第77話 サンドブラストォ!

「サンドブラストォ!」

 ……うん。知ってた。

 うんともすんとも言わないなあ。

 俺は裏庭で、魔法でサンドブラスト技法が再現できないかとりあえず、術名として呟いてみた。

 唸ってる俺のこめかみをぺちぺちとラヴァが叩いてくる。

(主! 炎~!)

「はいはい」

 師匠に聞けば知ってるかな? あ、呪文大全を見ればいいのか。あれ分厚いから初級で挫折……いや、そこまでしか見られてないんだよなぁ!

 実際、砂を吹き付ける技法だから、手や目を保護しなきゃならないし、コンプレッサーとか必要なんだよな。高圧で砂を指に吹き付けたら大変なことになるしな。

 ノズルとかもだし、機械に取り付けるホースとか、どうなるの? 俺、仕組みとか知らないよ?

 魔法でうまいことできないかな?

 師匠は岩を出現させたりしてたから、砂関係の魔法とか、知ってるよね?


「砂の魔法? あったかな? 土魔法とかであるんじゃないのか? 俺は使ったことないけど、砂漠の国とかありそうだぞ」

 知らなかった!

「砂を操ってどうするんだ? 目潰しくらいにしか使えないだろ?」

(主! 僕頑張ってる!)

 ラヴァが炉で踏ん張っている。ガラスの粉を溶かしてもらっているのだ。

「ありがとうね。ラヴァ」

(!)

 嬉しそうな気持が繋がりから流れてくる。もう、ラヴァ可愛い!

 父に贈る誕生日プレゼントを作ろうと思ったのだ。前に、コップを家族全員に贈ったけれど、あれはもう、初めて作ったし、型で作ったから俺としてはいまいちなのだ。いや、いまにかな?

 父はお酒が好きだし、父の誕生日までは初しぼりの米のお酒ができそうなんだよね。

 それを俺が作ったガラスの瓶に入れて贈れないかなと思って。蒸留酒もジャガイモの蒸留酒ならすぐ飲めるからそれも一緒に贈りたい。

 お酒って言えば師匠も好きだよなあ。カルヴァがとりつくくらいだもんな。

 カルヴァドスとか、まだ全然年数が足りてないけど、楽しみにしてるし。

 あれ? 師匠っていつ誕生日? 


「俺の誕生日? なんだ? 今さら。まあ、いいが。十月二十七日だ。ちなみに三十五歳になったな」

 もう終わってるよ! 今十二月に入っててもう雪降りそうなんだけど!

「師匠、おじさんに……」

「なんだとぉ!」

(あら、見かけは変わってないはずだけど)

「ん?」

(むしろ若返ってると思うけど?)

「んん?」

「師匠、ここに、試作品の鏡が」

「ああ、ありがとう。……え? 俺、こんな顔?」

「どんな顔なの?」

「あー、母に似た顔だな。父に似なくていいとは思っているが……俺の髪の色は父譲りだ。目の色は母譲りだな。……二十代前半ぐらいに見えるな」

 いつも、髪ぼさぼさだからわからないけど、正装したらめっちゃイケメンだもんね。

(精霊と契約すると、見た目が老化しにくくなったりするわよ。契約者には長生きしてもらいたいし)

「え、僕は!?」

 背が伸びないとかそんなことは!?

(主ちゃんと成長してる)

「よかった~!」

 あ、師匠が床に手を着いている。

「マジか……」


 新事実が判明し、師匠がカルヴァと話し合いをしている。

 その間に俺は吹きガラスを作る。

 小型の器具を作ってもらったのだ。長さは熱気との関係であんまり短くできないけど、子供の俺でも楽に扱えるものにしてもらった。

 日本酒の瓶に似せて作ったのと、洋酒の瓶に似せて作ったのを二組。

 徐冷炉に入れてゆっくり冷やす。

 一組は師匠にだ。

 師匠と出会ったから、こうして吹きガラスも出来て、米も食べられる。

 俺は師匠に返しきれない恩があるのだ。

「だからやっぱり、サンドブラストなんだよな」

 ぼそっと呟くと師匠が飛んできた。

「何がしたいのかつまびらかに説明しなさい」

 あれ? 説教モード?


 詳しく白状させられて、師匠預かり案件になった。

「ドワーフの工房と相談するのと、ハンスたちにも相談しないといけない案件だろう? それから当主様にもだ」

 あ、父のこめかみの怒りマークが目に浮かぶ。

 どうしてこうなるのかな。前世の記憶のせいかな?

 記憶と感情だけが今は残っていて、この俺はこの世界の等身大のフルオライトだと思うんだけど。

 ガラスに関してだけは自重できないから、無理かな。

 ごめんなさい、師匠、父。

 これからも迷惑かけます!


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