第85話 母へのバースデイプレゼント(二)
オーブン……小型炉の試し運転だ。なんかドキドキする。
師匠も一緒に見守っている。
「温度はちゃんと一定になるはずなんだ」
なんでも魔法回路で制御しているという。そういえば師匠はヒートや乾燥といった生活魔法を自由自在に使っていたな。あれ、温度設定が絶妙だった。教えてもらってたウォルトが感心していた。
「大体、八百度くらいでいいんだけど……」
扉は何とミスリル製で、ミスリルの壁面に魔法回路を刻んでいるそうだ。もちろん、見えないようにブラックボックスになっていて、見ようと分解すると、壊れて解読できなくなるという仕組みになっているから、分解するなよと注意された。
魔石は裏に着いていて、蓋を外すと魔石が三個並んでいた。中くらいの魔石で中級の魔物から採れるものだ。
形は俺が説明したとおりの四角くて開けると小型の電気炉そっくり。違いはトレーが差し込める溝が刻んであるくらいかな?
「この摘みに刻んであるところに合わせた温度で庫内が一定に保たれる。熱風が対流する感じだな」
温度は百八十度~千度まで刻んであった。百八十~三百度までは小刻みで、それ以降は百度~二百度単位で目盛りがついていた。でもこの間の温度がないわけじゃないとのこと。
凄くない?
師匠ってほんと凄い人だな!
「な、なんだ? 妙に目がキラキラしてるぞ?」
俺の興奮度に若干、師匠が引いている。
そもそも、マジックバッグ発明してたわ。この人。凄いなんてもんじゃない。
「師匠凄いね!」
まさに師匠えもんだね!
「じゃあ、試運転してみるね」
ガラスのブローチを保護の代わりのブローチの土台に乗せ、炉の中へ。
八百じゃ全部溶けてしまうから七百くらいにしてみよう。
色によって溶け方も違ったっけ?
初回だから失敗しても仕方ないと考えながら十分ほど待って、スイッチを切ってそうっと開ける。
やっぱり少し溶けすぎたみたい。ゆっくり冷えるのを待つ間に次の試作に取り掛かる。
「なるほど、色ガラスで絵のようにして、固めるって事か」
ふんふんと頷きながら師匠が手元を見ていた。師匠も興味があって、自分も作ってみたいと手を出したが、あまりうまくいかなくてがっかりしていた。おかしいな? 絵心ありそうなんだけど?
何個も作って、小型炉の使い方や問題点も書き出して、トライアンドエラーは何日も続いた。
母が帰ってくる日が来て、とりあえず小休止。その間に師匠が改良版を作ると張り切っていた。
師匠も基本、ものづくり好きだよね。研究とかも。
「元気にしてた?」
イオが駆け寄ると母は頭を撫でた。
「うん! ウォルトと頑張ってた!」
「僕も、魔法頑張ったよ! サンドストームの小さいのはできるようになった!」
「小さいの?」
母は訝しげに首を傾げた。
「成果は練習の時間に見せてもらうわね」
俺の頭を撫でて、部屋に戻っていった。
母の誕生日まであとちょっと。
魔法の練習で裏庭に。サンドストームで荒れに荒れた。あとで埋めないと。
「もっと大規模でいいのよ?」
「いろんなものが吹き飛ぶから!」
「そう? 大丈夫だと思うけど……そうね。今度ダンジョンに行きましょう。低層階ならヴァンデラー卿も許すと思うわ。ダンジョンの中なら多少無茶しても、大丈夫よ」
ほんとに大丈夫なの!?
「奥方様と話し合って、五月の三週目から二週間ほどダンジョンへ遠征だ。ゆっくりソロで、スキルを確認しながら潜ってもらう。ショートソードと魔法で頑張れ」
「母様、本気だったか~」
「貴族学院に行く前に多少レベルは上がってた方がいい。合同訓練という奴があって、結構きついんだ」
「合同訓練……軍隊っぽい」
「まあ、似たようなものかな? チームに別れて全学年で競い合うんだ。上の学年と組むから、最初の学年の時は上級生といろいろあって……」
あ、師匠がスンとなった。
「まあ、きっと大丈夫だろう」
「ほんとに思う?」
「……やらかすなよ?」
「師匠が僕をどう思っているかわかった気がする」
思わず口を尖らすと、師匠が頭をわしゃわしゃと撫で繰り回した。
「自覚ないのか?」
多少は、ある。
「えへへへ」
「貴族学院は集まる面子でかなり変わるからな。ルオの時は……あ、第二王子殿下が一緒の学年か……まあ、関わらなきゃ、大丈夫だろう。子爵階級だから、クラスが一緒になるはずはないし」
師匠、あんまりそういうことは口に出さないほうがいいよ。
「ま、ダンジョンはラヴァの目を借りて見張るから、大丈夫だ」
(私も頑張るわ!)
(僕も~!)
二人が力を貸してくれるなら、百人力だね。
そうして、母の誕生日を迎えた。
母には木箱を和紙でラッピングしてリボンをかけた。中にはルヴェール染めの布を敷いて、ブローチを入れた。
「母様、誕生日おめでとう」
プレゼントを渡すと、早速母はリボンを解いた。
「まあ! 素敵!」
そっと母はとりだしたブローチを胸へと着ける。
緑の葉をベースにピンクのバラが中央に大きく一つ咲き、周りに小さい蕾が取り囲んでいる。ちょっと大きめだけど、華々しくて母に似合う。
「ありがとう。ルオ」
チュッと額にキスが降りた。うわあ~照れる!
「なんで私の後ろに隠れるんだ?」
師匠の背中に顔を押し付けた。だって、真っ赤になってる気がするんだ!
「そこは私の後ろじゃないのか?」
父の若干寂しそうな声が聞こえた気がした。
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