第63話 錬金術ギルド

 豪華な馬車でお出かけ。貴族街から出ると平民街でも高級な区画に向かっていく。

「ギルドは大通りに面している場所に軒を連ねている。通りは南だな。この道を北に行けば学院がある。学院関係者ばかりが住む学院街になるな。王城から離れるほど、身分が低くなると覚えておけばいい」

 身分社会だから仕方ないのか。うちの領は平民と距離が近いけど、王都はきっちり封建社会って事なのかな?

「壁際の街には近寄らないこと。治安が悪いからな。こうして馬車で移動する分には近寄れないだろうが」

 ジト目で師匠が俺を見る。どうしてそんな、お前、やらかすだろう、的な目で見るの?

「近寄りません!」

「ようし」

 師匠が俺の頭を撫でた。もう十歳なんだけどなあ。


「さて、そろそろ大通りだな。南の通りは市が行われているからにぎやかだぞ」

「市?」

「通りの両側に露店が立つんだ。行商人の広場が通りになったものと思っておけばいい」

「へええ!」

 行ってみたい! 転生の定番、串焼きはあるんだろうか? あれ、炭使うと高額じゃない? 高いんじゃないかなと思うんだけど、どうだろう?

「そろそろ、錬金術師ギルドにつくからな」

 赤いレンガの壁の五階建の建物の前に、ゆっくり馬車が停まって御者がドアを開ける。先に師匠が降りて俺が、師匠にひょいっと両脇を抱えられて降りる。高いからね! まだ、従魔登録してないので、ラヴァは姿を隠したままだ。

「師匠、ありがとう」

「さ、行くぞ」

 正面の両開きの扉を開けて師匠が中に入っていく。それに続いて俺も中に入る。広いエントランスで受付なのか、カウンターと、女性が二人内側にいた。


「総ギルド長!」

「え、ヴァンデラー総ギルド長! た、大変だわ!」

 受付の一人が後ろにあった扉に飛び込んでいく。

「あれ? 先触れだしてなかったか? 魔法通信飛ばしたはずだけどな」

 ばたばたと足音がして、先ほど女性が飛び込んだ扉が大きな音を立てて開いた。

「ふざけんな! やっと来やがって!」

 長い前髪をオールバックにした茶色の髪を振り乱した、師匠よりちょっと年長な男性が目の下の隈も露わに師匠に怒鳴りつけた。元はイケオジっぽいのに疲れと怒りが前面に出ているので、怖い。

「お、おう、そのなんだ。久し振りだな」

「おう、久し振りすぎて、一周回って冷静になったわ。上、行くよな」

 顎でくいっと階段を示されて、師匠が引きつった笑顔で頷いた。

「その子供は……いや、お子さんは?」

 半眼だった目を少し和らげて男性の視線が俺に移った。

「フルオライト・ルヴェールです。よろしくお願いします」

 とりあえず自己紹介して頭を軽く下げた。

「俺の弟子だ」

「はあああああああ!?」

 三人の声が見事にハモった。


 ◇◆◇ ◇◆◇


 最上階の総ギルド長室に連れてこられ、執務机の上の書類に驚きつつ、ソファーに座って俺は紅茶を飲んでいた。

「ともかくもう少し、ギルドに顔を出してください。決裁書類が溜まっています。商会の人間からしばらくルヴェールにいるとは聞きましたし、特許の書類も何度か送られてきましたので、元気だったのはわかりますが。わ・か・り・ま・す・が! あなたは総ギルド長なんですよ? 先代は粛々と事務仕事をしてくれましたよ? あなたのおかげで、増えた仕事を」

 正座だ。ソファーに正座をして叱られてる師匠がいる。

 師匠、転生者じゃないよね?

「わかった、二年後にはしばらく王都にいるから、もう少し自由にさせてくれ」

「よろしい。それで? この手紙には錬金術ギルドに弟子を登録させると書いてありますが」

 この怖い男性は、マッテオと言って総ギルド長補佐くろうにんをしているそうだ。彼は魔法通信で送られた羊皮紙を広げながら俺を見た。

「まだ子供ですが」

「ああ、十歳だな」

「祝福の儀を終えたばかりじゃないですか!」

「個人で工房を持っているし、錬金術師の職業を授かっている。それに鏡の特許はこいつのアイディアを俺が実現させただけだ」

「あの鏡の? ガラスの透明度を上げる技法は革新的ですが」

「こいつ、多分、マジックバッグ作れるようになるぞ」

「さあ、この書類にサインを!」

 ええ~、態度変わりすぎ!


 無事、錬金術ギルドに登録できて、ギルドカードをもらった。薄い名刺のようなカードで金属製だ。

「それはミスリル合金でできていて、魔道具だ。中に魔法陣を仕込んであって、本人の魔力で鍵をかける。いろんな魔法陣が組み込んであるが、収入をカードに記録できるのが最大の利点だな。偽造が不可能なので身分証にもなる。複数のギルドに登録しても、これに追加するだけだな」

「すごいカード!」

 ハイテクだよ!

 俺がカードを作ってもらってる間、師匠はものすごい勢いで書類を裁いていた。

 デジャヴだ。

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