第78話 報連相

 結局、父に盛大にため息を吐かれた後、鍛冶工房へこういうの作ってくれと依頼をかけることにした。師匠が魔道具関連の資料をあさって、似たような動作をする魔道具を選び出してつなげることにしたらしい。

 とにかく思いついたら報告・連絡・相談しろと。

 前世も今世も報連相は大事なんだね。


 それからは座学と剣術、魔法実技、ポーション作りが日課で、時々ガラス関係が冬が本格的になってきた十二月の日課だった。

 雪がちらちらと降り始めると一気に世界は白い景色に変わる。

「雪!」

「雪だね!」

 イオが雪を掌に受け止めて消えるのを見つめて声をあげた。俺も頷いて両手で雪を受け止める。剣? 置いた。

「あーこりゃ、吹雪きそうですね。今日の訓練はここでおしまい。剣を片付けて、屋敷に戻りましょう」

 ウォルトが、空を見上げて言う。

 確かに舞い降りる雪の量は増えて、景色も霞んで見えた。


「さむ! 工房から屋敷までの短い距離なのにこんなに雪が」

 雪だるまな師匠が俺たちの後に玄関の扉を開けて入ってきた。

「ヒート、乾燥」

 師匠の周りがあったかくなって雪が解けて、濡れた服もあっという間に乾いてしまった。

「師匠、凄い!」

「そうか? 生活魔法だぞ」

「え、俺も覚える」

 ウォルトが素で呟いた。そして師匠が教えていた。

 エントランスでわちゃわちゃしてたら、ネリアに怒られた。

 その場から速やかにみんな自室に戻っていったよ。

 その日はずっと雪が降り続いてあっという間に一メートルくらい積もってしまったのだった。

 翌日は総出で雪かき。窓から出たり、師匠が雪除けの間から魔法で溶かしてから外に出るとか苦労したけど、とりあえず、扉がちゃんと開閉できるようにしたよ。


 本格的な冬が来た。しばらく村に行くのはお預け。雪かきと屋敷の中でできることをする。

 村の人たちは外での活動ができないので、内職のような冬の手仕事をするようになった。

 もちろん醸造所の人達は常に働いてるし、職人村の人達も大忙しだ。

 でも、普段、農業に携わっている人たちはあまりやることがない。俺としては繁忙期に目一杯頑張ってるんだから冬の間は休んでもいい気がするけどね。

 うちの領民は勤勉なのだ。


 冬が厳しいルヴェールだけど、鍛冶工房ができて薪ストーブの設置が可能になったんだ。暖炉よりずっと暖かいから集会所などにつけて、昼間はそこで過ごすらしい。

 うちも薪ストーブが設置されて、居間とかで過ごす時間が多くなった。時々、ラヴァが中に潜りこんで気持ちよさげにしている。

 やっぱり火があるところが好きなんだね。


 こうして寒いと、お風呂入りたくなるなあ。薪とか水とかの問題もあるけど、ぶっちゃけ、魔法でできない?

 トロナ鉱石があるんだから石鹸も出来そうだし、ヒマワリ油で作ったりも出来そう。

 温泉ありそうだけど、きっと山奥とかなんだろうな。


「お湯に浸かりたい?」

「うん」

「水浴びは……」

「この寒いのに水浴びって、凍死する」

「……まあ、な」

「お湯じゃなくても蒸し風呂とかでもいいけど……蒸し風呂のほうが大変そうだから、とりあえず桶のようなのにお湯を入れて浸かりたい」

「別にクリーンや浄化で汚れは落ちるが……」

「違うの! お湯に浸かりたいんだってば!」

 師匠が俺の勢いにびっくりした顔をしている。あ、いきなり叫んで悪かったかな。この世界の魔法は便利だけど、便利すぎて、つまらない時がある。

「桶があればいいのか?」

「僕が手足伸ばして浸かれる感じの」

「もう少し早く言えば、木材を用意したんだが」

「あー……」

 俺は窓に叩きつけられる雪の音に何とも言えない声を出した。


 お風呂は春に延期だ。

「そういえば、前に、神業農業師さんが冬は暇で暇でって言ってたんだけど、領都を作る建材ってこれから用意するの? 用意するなら、暇な農業師さんたちに手伝ってもらえばいいのに」

「農業師に?」

「木工とか、するって言ってた」

 いわゆるDIY?

「ああ、農業師も戦力としてカウントするのか。しかしな、今は無理だ。なぜ早く提案しなかったんだ?」

 師匠が頭に手を乗せて俺の頭を揺らす。

「え~? 今思いついたし、出来ることは父様がやってると思って……」

「……まあ、俺に言ってきたのは成長と見做そう。冬の手仕事を与えるということだな」

「女性たちはもう、色々と母に無茶ぶられてるみたいなんだよね」

「問題は男性か」

「お酒飲んでるしかないかも?」

「それは羨ましい」

 本音が出てるよ! 師匠!

「ところで呪文はどれくらい覚えたんだ?」

「え、その、ほら」

「明日までに、ここからここまで覚えて、裏の庭で実演だ」

 呪文大全の約十ページ分を師匠が指定した。座学の最中に言い出したのが悪かったみたいだ。

「兄様なら覚えられるよ!」

 算数を頑張ってたイオに励まされた!

 頑張っちゃう!


 結局は五ページが限界だった。でも、頑張った。イオはちょっとがっかりしてた。

 が、頑張ろう……兄の威厳が台無しだ。

 サンドブラストはまだ見つかっていない。

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