第72話 ダンジョン町

 旅の疲れを癒してからダンジョン街を視察、のはずなんだけど。

 視察に行くのは父で、他のメンバーは母に連れられて、ダンジョンへ。

 ネリアとイオはお留守番だ。

 騎士たちは苦虫を噛み潰した顔をしていた。

 まあ、ねえ。護衛対象が自分から火中の栗を拾いに行く行為はいただけないよね。


「うーん、奥方様とルオのレベルは相当離れているはずだ。俺とも。だから、一人で一階層の弱い魔物を倒したほうが絶対にいい。丁寧にスキルを意識して斃すんだ。だから何とか今日は離れたところで見学をもぎ取った。きちんとそれなりに装備を整えて、挑戦させてあげたいって言ったらなんとか」

「師匠も強いの?」

「俺か? まあ、魔法を使えばそれなりに強いな」

「強いんだ」

「魔法神の加護があるからなあ」

「え、師匠、どういうこと?」

 魔法神の加護! 凄そう!

「とにかく、奥方様とは距離をとって、一階層だけ探索。魔物がいたら」

「いたら?」

「逃げる」

「にげる」

(にげる)

「いいか、俺が抱えて逃げて、騎士たちが仕留める。そういう段取りだ」

「よ、よろしくお願いします?」

「おう」

 初めてのダンジョンは想定外の様相を呈しているけど、ダンジョンを実際に見られるのは嬉しい。


 町は一応それなりに防護壁ができていて新しい建物が整然と並んでいる。

 碁盤の目のような道で、冒険者ギルドを中心とした区画はダンジョンに近い門に、他の支援系の店などはその後ろ。

 母の屋敷は中心部に、住居は職人村の方に多くできている。特徴は仮宿や宿屋、飲食店が多いこと。

 良くも悪くもダンジョンを中心とした経済圏が独自に出来上がっていることだ。

 もう少し、領に還元してくれるように頑張らないとね。


 ダンジョン側の門を出て、石畳で舗装された道を歩く。先には霊峰が霞み、森が広がっている。

 道は森の中へと続き、思い思いの武装で身を包んだ冒険者が森の奥へと向かう。

「森の奥にできてるの?」

「ああ、見つけそこなって、スタンピードになったんだろう」


 しばらく森を奥に進むと、洞窟があった。

 うわー、ダンジョンぽい。いや、ダンジョンなんだけど。両脇に門番みたいに人が立っている。

「ダンジョンは危険があるから領主が管理する。それを冒険者ギルドが肩代わりする場合もある」

「今回は?」

「冒険者ギルドだな。うちは人手が少ないからな」

「そうなんだ~」

 俺は子供なんだけど、母がごり押しで入れるようにしたらしい。

 大丈夫かな?


 手続きして中へ入る。ひんやりした空気が洞窟っぽい。薄暗い中は何故かほんのり明るい。

「あれ? 真っ暗だと思ったのに」

「ダンジョンの不思議だ」

 不思議という言葉ですべてが解決するわけじゃないよ。師匠。

 俺は鑑定をかける。

 うん、ダンジョンの壁としかでないな。

 でもまあ、鑑定スキルを伸ばすためだし、全部かけるよ、俺は!


 母はかなり先行してしまって、俺と師匠、ウォルトだけが俺の側にいる。

 母はどれだけ、蜘蛛型魔物を狩りたいのか。

「大丈夫かな? 母様」

「魔法師だし、かなりレベルを上げたようだったから。大丈夫だろう」

「そうかあ」

 よっほど潜っていたんだなあ。

 母がダンジョンの地図を書いてくれたので、それを見ながら歩いている。

「こっち行き止まりなんだね」

「では戻ろうか?」

「うん」


 キーッという声がして、こうもり型の魔物が現れた。俺は師匠に抱えあげられて、距離をとった。

「こうもり型は苦手なんですよぅ!」

 そんな言い訳をしながらもウォルトは魔物を狩っていく。

 剣を振るとこうもり型魔物が落ちていくんだけどなんでだろう?

「あの技は?」

「剣士のスキルで斬撃だろう」

「剣士でも、魔法みたいなことできるんだなあ」

「ルオも本来あれ位できるようになって欲しかったかもしれないぞ」

「剣はダメだったから」

 人並みにはできるけど、スキルは何も覚えられなかった。向いてないということなんだろうな。

 ウォルトが全部退治しておしまい。

「ありがとうウォルト」

「いえ、私の仕事ですから」

 かっこいい! 騎士だね。


 それからそこを離れようとしたけれど、何か光ったみたいな気がしたので、その方に行ってみた。

 壁が光っていて、凄く気になった。

 鑑定してみると


 鉄鉱石(品質下)

 僅かに鉄がとれる


 はあ?

「師匠ここ、ここ鑑定して」

「鑑定?」

 師匠が鑑定をすると地面に手を着いた。


「出よう。ご当主に報告だ」

 スンとした顔で言わないで師匠!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る