第87話 スキル:アーティスト
ピレネー犬くらいの大きさの白い狼の体の周りに舞う雪の結晶は俺がガラスに埋め込んだ模様だ。
フェンリルは氷属性と表されることが多かったからそれを入れた。
召喚ができたなら、送り返すこともできる?
「送還、フェンリル」
首を傾げて悲しげな眼をして、フェンリルはガラスの中に吸い込まれるようにして戻っていった。手の中にあるのは完成したフュージングのプレートだ。
へなへなと、足の力が抜けた。
これは師匠に相談だ!
(主、大丈夫?)
頭の上にいるラヴァに心配そうに声をかけられた。
あれ? そう言えばラヴァはラヴァだ。
あの塑像に入ってしまってから、あの塑像はラヴァそのものになってしまった。
このプレートと何が違うのだろう。
「フェンリルを召喚した? ハハ、何を馬鹿なことを……」
「召喚、フェンリル」
師匠とフェンリルが見つめあっている。
あ、師匠が胃のあたりに手をやった。
「どういう状況でそうなったのか、詳らかに説明しなさい」
「はい」
「なるほど? このプレートを手に持った瞬間にか」
師匠がフェンリルのプレートを手で弄びながら考えこむ。
「よし、他の魔物や動物のプレートを作るんだ。そして、同じものを、細工師に作らせなさい」
「細工師に?」
「これは硝子工房のメインの仕事ではないが、需要が高い。このプレートを作らせて、この技術を習得させなさい。アクセサリーにできるなら細工師が一番適しているはずだ」
「あ、見本を作って欲しいのを選んでもらうって……」
「そう。もちろん特許は取る。その上で、技術を伝達し、習得した技術で普及させるのは領民の仕事だ。俺たちは開発するところまでだな。領主の仕事もそうだ。情報をまとめて、問題を詳らかにし、解決に向けて動くのは文官や兵士だ」
「うん」
「全部ルオがやることはない。雑事は人に任せて、ルオは自由に、好きな事をしなさい」
「いいの?」
「芸工神様の加護はそういうことだろう」
「ガラス頑張る!」
「頑張りすぎないようにといっても、聞かないだろうからな」
「過ぎてないよ? まだまだだもん」
俺はプレートを見る。
透明なガラスはよくできている。でも、輪郭は滲んでいるし、色々と拙い気がする。
「そうか? とりあえずその能力はわからなかったユニークスキルによるものだと俺は思う」
「あ、スキル、アーティスト?」
「もう一度鑑定してみるといい」
「鑑定」
スキル アーティスト
自作したガラスに描いた像を召喚使役できる。ただし、条件有り。
媒体が壊れると召喚したものも消える。
「ふあ!?」
条件あり。使えなかった条件は自作したガラスがなかったから?
他にも条件があるのかな?
「どうした?」
「ええとね……」
俺は鑑定結果を話した。
「自作のガラス……そんな一点縛りの条件のあるユニークスキルとは……」
師匠が頭を抱えた!
「とりあえず検証だ。それとブローチの案件を並行処理だ。売り物にする見本を作ってくれ。それを作れるように細工師工房に働きかける」
「師匠、ありがとう」
「なんの、弟子の面倒は師匠が見なきゃなあ」
ガシガシと頭を撫でられた。
「まあ、当主様に話はしないとダメな案件だな」
「ああ~~」
師匠が父に報告して、やっぱり呼び出された。
父の前で実演。
「おお! ほうほう……」
父が目を輝かせて周りをまわり、がしっと顎下を掴んだ! 掴んだよ!
「おお、ふわふわだ!」
顎下をガシガシと撫でまくる父にフェンリルがうっとりとした顔をした。
え、虚像ってわけじゃないの!?
俺は師匠を見た。師匠も俺を見た。目が合った。
『父様(当主様)って、勇気ある』
きっと同じ気持ちだったと思う。
「フェンリル、威力をめっちゃ抑えたブリザードを父様に」
ブオオオ! と音がして顔が雪まみれになった。父様が。
「ルオ! 何をする!」
「フェンリルはペットじゃありません」
「え?」
「父様にはあげません」
「ええ?」
「送還、フェンリル」
「ああ!」
父、動物好きだったんだ。だから、ラヴァにもちらちら視線向けてたんだね。
「も、もう一回!」
ダメです。
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