第68話 俺の農場の現状
「着いた――!!」
おうちに着いた!
「もうくたくただよ……」
「ルオ、もうひと頑張りだ」
父が肩を叩く。ラヴァが頬を舐める。
「はいはい」
カルヴァがくすくすと笑い、師匠が苦笑する。なぜかイオがふんすと拳を握って決意を新たに力強く屋敷に入っていった。その後に続いて屋敷に入る。
ローワンが出迎えてくれた。
「なにか、問題は」
父がローワンに問いかけた。
「細々としたことは多分にありますが、大きなことはありませんでした」
「わかった。詳しくはあとで執務室で」
「奥様、お荷物は部屋に運ぶようにいたしました」
「ありがとう、ネリア。カリーヌがいないのは残念だわ」
「旦那様、夕食はいつごろに」
「そうだな、早めに取って休もう。いつもより1時間くらい早く支度してもらおうか」
「かしこまりました」
エリックは厨房へと向かっていった。
荷馬車の荷物は騎士たちが協力してあちこちに運び入れてくれた。トマトの苗も倉庫にしまって、後は神業農業師さんにお願いだ。
ネリアがクリーンをかけてくれて一旦俺は部屋に戻って着替えることにした。師匠と後で、工房で打ち合わせることになってるんだ。
(やっぱりこっちの方が空気が美味しい)
「僕もここが一番ほっとするよ」
ラヴァもご機嫌だ。やっぱり我が家が一番だね。
久しぶりの俺の工房。師匠と一緒に入ると少し空気が籠っている気がした。
「窓開けよう、窓」
師匠が言って、二人で一通り窓を開けて回り、一階にクリーンの魔法を使った。
「便利だね」
「使用人は使える者が多いな。掃除に必須だし、身だしなみにも使う」
「浄化の魔法とどう違うの?」
「生活魔法の浄化は少量の瘴気も祓えるな。消毒ができる。聖魔法や光魔法の浄化は瘴気が祓える。アンデッド系の魔物には一発だ。生活魔法は誰にでも使えて、光や聖属性の浄化は属性がないと扱えないってだけだ。まあ突き詰めたらいろいろ違いがあるがルオは全属性だから何でも扱えるだろ。渡した魔法呪文大全はどうした?」
「あ。お、覚えてる最中、だよ?」
思わず視線を逸らした。
「まあ、いい。あと学院まで二年だが、長いようで短い。やりたいことを絞らないと、結局成果がでずに終わる危険性もある。鍛錬と魔法の訓練、錬金術も並行してやるから、時間は少ないぞ」
「ええと、ね。吹きガラスの製法をハンスたちに開発してもらいたいな。ガラスが熱いうちに膨らませるとガラス瓶の製造が楽になるし、板ガラスもできると思うんだ」
「なんか長い棒を注文してたあれか? 他にもいろいろ器具を注文してたが、それはほとんど出来上がって、ガラス工房に運び込んでるぞ」
「マジで!?」
「あ、ああ? 明日行ってみるか?」
「はい!」
(新しいお酒は!?)
「順番、順番に。まず仕込む場所とか、貯蔵タンクとか、必要じゃない? ね、師匠」
「醸造酒なんだろう? 量はできそうか?」
「作付け大きくすればできると思う。蒸留すれば蒸留酒もできるはず」
「まずは醸造酒か」
(じゃあ、場所ができるまでお預けなのね)
「できることはあるよ。仕込みの前段階なら、大きな場所なくても、工房の地下室でできそう」
(ほんとに?)
「師匠」
(主!)
俺とラヴァに見つめられた師匠はため息を吐いた。
「わかった。何かするんだな。材料を教えなさい」
「え~とね」
前にもさわりを説明したけど、今度は詳しく、日本酒の仕込み方を説明した。なぜ知っているかというと、日本酒の製造をテレビでやっていたのを見ていたのと、日本酒造りの漫画を読んでいたからだ。
「その蒸し器は作らないとダメじゃないか。量を作るなら大量に蒸すんだろう? やっぱり道具やらなんやら出来てからだな」
(ええ~)
「ちゃんと新しいお酒を造るためだ。待ってくれ」
(主にそう言われたら待たないわけにいかないわね)
「それまではビールや他の酒造りに協力してくれ」
(わかったわ! ドワーフがうるさいものね)
「あいつら下手すると作ったら作っただけ飲み尽くすぞ」
ドワーフ、やっぱりそんな感じなんだね。
「酒蔵の建設の件は確か酒造計画に入れてたな。実際の手順を当主様に確認しておくから待っていろ」
(は~い)
「はい」
「トマトの件は農業師と打ち合わせか」
「そうだね。毎日見に来てくれてるから農場行けば会えると思う」
「わかった」
「冬前にはこんなものか」
師匠が木の板にメモをしていく。
「次は農場に行って、現状確認だな」
俺の農場は倉庫を越えたところにある。段々畑のようではないが割と広い平地があって、少し伐採して広げたのだ。
手前にコーン畑、そしてその先に米畑がある。水田じゃないので畑なのだ。品種を分けるためにコーン畑が食用と酒造用品種の畑の間を横断している。
「……こんな大規模だって、言ってなかっただろうが」
師匠からデコピンされた。師匠に報告はしてたはずなんだけどな!
神業農業師さんが広い米畑で作業をしていた。大分黄金色に色づいた穂が頭を垂れていた。
「お帰りなさいませ、ルオ坊っちゃん」
笑うと歯が眩しい神業農業師さん。足に土精霊が常にまとわりついてるのが見える。土の中に潜ったり出たり忙しい。
「いつもありがとう。もうすぐ収穫だね」
「そうですね。コーンはもう終わりで、次に米ですね」
「それで、この苗を今度は育てて欲しいんだ。実がついたら種がとれるからその種を使って増やしてほしい」
「そうですね、三種類ぐらいに品種改良できそうですけど……」
「任せるよ!」
「わかりました。コーンは村でも栽培させた方がいいですか? 品質はかなり落ち着いてきましたし、収穫もちゃんとできるようになりました」
「そこは父に聞いてみる。米はいつものように分けて収穫してね!」
師匠が目を見開いて畑を見つめている。鑑定? 鑑定だよね?
「……わかった。もう、ルオの好きにしていい」
がっくりとしゃがみこんだ師匠の鑑定には何が映ったんだろう!?
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