第146話 この世界初のガラスペン

 翌朝、すっきりした目覚めに伸びをしてベッドを降りた。

 満足げな表情で寝ているラヴァを起こさずに顔を洗って着替えた。

 そこでようやく起きてきたラヴァが肩に乗る。

(いっぱいもらって満足!)

 どうやら魔力不足だったらしい。当然かなあ。三時間以上、ブレス吐いてくれてたものな。いつもより多めに魔力を吸ったようで、上機嫌だ。


 契約した当初に毎晩、魔力枯渇するほどの量をラヴァは吸っていたわけだけど、おかげで魔力量は爆上がりしたようなんだ。

 師匠がカルヴァと契約した後で、魔力枯渇を繰り返していたわけなんだけど、師匠も元々魔力量が多かったみたいで、この年になっても上限が上がるとはと呟いていた。

 それで俺が魔力量を増やしているカラクリに師匠が気付いたんだけれど。


 でも師匠は成長期に魔力枯渇を繰り返すのは身体が成長しないリスクがあるからと、ラヴァに言い聞かせた。それからラヴァは魔力枯渇一歩手前の、魔力上限は増えます、けどちゃんと体の成長に必要な量は残してますよという微妙なラインを狙って魔力を俺から持っていっているらしい。

 俺の魔力量が増えるのに比例して、ラヴァも必要な魔力が増えるらしいのだ。

 一緒に成長してるみたいで嬉しい。


 魔力に敏感な魔物は逃げるほどの魔力があるみたいで、魔力を感知されないよう魔力制御を鍛えて平民の魔力量くらいにしか表に出さないようにしている。

 あまり体にとどめるのも体に悪いからそういう時はラヴァに魔力を渡している。

 ただ、俺の魔力制御はまだまだ甘いらしく、攻撃魔法、特に火属性魔法は初級でも被害が大きくなるからなるべく使うなと言われている。

 火魔法、思いっきり使ったらどうなるんだろうなあ。

 ラヴァのブレスの真似とか、できるのかな?


「師匠、おはようございます!」

 元気よく食堂に入った。すでに座って、水を飲んでいた師匠が顔を上げて俺を見た。なんだか元気ない感じがするな。

「おはよう、なんだか元気だな」

「師匠、目の下ちょっと隈出来てない?」

「はは、そんなまさか」

(夜遅くまで書類と格闘してるもの。仕方ないわ)

「え、そうなの?」

「ばらすな」

(だって、体壊したら元も子もないでしょ?)

「書類は仕方ない。教師もやっているからな」

 カルヴァはお手上げ、というようなポーズをとる。

 ここは空気を換えないと!

「師匠、見てもらいたいものがあるんだ! 食事終わったら見てくれる?」

「……わかった。食事中に覚悟を決めておく」

「師匠! どういうこと?」

「いいから、席につけ。食事にしよう」

 美味しい朝食をいただいた。


 工房に来た。徐冷庫のある部屋に来る。

 扉を開けると徐冷庫から光が漏れていた。

「え?」

「なんか光ってるぞ? あれを作ったのか?」

「えーっと、ちょっと待って?」

 え、光る素材なんか、使ってないんだけど。

 俺は扉を開けた。

 そこには昨日作ったガラスペンが軸の中心から白く発光していた。

「眩しいな。あ、収まった」

 光はとりあえず収まってたので、そっと持ち上げて確認する。

 うん。ヒビとかはない。

「師匠、明るいところで見て」

 隣の細工室に移動し、窓を開けた。

 陽光に煌めくガラスペンは虹色に光って美しい。

「師匠、これで和紙に字を書くの楽になるよ!」

 俺は師匠にペンを渡す。そっと師匠は受け取って、じっと見つめた。

「……綺麗だな。これで字を書くのか? 落としたら割れそうだな。『不壊』……よし、ちゃんと付与できた」

「付与?」

「ああ、武器とか、装飾品とかに『不壊』という魔法を付与すると壊れにくくなるんだ。魔力の通りやすいもののほうが効果があるが……このペンは魔力の通りがいいな」

 師匠があらゆる角度から見ている。壊れやすいガラスペンの特性を付与魔法で解決するなんて、師匠すごい!


「こんなに綺麗な筆記具は見たことがない。素晴らしいな。ルオ」

「書き味もいいはず。インクをつけて書いて」

 和紙とインクを作業台に用意した。

 師匠がそっとペン先をインクに沈ませて持ち上げる。

「インクが落ちないな」

「毛細管現象とかいう奴かなあ」

 師匠が和紙にペン先を落としてそうっとペンを滑らせた。

 羊皮紙用のインクで、発色はよくないけど、線は綺麗に引けた。

「滑らかに書ける。凄いな。まだ書けるぞ」

「多分、二、三枚は書けると思う」

「書き終わったらこのインクは……」

「あ、水で洗って拭けばいいよ」

「なるほど……簡単に手入れができるのか」

 師匠が唸っている。


(ねえ、ねえ。精霊がいるわ)

(いる。いるよ? 知らない精霊)

(なんでわかるの!? そしてなんで上級が二柱もいるの?)

「え?」

 俺と師匠は同時に声を上げる。

 カルヴァとラヴァじゃない、俺くらいの少年の声が聞こえた。

 カッと師匠の持つガラスペンが輝いて光が収まると、空中に白い炎のようなものが浮かんでいた。

(初めまして、僕はガラスの精霊だよ)

「ガラスの精霊!?」

 師匠と俺の声が再び揃った。

(主、心拍数が爆上がり)

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