第75話 日本(コメ)酒造りに向けて
ダンジョンの資源の件は他のダンジョンで見つけたぞー! をやらせた後で、うちでも出たぞ、とこっそり声をあげてから、細々と掘り進める予定だそうだ。
なんでも、採掘師もしくは上位の鑑定を持ったものでないと、ダンジョンの壁はダンジョンの壁なんだって。
これから採掘師は大もてになると言っていたけど、ドワーフに多く出る職業で人族に出ると光神教では蔑まれるのだとか、そのため、隠して移動して絶対言わないからどうかなと言っていた。
その職業で食べていくには鉱山に行くので、鉱山はもちろん重要な採掘師は手放さない。
ドワーフはドワーフで結束が固く、人族からの依頼は選ぶ。気に入らない依頼は絶対に受けないし、受ける義務もないので、動かないかもしれないということだ。
「ヴァンデラー卿には恩義があるし、ここの酒は美味いから、ルヴェール領の依頼は大歓迎だぜ」
調査に当たったドワーフ軍団はそう言って帰っていった。
師匠、なにしたんだろう。
放浪してたっていうし、その旅での事かな?
そして、掘った鉱石でいまいちわからない鉱石を鑑定するのが俺のお仕事だった。
俺だって、そう詳しいわけでもないし!
そして今更ながら、俺の石拾いコレクションが役に立つ時が来た。
石の標本を作ったのだ。名前と特徴をカードに書き、木枠で作ったものに小さく砕いたものを並べてそこに貼ったのだ。ダンジョンから採れた物も一緒に名前を書いて展示する。
「なるほど」
「ある程度はこれでわかるよね!」
「ある程度はな」
結局わからないものは鑑定して逐次追加だそうだ。
ガラスケースで展示すると綺麗かな? 前世であった美術館や博物館のように。
それには薄く、強度が高い板ガラスが必要だな。
まだまだ、俺の夢には遠い。
は~ガラス作りたい。
(ねえねえ、まだなの? 新しいお酒、まだ?)
「師匠……」
カルヴァの催促に俺は師匠の顔を見る。師匠の眉の間に皺が寄っていた。
「道具がまだできていないし、新しい醸造所、どこに作るか当主様が悩んでるんだよな。水が必要なんだろう?」
「いつも石拾ってるとこの近くとか?」
「あの河原の側か……反対側はなだらかな斜面で森だったな……屋敷の側は建物作るほどの敷地はないし……」
「ん~」
(水がないからダメなの?)
「お酒の味は水に左右されるくらい、味に違いが出るらしいよ? 霊峰から流れる河の水は美味しいから問題ないと思うんだけど、水を汲みに行くのが遠かったり、新たに水を引くための灌漑水路が必要になるだろう? そうすると色々大変なんだよね? 師匠」
「……そういうことだ。水を引くための道が必要だし、その道が問題なく作れる場所じゃないとな」
(そうなの? わかったわ)
カルヴァが消えた!
「え、消えた?」
「え?」
師匠も戸惑っている。
「とりあえず、米の様子でも見に行くか」
「そうだね」
俺たちは倉庫にやってきた。トマトの苗は神業農業師さんに預けてあるからここにはない。
麻袋に詰まった米がどーんと積み上がっている。コーンもどーんだったけど、ポップコーンとコーンのお酒のために大分なくなっている。
しかし多いな!
「来年作付けするのと分けてあるのか?」
「僕が預かった以外のは全部種もみにしてたよ」
「そういえばインベントリに……」
「あははは。だから分けないといけないんだけど、そこは神業農業師さんと相談しないとダメなんだ」
俺たちは倉庫から出て俺の農場へと向かう。すっかり刈られて土の表面が見えている。
「広い」
「広いな。こっちの空き地というか、原っぱというか……ここは使ってないのか?」
「倉庫増設するのかなって、開けてあるんだ。ほら、倉庫が見えるでしょう?」
「ああ、あんな量があったからな。これからコメの酒を造るなら、そんなにしまっておく必要はない……」
(連れてきたわ!)
「カルヴァ、連れてきたって……はい?」
「連れてきたって誰をだ……その、ちょっと透けてる子は何だ?」
カルヴァが人の姿をしている長い髪の女の子を連れてきた。水色というか、水? 透明な水がうねって姿を形作っているような、不思議な感じだ。
(水の精霊よ! この子は上位精霊なの! 泉を作るのも訳ないわ!)
あ、師匠が頭を抱えてしゃがみこんだぞ?
「待て待て待て」
(はやく場所を指定する。私は暇じゃない)
(待ってよ~ねえ、泉があれば問題ないのよね?)
「問題は大ありだが、まあ、そうとも言えるな」
(じゃあ、そうね。ここでいいわ!)
(わかった。ここに泉作る)
水の精霊が地面を指さすと、水が噴き出した。
(いい仕事した。対価を所望する)
「カルヴァ、対価を所望されてるけど」
「カルヴァ、なんといって連れてきたんだ」
(あはははは~)
「とりあえず、ちょっと周りを……盛土!」
俺は水が噴き出している周りを盛土で丸く囲った。初めて盛土に感謝した。盛土で囲ったところに水が満ちていって、一メートルくらいの高さがあった噴水は収まったが、中心部から清水が滾々と湧いている。
「ロックフォール」
師匠が岩を泉の周りに落とした。盛土の上に岩を落とし、まるで岩風呂のように囲った。
「湧き続けるなら、溢れちゃうかな? 水路を作って河と繋げる?」
「畑の周りを通って、地下水脈に戻す感じの方がいいんだが」
(む~対価)
怒り出しそうな気配にハッとした俺は水の精霊に向かって手を突き出した。
「ねえ、対価って何がいいの? お菓子ならあるよ!」
俺はインベントリからクッキーと、蜂蜜の入った瓶を出して両手に乗せる。
(!!!)
「どうぞ。君のものだよ」
お菓子と蜂蜜の瓶が消えた。
(満足。また呼ぶといい)
ふっと水の精霊は消えてしまった。
「カルヴァ、今夜は魔力を吸うのなしな」
(ええ!?)
「な・し・だ」
(わああん)
謝り倒したカルヴァは、どうやら許してもらえたようだけど、父はそんなことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます