第74話 鉱石の発掘について
「先に報告させていただいたとおり、ドワーフたちとダンジョンに潜った結果を持ち帰りました」
師匠は布をテーブルへ広げるとそこにごとごとと鉱石を置いた。鉱石は十個以上あった。
あ、あれ? あれは……あの鉱石は。
「ドワーフの採掘師たちと、十階層まで潜りました。全階層から鉱石は見つかりましたが使用に耐える鉱石は六階層から下にありました。今、彼らはいけるところまで潜り、サンプルを持ち帰ると言っていました」
父はじっと鉱石を見つめた。
「私にはそれぞれの鉱石がどんなものか、わからんが、実際のところ、資源として有用なのかね?」
「ええ、掘ったところはしばらくすると壁になりました。すると、別のところに鉱石ができるようです。質も、物もランダムですが」
「とすると」
「下手をすると無尽蔵の鉱山を手に入れたに等しいかと」
「……これはまずい」
「ええ、まずいですね」
「他のダンジョンでも出るんじゃないかね? その、気付かなかっただけで」
「調査、依頼してみますか?」
「内密に、ドワーフの採掘師に依頼してくれ」
「わかりました」
話、終わった? 終わった?
「師匠、その白い鉱石、鑑定していい?」
「これか?」
「うん!!」
俺はわくわくして手に取った。
重炭酸ソーダ石
精製すると食用にもできる。ガラスの原料の一部。他に石鹸、薬等様々に使用できる。
やった! トロナ鉱石だ! ラーメン作れるね! 俺は二度見した。
重炭酸ソーダ石
精製すると食用にもできる。かん水の原料。ガラスの原料の一部。他に石鹸、薬等様々に使用できる。
あれ?
思わず目を擦った。
「師匠……これ、鑑定して?」
師匠が目を瞠ると手で目を覆った。
「俺が、最初に鑑定した時は薬の原料としか……」
あ、師匠が手を胃に……あれ? どういうこと?
「そうだ、ルオだから仕方ない。……とりあえずこの鉱石はガラス作りに利用できるんだな?」
「うん。ソーダ灰の代わりになるよ」
「……この鉱石は見つかったら、ガラス工房へ届けさせればいいのかね?」
「はい。他の鉱石は鍛冶工房でいいかと」
「わかった。そう指示しよう。他のダンジョンの調査が終わったらどうするか決めよう」
「はい」
二人のため息が室内に響いた。
「それから、提案なんですが、教会の誘致の件で」
「ああ、教会か。光神教がうるさくてな。どうしようかと思案中だが」
「以前ソア子爵領にあった教会は光神教の教会だったようですが、あの宗教は精霊が嫌うようです」
「なに? それはその、精霊教会の進言か?」
「まあ、その、そんなものです。他の宗教は一緒に祀っても大丈夫のようですので、豊穣の神、美食の神、芸工神、剣神、鍛冶神、魔法神を共に精霊教会に頼んで祀るようにしてはいかがでしょう? 領民に慕われている神が他にいればその神も一緒に。光神教を除いてですが」
「では、精霊教会の司祭様にお願いしよう」
「よろしくお願いします」
師匠が頭を軽く下げて話し合いは終了した。
「ルオ」
父が改めて俺の方へ向く。
「はい!」
「お前はガラス作製をしたいんだったな」
「うん」
「私が元気なうちは好きなようにやってみるといい。そうだな、イオが成人するまでを一応一区切りで」
「いいの?」
「ただし、私やオリビンに心配をかけないこと。ヴァンデラー卿の指示や注意には従うこと、貴族院はきちんと卒業すること、剣術や、勉強はちゃんとすること。いいね?」
「はい!」
俺が元気に返事をすると師匠が呟いた。
「心配をかけないことは無理なんじゃ……」
そんなことないよ!
ああ、父が苦笑いしている~~!
俺、別に、心配させようと思って行動したことないのにぃ~!
そして翌日、屋敷に戻った。
正式に剣術の訓練はウォルトが請け負うことになった。忙しすぎて、父もローワンも時間を割くことが難しくなったことと、イオがウォルトに懐いてしまったからだ。
俺も、ウォルトの方がいいかな。無茶振りしないし。
しばらくして、ダンジョンで、壁から資源がとれることが他のダンジョンでも確認された。
ただし、うちの領にあるダンジョンのように全階層ではなく、ある階層だったり、とれる鉱石が限定だったり、再出現しないとか、色々だったそうだが。
「なんとか、誤魔化せそうだな」
「そうですね」
そう言って、父と師匠はダンジョンの鉱物資源有用活用の計画をスタートさせた。
二人の目が『がっぽがっぽだ』とか言ってたなんて俺は知らないよ?
でも、鉱物関連の件は常に呼び出されるようになった。
なんでだろうなあ?
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