第79話 母が立ち上がった!

「なぜルオはこの母と距離をとるのかしら?」

 母が急に変なこと言いだした。

「イオも最近はウォルトとばかり遊んでいて」

 遊んでるんじゃなく、剣の稽古だと思う。

「ヴァンデラー卿から聞いたの。砂の魔法を習得したいって」

「ア、ハイ」

 サンドブラストを習得したいだけなんだけど。

「まかせなさい! この母が指導しましょう」

 え、待って、今吹雪いてるよ!

「あれ?」

「結界に似せた風の盾よ」

 玄関を大きく勢い良く開けた母に吹雪が吹き込んでくるのかと焦ったのだが、空気の膜みたいなものが風も、雪も阻んでいた。半円形のそれが母が動くたび、前へ進んでいく。

「凄い!」

「ほほほ。そうでしょう、そうでしょう! 母は魔法師なのだもの!」

「そういえば師匠がそんなことを……」

「言ったでしょう? 王妃様に師事していたと。魔法は得意なのよ。貴族学院を卒業して一年で結婚してしまったので、就職も何もなかったのだけど、王妃様から宮廷魔法師にならないかと声はかかっていたのよ」

「なんでならなかったの?」

「ふふ、旦那様のほうが大切だったからよ」

 ごちそうさま!


「さて、貴方にはまず、この盾を習得してもらうわ。そして、屋敷の周りの雪は全部、貴方が溶かすのよ」

「はい?」

「魔法はね、使わないと上達しないの」

「うん」

「だからよ」

「砂の魔法を……」

「まずは魔法をうまく使えないとダメなのよ? 一に魔力制御、二に魔力制御よ?」

「ア、ハイ」

「さ、盾を出してみて?」

「詠唱……」

「魔法はイメージよ?」

 あ、母は天才型だった。

「それに詠唱はヴァンデラー卿にもらった呪文大全に有ったのじゃないかしら? これは風の防御魔法の初級ですもの」

「え、初級!?」

「何事も使いようなのよ?」

 ええと、初級、初級、風の初級……あ。

「風の盾よ、顕現!」

 ふわっとした感じの盾が出現した。

「合ってるわ。ルオの盾だけど、風が吹いても壊れちゃうわね」

「うう……」

「魔力を込めてみましょ?」

「魔力を込め……あ」

 ぱりんと盾が割れてしまった。

「はい、もう一回」

 割れた。

「はい、もう一回」

 それを何十回も繰り返してできたころには俺はへとへとになっていた。

「さ、じゃあ、私の盾を解除するから、この玄関周りの雪をなくして見せなさい」

「は、はああ?」

「返事は、はいよ?」

「はい!」

 鬼!


 まあ、吹雪なので、溶かしても全然なくならないんだけど。


 雪を溶かすマシーンと化していたら、師匠が呼びに来た。

「もう休め。お昼の時間はとっくに過ぎているぞ」

「玄関の周りの雪を無くさないと母に怒られる」

「もういいわ。ご飯を食べなさい」

 まったく吹雪が収まらないのでどうにもならなかった。

「はーい」

 体が冷えなかったのはラヴァが温めてくれてたからだった。ありがとうラヴァ!

 大好きだ!

(主、僕も好き!)


 お昼を食べてる時にうつらうつらして寝てしまった。

 久しぶりに魔力が枯渇しそうになってた。


 母はそれくらいしないと訓練になりませんと言っていたそうだ。

 父といい、母といい、子供の体力考えて! 俺まだ小学四年生!


 目が覚めたら自室だった。

「起きたか? 奥方様はご当主様に叱られてる最中だ」

「え? 母様が?」

「ルオが魔力量が多いのはわかっていたのに、寒い中、何時間も外でやらせていいわけないだろうって。普通はな、あんなの出来ないんだよ。二重に魔法使うのはそれこそ魔法学院に行ってからだ。貴族学院で魔法が特にできるやつが行くところだ」

「そういえば母様は結婚しなきゃ、宮廷魔法師だったとか」

「ああ、王妃様に師事していたとか聞いたな。王妃様は優秀な魔法師だった」

「知ってるの?」

「貴族学院で会ったことがある。その後教師になったって噂を聞いた。俺は魔法学院へ行ったから、それほど顔を合わせてはいないんだが」

「そうなんだ……」

 王妃様と面識があるんだ。そうすると、王妃様と師匠は同い年なのかな?

「あのね、母は天才型だと思う。魔法はイメージって言いきったし、詠唱もなかった。自分ができるから、できないわけはないって思うと思うんだ」

「それは、ご当主様がルオの剣を鍛える以上に危険だな」

「でも、おかげで魔力制御の熟練度上がった気がする」

「服飾工房のほうがひと段落ついて暇になったと言ってたからルオの魔法を見てもらえるか頼んだんだが……魔法師なのは知っていたし、あの魔物を狩ってこれる実力だから心配ないと思ったんだが……カリーヌってすごかったんだな」

「うん」

 俺と師匠は遠い目をした。


 父が母に聞いたところによると、王妃様の指導法があんな感じだったらしい。

 スパルタなんだ!

 とりあえず、俺は雪を溶かす仕事を冬の間にすることになった。

 時間を決めて、ちゃんと防寒具を着ることが条件だ。

 そして、魔力制御が一定のレベルに達したら、また違う魔法の指導をする予定だって母が言っていた。

 父が頑張って説得したらしい。

 雪かきは毎年のことなので、気にしないけどね。


 一冬頑張れば、サンドブラストにたどり着けるのかな?

 土が見えないと、砂の魔法って使えない気もするしね。



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