第67話 王都を後に

 美食の神が降臨した。

 短期間のうちに様々な料理を開発した二人。

「ピピッと来たんですよ~」

 そんなエリックはドライトマトを作った。オーブンで焼いて水分飛ばしたらしい。オイル漬けにしたりパンに練り込んだり炒め物に使ったり。パンでピザに似たようなものを作ってくれてちょっと惜しい気がした。

 追加で買ったトマトで、トマトソースを作って保存して、スープや味付けに使ったりしてくれた。

 そしてトマト雑炊! 雑炊! 鶏肉が美味しいトマト雑炊! え、リゾットだろうって? 前世日本人なら雑炊でしょうが!

 神業農業師さんに生で食べて美味しいトマトを作ってもらわねば。

 オリーブってどこでとれるんだろうな? やっぱり南かな?


 やっと届いた枝豆はシンプルに塩ゆで。

「熟しきってないほうが美味いな」

「意外ですね」

 料理人二人が驚いた顔をしていた。みんなにも割と高評価だった。よかった~!


 そして帰る日が来た。

 エリックと師匠のうちの料理人さんはめっちゃ仲良くなったみたいで、お互いレシピの交換とかしたらしい。別れを惜しんでいる。

 ギードとカリーヌはこのまま屋敷に残留。学院頑張って!

 そして師匠がぐったりしている。

(鬼気迫る勢いで書類片付けてたわよ)

(大変)

 カルヴァとラヴァにも同情されてたけど、帰らないからそんなことに。

 五年独り占めしたのは俺だけどね。

 あれ? 俺が悪い?


「師匠の領地って東って言っていたけど、どんなところなの?」

「ああ、北東に抜ける大河の河口付近の農村一つと漁村一つの土地ばかり広い領地だ。広さだけが伯爵級。海が近いせいで、農作物はあまりとれないんだ。塩害でね。でもまあ、今は冒険者に塩分を抜く依頼をしているから、そう酷くはないが」

「抽出? でもあれ、錬金術師のスキルなんでしょ?」

「職業をもらっても、錬金術師になれない平民は冒険者になったりすることがあるんだ。そういう冒険者に頼んでいる」

「へえ……待って漁村?」

「ああ、ほそぼそと魚を取って干物にして売っているな」

 あれかな~フィンランドとかでめっちゃ硬い干物があった気がする。

「北側の海で荒れることも多いから漁獲量は少ないが、美味しい魚が獲れるんだ。そうだな、ルオが学院に入学する時に早めに出て領地に来るか?」

「行くう!! 絶対行く!」

 河口がある、そして漁村! 昆布、ワカメ、あるかも! そしてにがり! 豆腐~~~!

 師匠は苦笑しながら父の許可をとった。


 帰りも同じ道行きで宿をとりつつ、ルヴェールに戻る。帰ったらもう秋がすぐ来る。神業農業師さんといろいろ話さないとな。

 大豆も枝豆にするなら、品種改良したほうが美味しい気がするんだよな~


「収穫が増えた?」

「ああ、原因不明の枯死も、少なくなったって聞いた」

「よかったな」

「土が良くなったって、農業師は言ってたらしいぞ」


 侯爵領にある、村の宿屋の食堂で夕食を食べていたらそんな声が聞こえた。

(当然よ。ルオがいるんだもの)

「え? どういうこと?」

「その話はあとだな」

 師匠にここで話したらダメって止められた。師匠のカトラリーを持つ手が震えてた。これ、お説教コース? 俺、何もしてないんだけどな。


 宿屋の部屋に戻って師匠が結界を張る。

 今回の宿は両親、イオとネリア、俺と師匠、他工房主とエリック、騎士の皆さんで分かれた。

「カルヴァ、どういうことだ」

(土地に精霊がいなかったんだもの。収穫なんてできないわ。精霊に好かれている人も見たところいなかったしね。でも、ルオが往復したから精霊が戻ってきたのよ)

 師匠が両手で顔を覆った。


「カルヴァ、精霊がいないって、どこもか?」

(そうね、あの、教会があるでしょ? 光神教の。あの教会がある土地は精霊が逃げ出すから実りが少なくなるわね)

「……は?」

(あと、魔物の大群が通った後は瘴気に土地が毒されるから、瘴気が抜けるまで作物は育たないことが多いわね。工房を建てた村があったでしょ? 浄化をしたのはよかったわ。ルオもいたし、精霊が戻ってきてたわ)

「そういえば侯爵家に行った帰り、精霊王に祈ったら、廃村になった村の土地、祝福してくれたって言ってた気がする」

 師匠が頭を抱えた。

「よし、収穫が戻るなら、いいんじゃないか? 自然に戻ったんだろう。よかったよかった」

 俺の頭をぐりぐりして揺らすの止めて師匠。

「今の話はここだけの話だ。カルヴァもラヴァもルオも誰にも言ってはダメだ。いいか?」

(いいわよ)

(はーい)

「はい」

 秘密が増えた。


 母に聞いた精霊の話、あれは本当だったんだな。


『精霊を怒らすなかれ。精霊のいない土地は生命の住めない土地になるという』


 光神教の教会は、何故、精霊に嫌われたのだろう?

 世界はこんなに精霊がたくさんいて、きらきらしているのに。

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