第73話 領都選定

「ようよう、ヴァンデラー師、その情報は確実なんだな?」

「私が鑑定したんだ。間違いない」

「ふうむ。資源ダンジョンと呼ばれるそういった鉱物を落とすダンジョンはあるが、大抵ゴーレムを倒した後のドロップ品なんだが……まあ、そもそもダンジョンの壁は不壊って言われていてそこをわざわざ何かするってえ発想を普通はしねえからな」

「まあ、たまたまだ」

「たまたまねえ」

 ちらっと師匠と話していたドワーフが俺を見る。

 そう、このドワーフ軍団は手にハンマー、スコップ、ツルハシなどを持った採掘師集団だ。鍛冶師と兼業も多く、採掘師のスキルは採掘ポイントがわかる“採掘鑑定”があることが一番にあげられる。

 あの後、すぐに母の屋敷に戻って師匠はいろんな手配を終わらせた。

 その中に、職人村に鍛冶師工房を構えるドワーフに連絡をし、ダンジョンの壁から採掘できるのか否かを実証するのに採掘師を呼びよせることもあった。

 それが今、屋敷に来た十人のドワーフたちである。もう、腕の筋肉が凄い。髭が皆長いし、髪型も一緒だから、俺にはあんまり顔の区別ができないんだけど、目力が一番強いのがリーダーってことぐらいはわかる。でも、昨日の今日で揃ってくるの凄いな。


 あ、母はまだ戻ってません。一応師匠が魔法の手紙を送ったんだけど、どうかな。

 父とローワンは今日もいろんな人たちとの面会があって忙しくしている。

「今回の依頼は領主様からのダンジョンで資源採掘が可能かどうか、また、可能であれば採算がとれるか、採掘師以外でもできるかどうか、の三点だ。初回には俺もついていく。よろしく頼む」

「おう! 採掘は俺たちドワーフのお家芸だからな! 否やはねえ。工房の近くから素材が採れるに越したことはねえし、頑張らせてもらうわ。さて、行こうか」

「じゃあ、ルオ、行ってくる」

「行ってらっしゃい!」

 そう、俺はお留守番で、ウォルトとイオと剣術の稽古だ。

 ガラス作りがしたい~!


「え、イオ坊っちゃん、マジですか」

「ウォルト、行くよ!」

 すごい勢いで木剣を振るイオにウォルトが目を白黒させている。

「あ~むやみやたらと振るのは隙がありすぎるんですけど、振りの鋭さと相殺されちゃってえげつない攻撃になってますって!」

 打ち合いをしている二人の脇で素振り中の俺は、剣士としては上澄みに入るウォルトの焦った様子に『イオ、天才』と脳内絶賛中だ。

 祝福の儀で絶対、剣術とか、スキル出るんじゃないかな。

 俺が振ると、ぶぅ……ん、なのに、イオが振るとシュッ、とかブン! なんだもんな。泣ける。

 短剣術の方にしたいけど、貴族の嫡子が剣を扱えないのはまずいんだって。

 貴族院で剣術の授業があるし、王国の騎士として有事には軍を率いて戦わないといけないから必須なんだって。職業が魔法師でも、それはやるって言うから仕方ないよね。


「そこまで。イオ坊っちゃんはもう十分その年齢ではお強いですよ。このまま、剣術の型を覚えて、研ぎ澄ませていくのが上達の早道です。何度も何度も同じ振りをして、ブレを無くし、姿勢を安定させて、隙を無くす。それだけで強くなれます。もちろんいろんな経験をして、型だけではない強さも手に入れるといいでしょう」

「強くなれる?」

「はい。でもまだイオ坊っちゃんの身体は幼い。大人と同じことをしていては成長を阻害することもあるんです。それでは逆に弱いままになってしまいます。ゆっくり確実にまずは剣を扱う体の方を作っていきましょう」

「はい!」

「じゃあ、研ぎ澄ませるとこんなことができますよ、というのを一つだけ」

 ウォルトが剣を構えてすっと縦に剣を振った。その動きは速すぎて見えなかった。

 数メートル先の岩がぱかりと真っ二つに割れ、地面には一筋の割れがあった。

 こうもり型の魔物を屠ったあのスキルだ。

「斬撃というスキルの一つですね。魔法にも似た攻撃呪文がありますよ」

「ウォルト、すご~い!」

「スキルが発現するのは祝福の儀です。十歳までは体力と肉体の方をメインに鍛えましょうね」

「はい! 師匠!」

「師匠?」

「僕の師匠はウォルトだよ!」

 イオが懐いた! でも確かに、他の教える人たちって脳筋教育の肉体言語なんだよな。

 ウォルト、教師に向いているかも。


「ルオ坊っちゃんはとにかく型を覚えていくのが重要かと」

 見捨てないで!


 母がダンジョンから戻った日の夕食の時、父が話があると切り出した。

「領都の選定を行ったが、基幹産業である工房を護るため、そこを起点として城壁を作り、領都としようと思う。ちょうど他の村からの中間点であるのも理由だ」

「いつから建設を始めるのです?」

 母が聞くと父が難しそうな顔で唸る。

「まずは測量と資材の調達、周知だな。街道も整備しなければならん。それを終える前に冬が来そうだな。本格的な建設は春からになるだろう。忙しくなるが、よろしく頼む」

「はい」

 それから夕食になったんだけど、母が戻るちょっと前にダンジョンから戻ってきた師匠がダンジョンの報告をすると父がため息を吐いて俺を見た。

「後で部屋に来なさい」

 なんでお説教モードなのかな!?

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