第83話 領都建設に向けて

「ごめんなさい。兄様。壊れやすいからおめかしの時だけ着けるようにって言われたの」

「ううん。大切にしてくれるのはとっても嬉しいよ」

 申し訳なさそうなイオがますます可愛い。ガラス製のブローチだからなあ。付与魔法で不壊とかつけられればなあ。

 ううん、これはやっぱりもっと魔法を学ぶ必要があるよな。何でもかんでも師匠頼りじゃ弟子が廃るし。

 頑張ろうっと。

 五月は母様の誕生日だから母様にもブローチを贈ろう。お花のブローチとかいいかな。フュージングとかで立体的に作って、ステンドグラス風にしてみるといいかも。

 よし。


 農業師さんたちを集めた会議にこっそり出席。

 いや、別にこっそりじゃなかったんだけど、会議の内容はどの作付けを増やすかで喧々囂々。

 酒に振り切っている人と、そうでない人たちのガチバトル。

 休憩に入って、お昼がエリックから饗される。

「うめ―!」

「さすが領主様の料理人だ!」

「俺の育てた野菜が、こんなに美味しく!」

 うん。大好評。


 俺は神業農業師さんに声をかけて、裏の農場を見てもらい、作付け計画を立てることに。師匠がまず、神業農業師さんに相談しろといったからだ。

 師匠も一緒に、雪解けでぬかるんだ道を歩く。

「ここ、舗装した方がいいかな?」

「石畳とかか?」

「うん」

「一時的なものですから大丈夫ですよ?」

 神業農業師さんがにっこりして言う。いや、足元足元! 土精霊さんが足浮かせてるから!

 ほんと、土精霊に愛されてる人だなあ。


「それで、お酒用のコメを多めに……んん??」

 農場にそろそろつくはずなんだけど、なんか、広大な土地が広がってるんだけど、なんだこれ?

「はあああぁぁ?」

 師匠が目を見開いて叫ぶ。

「ずいぶん、広く開拓しましたね?」

 神業農業師さんはほんわかのんびりと、知らない間に広くしたんですね、的な顔で俺を見る。

「いや、知らない! 僕、こっちまで除雪してないから!」

『コメがたくさん必要だと思って広くしておいたよ』

 精霊王様ああああああ!!

 俺は地面に手をついて震えた。


 森は動くらしい。徐々に山の方に後退したんだって。そして土精霊さんたちがぴょこぴょこ顔を出している。うん。もう、豊作は決まったようなものですね。

「僕は、トマト推しだからいろんな状況に適応するトマトを作って欲しいかな? 生食で甘くて美味しいのとか、煮てソースにするのに適してるのとか」

 これからトマトを普及させるには大量に作らないといけないのだ!

「わかりました。お酒用のコメを多めに、トマトをその次に、そしてコーンは例年通りでいいですか? ジャガイモは村の方で作るようになりましたので」

「あ、コーンも、村の方で作付け増やすようなんだ。だから、種は村の方に卸すから、こっちは少なめでいい」

 師匠が手をあげて付け足す。

 そういえばポップコーンが村の酒場で大流行りだった。

「砂糖大根は品種改良できたの?」

「もう少しですね。少し作付け増やしていいですか?」

 俺は広大な土地を見て頷く。

「必要と思われる分は増やしてもらってかまわないよ?」

「そうだな」

 師匠も広がった土地を見て頷いた。


「あ、僕、大豆、作って欲しい」

「あの青い豆を作るのか?」

「そう。うちの村ってあんまり大豆作ってないから、広くなったらこっちで作ってもいいかなって」

「わかりました。大豆の種も用意してもらっていいでしょうか?」

「わかった。じゃあ、戻ろうか?」

 師匠が先頭を切って屋敷に戻るように促した。

 時折刺すような視線が俺に来る。

 違うじゃん! 今回やらかしたのって精霊王様じゃない?

 俺じゃないのに~~~~!


 屋敷に戻ったら、会議が再開。痛み分けで終わった会議の後、俺と師匠と父とで会議だ。

「農場が広くなっている?」

「ええ、広大になっています」

「広大?」

「見に行きましょう」

 師匠が父を農場へと連れだした。百聞は一見に如かず。父はあんぐりと口を開けていた。顎落ちそう。

「精霊王様が広くしといたから、コメ作ってね、だって。多分、コメのお酒をお供えしろって事なのではと思うんだけど」

 俺は精霊王様の言葉を伝えた。

 父は頭を抱えた。

「コメの作付は増やすんだな?」

 俺は父の言葉に頷いた。

「農業師さんにお願いしたよ」

「なら、酒の仕込みを増やさないとならんな。醸造所をもっと広くして、貯蔵庫も増やさないと……」

 頭を押さえつつ父は現実に戻ってきた。

「よし。ヴァンデラー卿、力を貸してもらいたい」

「わかりました」


 そして、醸造所をもう一つ作り、倉庫も増やすことになった。それは、本格的に領都の建設を始めるのと同時だった。

 マジックバッグに入れた村の建設資材を、職人村まで運び始めた。建設工房の面々はすでに出発したらしい。

 村は総出で畑仕事を始め、土精霊が畑に顔を出す。

 雪一色だった景色が新緑へと変わり、季節は春から初夏へと向かっていった。

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