第76話 醸造所・酒蔵の完成
「お酒のために泉を掘るとは、いったいどういうことなんだ」
「僕が聞きたいけど」
ちらっと師匠の傍にいるカルヴァに視線を送るが師匠の背中に隠れてしまった。まあ、父には見えないんだけど。
「その、当主様、泉の側に醸造所を建ててはいかがですか。倉庫をすぐに増設するわけではないんでしょう?」
「いや、あそこはただの空き地だが」
「ん?」
師匠の目が俺の方に向けられる。俺は視線を逸らして口笛を吹いた。音は出なかったけど。
「では、そこに建設しましょう。ドワーフの建築工房なら、酒のためだと言えばあっという間に建ててくれます」
「確かに彼らなら仕事が早いが……なぜ泉を掘ったのかという問題はまだ……」
「新しいコメの酒には水が必要だと話していたら、何故か、水が湧き出てしまったのです」
「ヴァンデラー卿、それは本当かね」
「はい。精霊王様の祝福かもしれません」
きりっとした顔で師匠が言うと疑わしげに俺を父が見た。
「本当だよ! 水が噴き出してびっくりしたんだから!」
「……わかった。ヴァンデラー卿、ドワーフの建築工房に依頼を出してもらえるだろうか? 中の間取りとか、器具の関係はヴァンデラー卿がくわしいのだろう?」
「わかりました。承りましょう。設計や見積もりが出ましたら報告します」
「よろしく頼む」
それからあまり日が経たないうちに俺の工房を作ってくれた建築工房がやってきた。
「おっしゃー! 酒の醸造所だ! 気合い入れてかかれ!」
そして、外枠ができると、出来上がった醸造のためのタンクやら何やらが運び込まれ、セッティングされていく。
泉は周りを神殿のような建物に覆われて、神秘的な乙女が水瓶を傾ける彫像の水瓶部分を湧き出た水が通り、下に置いた水瓶に流し入れる構造になった。
水瓶が溢れるくらいにたまると、配管を通り、畑の灌漑水路を流れ、森の近くを通り、河の水源へと合流するようにした。
家で使う水も、この湧き水から採るようにしたら飲み水も料理ももっと美味しくなった。
さすが水の精霊の出した湧き水。
祝福の泉。
水の上位精霊の祝福した清水が湧き出る。味は甘露。浄化、回復の効果あり。酒に使うと最上級の酒ができるはず。いい仕事した。
んん?
「し、師匠、この泉、鑑定した?」
「してないが……」
あ、師匠が崩れ落ちた。
「秘密だ。鑑定弾く魔道具おいてやる。結界もだ!」
あ、師匠がキレた。
(ししょう、最近、いらいらしてる?)
「そうだねえ。なんでだろうねえ。……忙しいからかなあ?」
ラヴァが頭の上で俺を覗き込む。可愛い。
(え、私? 私が悪いの? ちょっと待って、美味しいお酒が飲みたいって言ってたじゃない~)
カルヴァと追いかけっこしてる師匠。若いなあ。
そして、醸造所が完成!
カルヴァ監修のもと、醸造師の職業を持ったものを雇い入れて仕込みを開始。もちろんカルヴァの代わりに師匠が指示。
もろみとかの時に光ったりするのはみんな見えてないみたい。
俺の目にはお酒の精霊の大群が見えているのだけど。
そうして、大事になったコメのお酒は冬直前でようやっと、仕込み終わったのだった。
醸造師はお酒の様子を時々見なきゃいけないので、醸造所には宿泊できる部屋が作ってある。冬の間は交代で泊まるとのこと。
大雪の時は使用人の部屋に泊まって仕事することになった。
結局いろんなことがあって、ガラス工房へは、冬前に行けなかった。それでも、試作品の瓶や板ガラスが届けられ、それは工房に飾ったのだった。
そうだ、瓶にラベルが必要だよね。ルヴェールだってわかるのがいい。
サンドブラストは?
あれなら、真似されないし、溶かしちゃうと再現できない。
よし、サンドブラスト、何とか実現しよう!
寝る前にラヴァが顔を覗き込む。
(主! 最近かまってくれない!)
「そ、そう?」
(ちゃんと主の役に立ちたい!)
そういえば炉に最近入ってもらってない。
「明日にでも、炎を出してもらおうかな?」
(やったあ!)
「ふふ、じゃあ、おやすみ」
(おやすみなさい)
魔力が抜け出る感覚がして、俺は眠りに落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます