第143話 試験

「王国の建国は五百年前とされているが王国の年号は二百五十七年だ。その差異はなぜ?」

「ええと、その年に王位争いが起こって、王位継承者がすべて亡くなって傍系の公爵が王位について、悲劇を繰り返さないために新歴として年号を改めたから?」

「ルオ様、正解です」

「へえ? そんなことがあったんだ?」

 王国史の資料を見ながらタビーが言う。

「入学試験では範囲に入ってないけどね。ちなみに国家の紋章は変わってないよ」

「ああ、建国祭の時見た。鳥なんだよな」

「鳥?」

「これですね」

 ギードが布を広げて見せてくれた。

「国旗です。このラインは炎を表しています。羽根は金ですね」

 金糸の刺繍は鳥をかたどってそのバックに赤いジグザグのラインが炎か。フェニックスとガルーダが合わさったみたいだな。

「この炎が国を表しているので、火属性が尊ばれているというのもあります。王家には火属性が多いとも言われてます。この鳥は神獣という説が一番信憑性があるそうです。なにせ、王位争いで貴重な歴史的資料が焼かれたそうなので」

 馬鹿なのかと呟いたギードは苦虫をかみつぶした顔をした。ああ、そういう歴史的価値のあるものを尊ぶ性質なんだ。

 俺もそう思う。焚書なんて言語道断だと思う。まあ、多分王宮が焼けたのかもしれないけど。


「ところで建国祭って何?」

「オーア王国の建国記念日を祝うお祭りで五年ごとに王都で開催されます。今度は三年後、ちょうど、卒業の頃ですね」

「建国記念日っていつ?」

「九月十八日です」

 あれ? アリファーンの誕生日だ。

「え、そうだっけ? 第二王子の誕生日と一緒なんだな。建国祭は一週間くらい続くからどの日って記憶なかった」

「そうなのですか?」

 ギードが聞いてくる。

「うん。そう聞いた」

 へえ、建国記念日に生まれたんだ。あれだね、クリスマスとかに生まれたようなものだね。自分の誕生日っていう感じ、しないかもしれないね。

「こほん、脱線しましたが、国旗の象徴を問われたりするので覚えておいてください」

「はい」

「はい」

「では次……」

 そんなふうにギードの詰め込み勉強会は夕方まで実施され、タビーは耳から零れるとか呟きながら馬車で帰っていった。

 師匠とギードとで見送った後、俺は工房に行こうとしたが二人に止められ、夕食の後も詰め込み授業を受けた。

 体中から零れそう!


 座学十科目が三日かけて試験が行われる。初日は午前二科目午後も二科目。二、三日目は午後の一科目が減って午前二科目、午後一科目だ。

「ダメ、しゃべると出そう」

「口押さえてた方がいいよ」

 タビーが青い顔になっていた。

「僕もあちこちから零れそうだから、しばらくは黙るね」

 俺とタビーはお互いに頷きあった。


 そして試験が始まった。

 歴史にちょうど建国に関しての設問があった。ギード、感謝だ!

 建国記念日も問われた。

 よかった! ありがとうアリファーン!


 最終日が終わるとクラスのみんなが明るい顔になった。

「どうだった?」

 タビーが聞いてきた。

「なんとか全部埋めたよ」

「俺もだ。入学試験よりかなり難しい内容だったからなあ」

「専門的な科目もあったしね。領主や国政にかかわる文官や、騎士の基礎だと思うんだけど……」

「しかたない。基礎だけで、もっと専門の知識は上級学校に行ってからになるからな。もっと難しくなるんだよ。兄さんの文官試験の資料すごく難しかったよ。チラ見しただけだけど」

「さっさと単位とって暇にならないと!」

「ええ、難しいんじゃないか?」

「試験で単位、どのくらい貰えるんだろう」

「点数次第じゃないのかな?」

「確かに。補習とか、絶対嫌だ」

「まあ、明日は休みだし。どこか行くか? 街、案内するぞ」

「明日はすることがあるんだ」

「そうか、残念だな」

 ガラス! ガラスを一日中!

(主、心拍数あがってる)

(ラヴァ、最近心拍数にこだわるね)

(流行りなの)

(流行り……?)

 精霊界隈は心拍数が話題になるくらい、心臓病の割合が高いとか? まさかね?


「ガラス~~!」

「そこはただいまではございませんか?」

「スピネル! ただいま!」

「お帰りなさいませ。ルオ様。工房へは着替えてからですよ」

「は~~い!」

 俺はダッシュで着替えて工房へ行った。徐冷庫に入れていたガラス棒がちゃんとできてるか、心配だった。


 徐冷庫からガラス棒を取り出して、確認する。

 ちゃんとできてる。よかった。

(主、僕、手伝う?)

「大丈夫。今回はね、火を使うけど、道具があるんだ」

(僕、手伝うのに)

「ラヴァは俺が危なくないか、見張ってくれると嬉しいよ」

(わかった! 見張る!)

「よろしくね」

 今日は細工用の部屋にガラス棒を移すくらいでやめておく。

 作り始めたら止まれないからな。今回のは特に。

「ちゃんとできるかな。まあ、でも最悪一年かけてもいいかな。熟練には十年くらいかかると言われてるけど」

 そこは昔取った杵柄で何とかできるかな。

「よし! 明日頑張ろう!」

 すっごく楽しみだな。部屋を作ってくれた師匠に感謝しなきゃ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る