第82話 春の足音

 毎日降っていた雪が一日おきになり、吹雪くような日はなくなり、晴れる日も増え、段々と積もった雪の高さが低くなってきた。

 雷が時折鳴り、雪ではなく雨が降り始めて、凍り付くような寒さが和らいでいき、芽吹きの季節を迎える。

 春だ。


「やった! 雪かきはもうお終いだ!」

 すっかりぬかるみに変わった地面を見て小躍りした。

 そして春といえばイオの誕生日だ。

「次は待ちに待った土魔法の訓練よ。風も同時に練習しましょうね」

「ア、ハイ」

 スンとなった。サンドブラストに近づいてるからいいのだろうか?

「母様、魔法を使う時、増幅するようなもの、使わないの?」

「ああ、発動体ね。使ったり使わなかったりね。それが合ってる人はいいけど、あれにも相性があってね。相性が悪いと素で使った方がいいのよ」

「そうなの?」

「発動体は指向性を持たせるのが一番の役割だから、的当てとか苦手な人は使うわね。貴族学院では的当ての試験もあるのよ。でも、急にどうしたの?」

「サンドブラストは棒のようなもので指し示して使った方が効率がいいかなと思って」

「そのサンドブラストはどういう魔法をイメージしてるの?」

「砂を高圧で噴き出して。物の表面を削って絵を描く」

「……攻撃魔法なのよね?」

「うん? どちらかというとものづくり魔法?」

「そんな魔法、あったかしら? サンドストームっていう土と風の複合魔法なら知っているけど」

「母様! 教えて!」

「じゃあ、次回ね」

「はい!」

「……なんだか今までにない前向きな返事ね」

「? なんか言った?」

「何でもないわ。じゃあ、屋敷に戻りましょうか?」

「はい!」


「魔法の発動体が欲しい?」

「やっぱミスリルかな!?」

「そんなわくわくした顔をするな。素材は木も多いぞ。トレントとかな」

 あーやっぱり木か。某魔法使いの話も木の素材だった気がする。まあ、あれは小説だったけど。

「そうなの? 母様は合う人と合わない人がいるって言ってたけど」

「ああ、そうだな。出来合いなら。素材の段階で確かめれば済むことだろう? この領は素材の宝庫だし」

「そうなんだ?」

「発動体くらい作ってやるよ。俺は錬金術師なんだぞ?」

「いいの!?」

「まあ、誕生日もあるしな」

「やったあ!」

「あとポーション五個な」

「はあい」

 俺はポーションを慎重に製作した!


 今日の日課は終わり! 自由時間だ!

 もっと遊ぶ時間あってもよくない? ほぼほぼ勉強と修行だよ? どういうこと?

 工房の炉のところに来てガラスを溶かす。

 炉に来るとすぐにラヴァが炉の中に入ってガラスを溶かしてくれる。

「ありがとう、ラヴァ」

(むふ~)

「ちょっと金属の粉を入れるからぱちっていくかも」

 ソーダ灰ガラスから酸化鉄を抽出してから、金属の粉を混ぜる。一緒に溶解していくと冷えた時にガラスの色がつく。

 それを鉄の芯の先に着けてピンセットで形を整えていく。

「よし!」

 あとは仕上げに台座にのっけて、ブローチの出来上がりだ!


「ルオ、ここにいたのか? 一人で火を使うのは危ないだろう……これは?」

「イオへのプレゼントだよ! ブローチ!」

「へえ、喜ぶと思うぞ? さ、火を消して屋敷に戻ろう。夕食だ」

「はい!」

 徐冷庫に入れて師匠と一緒に食堂に向かった。

 エリックの作る料理は日増しに美味しくなっていくんだ! ほんと凄い。


「雪が解けたので、農業師たちが作付けの確認に来るが、ルオも参加するか?」

「神業農業師さんも来る?」

「ああ、来るぞ?」

「参加する!」

 トマト増産計画発動するんだからね! は、トマトには欠かせないもの、あったよね?

「わかった」

「師匠、また、欲しいものあるんだけど、油が取れる実で、緑色か黒い色の実ってある? それって手に入れられないかな?」

 魔法の杖を頼んだ上に図々しいかな?

「ん? あ、あの油っぽい実か? よく、スライスして酒のつまみにしてたな」

「知ってるの?」

「南の特産だな。実家の領でも作っていたよ」

「ほんと?」

「それなら商人に頼んでおくよ」

「ありがとう! 師匠!」

 オリーブ! トマトにはオリーブだよ!

 楽しみ!


 そしてイオの誕生日。

「はい、プレゼント」

「ありがとう、兄様!」

 小さな木箱にリボンをかけて渡した。すぐイオはリボンを解いて木箱のふたを開けた。

「これは、剣?」

 柄は青、剣の部分はうっすらと黄色いガラスに銀を散らした。柄の部分の青と少し、グラデーションになっている。

「剣の形のブローチ! ガラスだから、割れやすいから気を付けてね」

 ブローチを取り上げて胸に付ける。

「どうかな?」

 俺は離れてイオを見た。うん。可愛い。

「母様! 剣!」

 イオが母様に寄っていって見せる。

「そうね。とっても似合っているわ」

「似合ってるぞ、イオ。よかったな」

 父も褒めた。イオがぐるぐると、師匠や、エリック、ローワン、ネリアに見せていく。

 みんなに似合うと言ってもらってすごく嬉しそうだ。

「兄様! 大切にするね!」

 満面の笑みでそう言った天使に俺は胸を打ち抜かれた。

 作ってよかった!



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