第88話 ダンジョンに挑戦

 モフラー爆誕の衝撃を受け、しばらくは三人の秘密となった。

 切り札的に使えるからという意味もある。

 父様はブルーを可愛がりに行った。


 それからしばらくしてダンジョンに出発することになった。

「いってきます!」

「いってきます」

 今回は師匠と騎士の二人が護衛。

 母も一緒に行くはずだったがイオがごねて、今回はこの面子だけで挑戦することになった。

 イオがめちゃめちゃ手をふってる。

 そのうち剣で無双する気がする。


「ああ、これを渡しておこう」

 布に包まれた二十センチくらいの棒を渡された。

「なに、これ?」

 するりとほどけた布から現れたのは黒い木の棒。

 先が細く円錐状になっていて持ち手と思われる部分は少し太く、滑り止めと思われる模様が入っている。持ち手部分の上下にミスリルのリングが嵌っていてそのリングにもサラマンダーを模した装飾が入っていた。両端の先にもリングが嵌っていて先が円錐状に尖っていた。


 魔法の杖!


「ええ? 師匠、これ……」

「ちょっと早いがご両親と俺、ネリアとローワンからの誕生日プレゼントだ。素材のメインはエルダートレントだ。昔ちょっとあって討伐した素材が残ってたんだ。持って、少し魔力を流してみろ」

 俺と師匠の周りに結界が張られた。

 言われるままにそっと魔力を流す。持ち手の部分は吸い付くようで、持ってる気がしないほど軽く、腕の延長のようだ。

「ライト」

 杖の先がぽうっと光る。

「うわ~うわ~ありがとう!」

 両手にぎゅっと握り締める。

「これ、師匠が?」

「鍛冶師と相談してな」

 ええ、俺、師匠にどうやって恩を返したらいいの?


「弟子の面倒は師匠が見ないとな」

 照れくさそうに言う師匠が眩しい。

「それ、この間も言ってたけど、そういうものなの? ハンスは見て覚えろ的な感じだったよ?」

「あー、そうだなあ……俺の師匠が……先代のヴァンデラー伯爵だな。よく言ってたんだよ。当時は俺も若くて、やらか……色々あってな。実家と絶縁して平民になった時にあれこれと貴族から守ってくれたり、マジックバッグを作った時にも、色々便宜を図ってくれたりしたんだ」

 今、師匠、やらかしたって言ったよね?

「その俺の師の口癖が『弟子の面倒を見るのは師匠の務め』だったんだ。遺言のようなものだから俺は弟子の面倒はとことん見ることにしてるんだ」

 ぐしゃぐしゃと俺の頭を掻きまわす師匠の目の端に光るものが見えた気がした。

「ま、俺にいろいろ儲けさせてくれればいい」

 いい話が台無しだよ!


「師匠、守銭奴って言われない?」

「あ~師には言われたな。師は色々タダでやるから、そこを対価取っていたら、いつの間にかな」

「それは僕も賛成。特許の権利よろしくお願いします」

「ふ、まかせろ」


 ダンジョン町はダンジョン街になっていた。

「え~規模倍くらいになってない?」

 馬車のルーバー窓から見た街の風景はファンタジーの世界だ。冒険者らしき人たちが行き交い、にぎやかだ。広くとられた大通りは馬車もすれ違うことができる。

「鉱石が壁から採れると知られたからだろう」

「でも、あれって採れる人は採掘師だけなんだよね?」

「スキルがあればいけるらしい」

「へえ。僕は鑑定はできるけど、掘れないんじゃ意味がないしね」


 母の屋敷で、疲れをとってからダンジョンに挑戦だ!


 今回は十歳を過ぎているということで冒険者登録をしようということになった。

 冒険者登録! わくわくするな!

 母の屋敷に行く途中に冒険者ギルドへ向かった。

 テンプレとかはなくてがっかり。個室対応だったよ。

 前回みたいに鑑定をかけられたりもなく、平穏無事に登録は済んだ。

「これでギルドは三つになったんだね」

「そうだな。あとは商業ギルドくらいか」

「銀行は使えてるからいいんじゃないのかな?」

「いずれ商会を持つなら、というところだな。終わったな。屋敷に行って、明日はダンジョンだ」

「はい!」


 そして翌日、やる気満々の俺はダンジョンの前に立っていた。

 もちろん手続きはみんな師匠が済ませた。

 ギルドカードのチェックを受けていざ中へ。

 この入った時の不思議な感覚は何だろうか。

「さて、俺は一定の距離を空けてついていく。カルヴァ、ラヴァ、よろしくな」

「なんで一緒にいないの?」

「うーん、これは一種の謎なんだが。魔物を倒すとレベルが上がるんだが……ああ、レベルというのは強さだ。何らかの理由で、レベルが上がり、強くなる。それは人それぞれで、レベルの高い人と一緒にいると一気に上がったりする。でも一気に上がるのはよくないってのが通説だ」

「どうして?」

「力に中身が追いつかないんだ」

「力に振り回されるってこと?」

「そうだな。じっくり鍛えた者と、ただレベルが上がっただけの者とでは、レベルが一緒でも強さは一緒じゃないからな」

 なるほど、パワーレベリング禁止か。だから、母と一緒に行動させなかったんだな。ウォルトと距離をとったのも、そういうことだったんだね。

 でもレベルってどこを見るんだろう?

「レベルってわかるの?」

「感覚的にわかる」

「感覚的」

「上がればわかるさ。さ、行って来い」

「はい!」

 俺は暗い洞窟型のダンジョンの中を歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る