第84話 母へのバースデイプレゼント
動き出したルヴェール領はばたばたと忙しい。
母も少しずつ服飾工房の方に時間をとられるようになって、魔法の指導が一日おきになった。
元の糸が足りなくなると、母もダンジョンへ行かなければならなくなった。そして今週はダンジョンに行くことになった。
「必ず、練習するのよ!」
「はい!」
母を見送って拳を握る。この間に母へのバースデイプレゼントを作製するんだ!
「うーん」
前世では小型の電気炉やオーブンとかでできたんだけど、ラヴァが踏ん張る炉だと全部溶けて混ざっちゃいそうだよな。
かといって厨房のオーブンを借りるのは憚られる。
小さいオーブンを作ってもらう……間に合わないか。
ポーションのお金があるから何とかなると思うんだけど。
「どうした?」
炉の前で唸っていたら師匠が声をかけてきた。
ブローチの概要を説明して相談する。
「だから、オーブンというか、台の上に置いて上から熱を加える小型のオーブンみたいな炉が欲しいなあって思って」
師匠は色ガラスをちりばめたガラス板をじっと見た。
「ステンドグラスだったな。教会の窓に貼ってあるみたいな感じにしたいのか? あれは鉛を繋ぎに使っているから、俺としてはあまり勧めたくはないんだが……炉ね」
師匠は顎に手を置いて考えこむ。
「この間の、剣のブローチはあれか? ラヴァを作った時のような技法で作ったのか? これはまた違った技法なんだな」
「うん。これは、ガラスの解け具合を調節して混ざり切らない感じにするのがいいと思って」
「なるほどな。いつもの炉じゃちょっとやりにくいな」
(主! 僕頑張るから!)
「あ、ラヴァが悪いんじゃないんだよ? ちょっとした方法の違いだから」
(そうなの?)
「うん。ラヴァはいつも頑張ってくれて、僕はとっても嬉しい」
(よかった!)
「わかった。何とかしてみようとは思うが、工房はどこも大忙しで、できるかどうかわからんが……」
「無理だったらいいの。なんとか、ラヴァに頑張ってもらうし」
(頑張る~~~!)
「ね?」
「わかった。とりあえず出来るか工房に相談する」
「うん。ありがとう」
師匠は忙しいのか、火の始末だけはといって、出て行った。
その後、ラヴァに火力調整を頑張ってもらったけど、溶けすぎちゃって混ざる感じだ。鉛は使わないで、黒のガラスを使う予定だから、滲んじゃうんだよな。
「もうちょっとどうにか考えようかな」
花の立体感が出ないとダメなんだよね。そこは譲れない。
溶けて融合した色ガラスを見て、ため息を吐いた。
「溶かして金属抽出してやり直しだな」
透明なガラスに戻せるのが、ファンタジー世界のいいところだ。
前世では再生ができるガラスも、再生できなくなるのがあるんだ。
それはもったいない。資源は有限だから有効活用しなきゃ。
「これはまた明日だな」
ラヴァにお礼を言って炉を落とす。戸締りをして工房を締めた。
もう、鮮やかな夕焼けのグラデーションが広がって、紺色のところには星が瞬いている。
だんだんと気温が上がってきて、夕方も寒いというより涼しい感じだ。
虫や鳥の声もたくさん聞こえるようになった。高原の気候に近いここは、夏でも涼しいけれど。
「ルオ坊ちゃま、こちらにおられたんですか? もう夕食の時間ですよ」
ローワンが探しに来て、屋敷に戻る途中で会う。
「あ、すぐ着替えていくよ」
俺は足を速め、ローワンと合流して屋敷に戻った。
ガラスと格闘して三日目。
「ルオ、ちょっと来てくれ」
工房に行こうとすると師匠が声をかけてきた。
師匠が鍵を開けて先に工房に入るといつもの炉の部屋に来た。作業台の上に、前世のスチーム電子レンジくらいの大きさの箱が置いてあった。
「これは魔石式のオーブンだ。庫内の温度が調節できる魔道具だ」
「オーブン!」
「高価だから庶民は薪オーブンだけどな」
「……僕のポーション代で分割払いで!」
「大丈夫だ。特許料で足りる」
お金はしっかりとるんだね。
「魔石は消耗品だから、使えなくなったら魔力充填するんだぞ?」
「結界に充填した時みたいに?」
「そうだ。いいか、使い方を説明するぞ」
スイッチ入れて、ダイヤルで温度調整。台になるところはトレーを入れ替えられる。
「凄い!」
「おうよ」
「あれ? もしかして、これ、師匠の手作り?」
「特許を登録するから二台作った。売れるはずだ」
もしかして、これ世界初のオーブン?
「ありがとう! 師匠!」
俺はつい師匠に抱き着いた。
「おいおい、大げさだな」
師匠は笑いながら頭を撫でてくれた。
本当に師匠と出会えてよかった。神様ありがとう!
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