第144話 ガラスペンを作りたい

 和紙は洋紙と違って表面がざらざらする。それも味で筆で書くとかすれるところが美しい文字になる。でも、この国の主要筆記具は羽ペン。羊皮紙がメインで、メモは木の板だ。

 和紙は羊皮紙より製造が容易く量ができる。安価なのだけど、まだそれほど普及していない。

 俺が使えるのは製造元だからだ。

 学院や王宮で導入が決まっていて、作られた和紙はほとんどがそちらに回される。

 あとは高級仕様の貴族向けだから、Aクラスの人は手に入れてるかもしれないけれど、そこまでだ。

 でも、試験の紙は和紙だったから羽ペンでは引っ掛かりが多くて書きにくかった。

 ガラスペンなら書きやすいかもって思ったんだ。

 万年筆とか鉛筆とか、ボールペンとかそういうのや筆でもいいんじゃない? とか思ったけれど、ガラス工芸作家を目指す俺が作るなら、やっぱりガラスペンだと思う。


「よし! 頑張ろう!」

 気合を入れて細工室に入る。ちゃんと水は用意したし、出てこなかったら声をかけてくれるようにギードとチャロにお願いした。


 ガラスペンの基本はバーナーワークだ。バーナーの炎を調整してガラス棒をあぶり、造形していく。

 ペン先は溝をつけてインクを吸い上げる機能をつける。

 軸はもともとは別の素材だったらしいけど、軸もガラスの一体型が造形も綺麗で作家魂を揺さぶられる。

 目指すのは軸が美しい一体型のガラスペン。

 持ちやすさと書きやすさも備えたそれ。

 まずは基本のペン先からだ。


 八つの溝をつけて捻って伸ばす。まっすぐに美しい溝のひねりを目指す。ペン先は細く、なめらかな書き味が欲しい。

 何個も作って調整していく。今回はペン先だけで軸はあとで作る。


「うーん、どうかな?」

 木の板で挟むようにして仮の軸をつけたペン先をインク瓶に入れて試し書きをする。

 和紙のざらつきに引っ掛かることなく字が書けた。

「お~、いい感じ!」

「なんだ、それは」

 うわ! 耳元で師匠の声が! イケボだ! でも頼むから女の子の耳元で囁いて!

「え、ガラスのペンを作ろうと思って」

「ふむ」

 じいっと師匠が俺から取り上げたガラスペン(仮)を手に取ってみている。

 あ、もしかして鑑定した!?

 師匠は試し書きしていた紙の上にさらさらと文字を書いていく。


【ガラスのペン先】

 毛細管現象によりインクを吸い上げ紙に接することでインクが落ち字がかける


 ネットで調べた結果のような説明になってる!


「なるほど。新しい知識だ。この溝にしたのは?」

「ええっと、インクをつけて落ちないように捻ったかな?」

「そうか。……お昼だから呼びに来た。呼ばれる前に出てくるようにしなさい」

 師匠に頭をがっくんがっくん揺さぶられて髪を乱された。

 お昼は師匠が上の空だった。


 お昼を取って、工房に戻ってきた。夕食の時間には必ず出てきなさいと師匠に約束させられた。

 何個も作って、書き味が良かった二種類のペン先を見本にした。


「よし、次は同じように作れるかだな!」

 手作りだから多少の誤差が出るのは仕方ないけど、大事な部分だから体に覚えさせたい。

 俺は用意したガラス棒がなくなるまで試作を重ねた。

 ガラス棒がなくなったので、今度はガラス棒を作成することにした。

「ガラスの種類、そういえば硬質ガラスだった気がしたなあ」

 ソーダ灰ガラスは軟質ガラス、耐熱ガラスは硬質ガラスだ。融ける温度が高く膨張しにくい。

 軟質ガラスより耐久性に優れているから前世ではそっちが材料だったな。

 師匠の領地で採った砂で作ったものだからルヴェールで作ったガラスとちょっと違うかもしれないな。


 そう言えば鑑定してなかった。

「鑑定」

 残ったガラス棒を鑑定した。

【硬質ガラス】

 ホウ酸の含有量が多いため、耐熱性に優れたガラス。


 え、どういうこと?

 俺は材料の砂を鑑定した。


【ヴァンデラー産珪砂】

 砂に石英を多く含む。また、ホウ砂がやや多く含まれている。


 え、ホウ酸の鉱石がどっかにあるってことなの?

 それが自然に硬質ガラスの材料になったの?

「……」

(主?)

 ……難しいことはあとかな?

 この世界と前世じゃ、常識が違うこともあるし、ね。


「ようし! ラヴァ、お願い!」

(わーい! がんばる!)

 とりあえずガラス棒作ろう! そうしよう!

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