。おやすみ」
(おやすみなさい! 主!)
ラヴァと一緒に眠りについた。
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