第80話 新年と父の誕生日
師匠がものすごく忙しそうにしている。
「誰のせいだと思っているんだ? ああ?」
ごめんなさい。
とりあえず謝っておこう。
「鏡の作製と、酒関係で大変なことになってるんだからな」
(お酒といえば、コメのお酒、そろそろできそうよ)
「なに!?」
やっぱり師匠はお酒好きだよな。
「やっぱり師匠が初めて口にするのがいいと思うよ」
俺はそう師匠に言った。ちょっと頬染めて嬉しそうにしていた。
サンドブラストは間に合わないから、和紙のラベルにしようかな? コメで糊作って、貼ればいいよな。
赤い塗料になる石のサンプルを使おう。膠はエリックにもらえばいいか。錬金術で抽出できるか試させてもらおう。土色と、赤と、カルヴァは髪は白で、目が金だから……金箔で!
土の精霊とラヴァと、カルヴァを描くんだ。精霊が作ったお酒だもの。
シルエットなら、問題ないよね。
瓶は煮沸消毒して乾かして……浄化でもいいのかなあ。
蓋はコルクでいいか。
俺だって、抽出、加工はできるようになってるし。
錬金術師ってすごい職業だよな。
ああ、冷酒を飲むには切子細工のお猪口がいいよな。
今回は間に合わないけれど、いずれは作りたい。まだまだ、いろんなことが足りてない。
ガラスにしても、自分自身にしても。もっともっと、いろんな技術を高めていかなければ。
醸造所までの道は常に俺が雪を除雪しているので、普通に歩ける。ただ、凍るのは仕方ないので、気を付けて歩いてもらう。
酒粕が出るなら甘酒ができるね。粕漬や調味料にも使えるかも。
エリックならきっと『ピピッと来ました!』って美味しく調理してもらえる。
醸造所には醸造師の皆さんが藍染めのハッピ姿に長靴でいた。
だってね、杜氏といえばこの格好でしょう! 母に言って作ってもらいました。マスクも。
入口で全身に浄化をかけて中に入る。靴も履き替え。マスクをして髪も覆う。
布に入れられたもろみが吊り下げられた下のタンクに透明なお酒がなみなみと入っていた。
柄杓でそれを掬って、木のコップに注いでくれた。
師匠がそれを受け取って静かに口を付ける。
「……!……」
何も言わないので醸造師の皆さんが不安げな表情をしている。
俺が肘で師匠をつつくとはっとした顔で残りのお酒を見つめた。
「甘い水みたいで、それでいてすっきりとした味わいが喉を通る。酒精が高いのか、喉が熱くなるがそれもまたいい。ドワーフに飲ませたらあっという間に飲みつくされる。これは献上品だな」
ほっとした表情の醸造師たち。
俺は持ってきた瓶にお酒を入れてもらおうとした。師匠に止められる。
飲まないよ!
「これは精霊王様に献上するのと、父様と、師匠の分だよ」
「俺の?」
「遅くなったけど誕生日プレゼントだよ!」
「俺、の?」
「僕、工房貰ったでしょ? お返しのお誕生日プレゼント! 来年はちゃんと師匠の誕生日に贈るよ」
切子のお猪口をね!
「お、おお? あ、ありがとう」
「ちゃんとリボンとかつけるから! あと、このお酒は冷やして飲んだ方がいいよ。あ、でも外置いちゃうと凍っちゃうからそれはダメ」
なんでそんなこと知ってんだよという目はスルーして、カルヴァに向く。
「ありがとう」
(いいのよ! このお酒は素晴らしいわ!)
「その布の中のもろみは食べられるから厨房に運んで欲しいな」
「食べるのか?」
「そのものは食べないかも? 飲む?」
師匠は苦笑していたが、甘酒や酒粕につけた肉などを食して驚いていた。
エリック! いい仕事した!
精霊王様にはカルヴァに届けてもらうことにした。今、村の教会には行けないからね。
そして新年。日が変わると新年を知らせる鐘が鳴る。神に新しい年の始まりを感謝して夜通し飲むらしい。大人って……。子供はぎりぎり起きているかどうか。
今年は参加させてもらった。十歳になったからだって。イオは早々におやすみした。
「父様! 誕生日おめでとう!」
木箱に入れたお酒。木箱をリボンで結んである。
「ありがとう」
父様、めっちゃ嬉しそう。
「これは……」
「こちらがコメのお酒の初しぼりです。こちらはジャガイモの蒸留酒です。ルオがご当主様に飲んでほしいからと」
師匠が解説してくれた。
七百二十ミリくらいの日本酒の瓶と、洋酒の瓶。ラベルは同じラベル。お酒の名前だけが違う。
「これは和紙を張ってあるのか? この絵は?」
「僕が書いたんだ。精霊さんだよ」
「ルオは絵が上手いな」
「えへへ~」
褒められて照れる。
「大切に飲んでね! おやすみなさい!」
子供は寝る時間だもんね!
その朝、ほとんど残ってないことが発覚。
みんなで飲んだんだって。
嬉しそうに注いで回ったっていうから怒れない。飲んだ人みんながコメのお酒の美味さに感動してたっていうのは師匠情報。
「これはがっぽがっぽだな!」
師匠のがうつってない? 父よ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます