第65話 貴族学院

 新しい工房主の登録は無事に父がすませた。

 王都とはいえ、貴族がついて回ったので結構騒ぎになったとかハンスに聞いた。

 父は圧が強いからなあ。

 朝食を食べに食堂に行くとギードとカリーヌは、それぞれ従僕とメイドの制服に着替えて他の使用人たちと一緒に壁際に立っていた。

「あれ? 明日、入学試験なのに」

 俺が首を傾げているとスピネルが椅子を引きつつ言った。

「旦那様に鍛えてくれとお願いされましたからね。早速鍛えています。学力は見たところ充分でしたので今更勉強するまでもないでしょう。一日くらい勉強しないだけでいい成績をとれなければ、付け焼刃ということなのでどの道授業についていけなくなります。あくまでもクラス振り分けの学力試験ですので成績が悪かったとしても学院には通えますよ」

 あ、ギードが胃のあたりを押さえた。

「そうか、それならいいけど」

 母とイオがやってきて、師匠と父も合流した。

「私はお友達の家にイオと行ってきますわ」

「私は侯爵家に呼ばれているから、少し遅くなるかもしれん」

「じゃ、ルオは私と工房で、勉強だな」

「はい」

 美味しい朝食を食べて幸せな気分になってから師匠と一緒に工房だ!


「ポーション作りからだな」

「はい」

 まずは日課のポーション作り。ある程度の数を作って終了。

「次は錬金術師の権能から使い方を……」

「師匠! ポーション瓶を作りたい!」

「ああ、稼げるからな。んー、まあ、ルオならできそうか。調合のスキルはあるし、ポーションの錬成も出来るようになったしな」

「むふ」

 俺は鼻息を荒くした。手作業で行っていたポーションの作製を錬成を使ったポーション作製に変えたのだ!

 手作業で染みついたポーションの作り方をイメージして錬成すると、錬金鍋にポーションが現れる。もちろん材料は錬金鍋にあらかじめ入れるのだ。

「ポーション、錬成!」

 ぱあっと鍋が光る。魔法陣が現れて鍋の中に収束していく。光が消えてポーションの完成だ。

 出来たポーションを瓶に入れていく。次々と光って栓がされる。

「お、青だな」

 よくやったとばかりに頭を撫でられて鼻が膨らんだ。

「それはこの箱に入れて、マジックバッグの中だな」

 出来上がったポーションを仕舞っていき、ひと段落ついた。

「それは明日、学院に二人を送っていった帰りに薬師ギルドに卸そう」

「はい!」


 ポーション瓶ポーション瓶!

「あー、ルオ? わかったからそんな目で見るな」

 どんな目なんだろう?

「手を出して、後に続いて唱えろ。イメージはちゃんとするんだぞ。ポーション瓶、錬成」

「ポーション瓶、錬成」

 ぽん、ぽんと音がして、ぽとりと俺の手の上にポーション瓶が落ちてきた。

「ポーション瓶!」

 俺は両手で捧げ持って師匠の周りをくるくると三周はした。

「目が回るぞ」

 くすくすと笑う師匠に止められるとさすがにクラっとした。

「休んでおけ」

(もう、嬉しいのはわかるけど、ウルフじゃないんだから)

(主、だいじょうぶ?)

「カルヴァ、ラヴァ、大丈夫」

 俺は椅子に座って心を落ち着かせた。錬金術師らしいことができるのって嬉しい。これで一歩透明ガラスに近づいた!


 翌朝、顔色の冴えないギードと拳を握っているカリーヌを乗せて馬車が出発した。

 俺と師匠も乗っている。

「ギード、ポーション飲む?」

「ひえ、こんな高いポーションもらえませんよ!」

 青い瓶のポーションを渡そうとしたら拒否られた。

「昨日作った奴なのに……材料費、タダなのに」

「錬金術で作った時点で魔力と手間と技術がかかっています! それはタダじゃないんです!」

「その通りだ。安売りはダメだ。だがこれはギードへの主人からの下賜だ。もらっておけ。緊張はわかるが、緊張しすぎは他の貴族の子女に隙を見せることに繋がる。とりあえず、自信満々の顔でいけ」

 師匠が俺の手からポーションをとってギードの手に押し付けた。

「ありがとうございます」

「カリーヌにはエリック特製のお菓子ね」

「ありがとうございます!!」

 カリーヌは元気だった。

「そろそろ学院だな」

 窓をそっと開けると大きな建物が見えた。前後に馬車が走っている。

 車寄せに止まった馬車からギードとカリーヌくらいの子供が降りてくる。皆、貴族の子女だ。

「帰りは馬車を迎えによこすから、乗って帰って来るんだぞ」

「はい、行ってまいります」

 二人は声を揃えて言うと、俺たちに礼をして門の奥へと消えていった。


 大きな、大学のような学院。うっすらと結界が見える。

「結界があるんだ」

「ああ、ルヴェール領の結界より厳しくはないが」

「そうだよね。貴族のお子さんばっかりだもんね」

「ルオも貴族のお子さんなんだが」

「二年後なんでしょ?」

「まあ、そうだな」

「イオ来られなくて残念だったね」

「奥様に引っ張られてお茶会参加だから仕方ない」

「僕はいいのかな?」

「ルオもそのうち引っ張っていかれるから覚悟はしておいた方がいいぞ」

「お茶会か~行きたくないな~」

 その後、薬師ギルドに行ってポーションを売った。青は少ないから貴重なんですと喜ばれた。

 おかしいな? 俺が作ると大抵青なんだけどな?





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