第64話 ギルド回り

 書類を裁いてぐったりしていた師匠に連れられて通りを渡った真向いの建物に来た。外観の造りはほぼ同じで、扉がグリーンに塗られていたのが違いだろうか。看板はハツカ草にポーション瓶の絵が描かれていた。そういえばいっぱいポーション作った。あれどのくらいになってるんだろう?

 グリーンの扉を潜って中へ。エントランスは奥行きが錬金術ギルドの半分ほどで、受付カウンターは倍、受付の人も倍。お歳も倍、あ、いけないいけない。四人いる受付の半分は男性で、父くらいに見える。女性もそのくらい。

「ヴァンデラー師? え、ヴァンデラー師?」

 四人が四人とも目を見開いて師匠を凝視した。なんだろう、この、珍獣を発見したような反応は。錬金術ギルドもお屋敷のスピネルも似たような反応だったから、よほど、王都に顔を出してないって事なんだね。そういえばうちに来て五年、一度も領を出なかったな。

 王都が嫌いなのかな?


「ああ、ヴァンデラーだ。この子の登録を頼みたい」

「よろしくお願いします」

 師匠に連れられた、カウンターへ。

「ああ、わかった。こちらへ」

 一番左にいた男性に案内されてカウンターの左にある扉に向かう。その先は廊下になっていて、扉が並んでいた。男性はその中で一番手前の扉を開けた。中はテーブルと椅子四脚。奥へと促されて座る。男性は手に持っていた書類を差し出した。

「こちらをよく読んでサインを」

「実技はいいのか?」

「ここ三年くらい、初級ポーションを多数卸されていましたがその作成者はヴァンデラー師ではなかった。では試験など必要ないでしょう」

「ああ、この子の作だ。弟子のフルオライト・ルヴェール」

「ヴァンデラー師が弟子を……それはよかった」

「そうかねえ。振り回されてばっかりだよ」

「ペニトアイト師もよく愚痴を零されていましたよ」

「うぐ……師のことは申し訳ないと思っている。まあ、こいつには期待してもらっていい。職業も属性も問題ないし、勤勉だし、子爵家の嫡子だから俺と違ってどこぞへふらっとはないはず……だな?」

 そこで俺に不安そうな目を向けるとか!

「工房から出ないよ!」

「だそうだ」

「ヴァンデラー師もそこで一緒にいるんですよね。ルヴェール領、でしたか」

「二年後には王都へ戻る。こいつが学院へ通うんでな」

「ほほう! 朗報ですね」

「何かあればいつもの商会に手紙を持たせてくれ」

「かしこまりました。はい、これで大丈夫ですよ」

 俺がサインした羊皮紙を見て、男性が頷く。


「ルオ、カードを出せ」

 ギルドカードをさっき仕舞ったポケットから出して渡した。

「お預かりします。少々お待ちください」

 しばらくすると、男性が戻ってきてカードを返してくれた。

「これで終了です。フルオライト・ルヴェール様は当ギルドの会員となりました」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

 受付の人達に見送られてギルドを出た。

「次は商業ギルド、最後に冒険者ギルドだな。少し遠いから馬車に戻ろう」

 馬車は錬金術ギルドの建物の裏側に待機所があって、そこで待っていた。乗り込んで商業ギルドへ。商業ギルドは通りを一本隔てたところでそう遠くはなかったけれど、冒険者ギルドが西側にあって離れているのだそうだ。


 商業ギルドでは口座の開設と師匠の口座から、俺の口座へ今までの報酬が入金された。なんかゼロがいっぱいだった。

「商業ギルドに登録はしないの?」

「商会を作るとかになったらする必要があるな。でもまだいいだろう」

「はい」

 馬車に乗り込んで冒険者ギルドへ。ちょっと遠かった。冒険者ギルドの待機所に馬車を置いてギルドに入った。

 ざわざわしているのかと思っていたけど、エントランスの中は錬金術ギルドと変わらない感じだった。


「ようこそ、依頼でしょうか?」

 受付の若い女性に聞かれる。

「従魔の登録だ」

「まあ、テイマーなのですか? 従魔はどこに?」

「小さいので隠れてもらっている」

「それでは個室にご案内します」

 薬師ギルドと同じように扉が壁面に二つ並んでいて左の扉に案内された。そこを開けると廊下にまた扉が並んでいた。

「こちらでお待ちください」

 受付嬢は出て行き、しばらく待たされた。

「今のうちに、ラヴァを出しとけ」

「ラヴァ、机の上に降りて」

(は~い!)

 ラヴァが姿を現してテーブルの上にちょこんと乗った。可愛い!

「ラヴァは可愛いなあ」

(可愛い! 僕可愛い!)

 くるくると歩き回る姿がまた可愛い。いまのラヴァは手のひらに収まるくらいの大きさだ。ラヴァによると体の大きさは変えられると言っていた。


 ノックがあり、扉が開けられて怖いオーラを放つ、短髪で角刈りの筋骨隆々の男性が入ってきた。手には書類と、筆記用のペンとインク瓶、

「従魔の手続きだってな。そいつか?……なんの従魔だ?」

(なんかされた)

 ラヴァの気配が変わる。ものすごい圧力が男性に向けて放たれる。それは熱気を伴っていて、部屋の温度を上げた。

「なにか、した? 怒ってるよ」

「魔物鑑定か? 無理だな。弾かれるか、無効だ。ラヴァは温厚だからいいが、勝手に鑑定など掛けたら怒り出して暴れる魔物もいるぞ。わかっててやったんだろう?」

 師匠が睨みつつ言う。

「すまない。知らない魔物だったから確かめようとしただけだ。謝る」

「ラヴァ、許してあげて。おじさん、二度としないで」

 でも、ラヴァの怒りは納まってないようで、熱気の温度はますます高くなる。

「すまない、許してくれ。登録料は俺が持つ」

「確かか? 登録料は銀貨一枚だったか?」

「ああ、俺が持つから、この熱気を収めてくれ、火傷しそうだ」

「ラヴァ、押さえてくれ。あとで美味しいジュースを奢る」

 師匠がそういうとラヴァの機嫌が直った。


(ほんと? やったあ!)

「ここに種族と名前があれば名前、ここは持ち主の名前を。それとカードがあれば出してくれ」

 俺は書類に名前を書く。種族は火トカゲにした。

「え、そっちのおじさんが持ち主じゃ」

「誰がおじさんだ。同じぐらいの歳の奴に言われたかない」

「あーわかった。ともかく登録してくる」

 さっとおじさんは出て行き、すぐ戻ってきた。

「これで済んだ。これは従魔登録済みのメダルだ。街中を連れて歩く時はつけてくれ。じゃないと討伐対象にされるし、攫われて売られる場合もある」

「わかった。あとでリボンを買ってつけよう!」

「それじゃ」

 何か言いたげだったおじさんは結局何も言わず、俺たちは冒険者ギルドを出た。馬車に乗り込んでほっとした。

「魔物鑑定なんてあるんだね」

「問題がないか一応見てるんだろうが、ラヴァは魔物じゃないからな。それで出なかったんだろう」

「気を付けないとダメだね。対策しなきゃ」

「そうだな。確かに」

 全ての用事が住んでほっとした俺たちは師匠の屋敷に戻った。


 ジュースはエリックが搾りたてを例のリンゴで作ってくれた。ラヴァもカルヴァも大喜びだった。リンゴはどうしたって?

 インベントリから出したよ! ジュースが買えなかったからね!



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