第61話 師匠に相談だ!

 絞られていた俺を見守っていた師匠に、実は相談が、と切り出した。

(精霊眼についてとカルヴァに伝えて)

(らじゃ!)

 ラヴァに念話で伝えると師匠は神妙な顔をして唸った。らじゃは前ふざけて教えたらたまに言うようになった。可愛い。

 父は話が終わった後出て行ったので、この小さめの応接室には俺と師匠、メイドさん二人、スピネルしかいない。

「スピネル」

 師匠がスピネルを呼んで耳打ちすると、スピネルはメイドさんに何か言うと二人は頭を下げて出て行った。


「結界」

 師匠がそういうと透明な膜が広がった。音が漏れなくなる結界。

「それで、何を相談したいんだ」

「ええとね、カルヴァの目を借りて、謁見の一部を見てたんだよ」

「……なんだって?」

「だから、カルヴァの……」

「あ――! 聞こえんなあ!」

「師匠!」

(もう、主もできるわよ。私と契約した時に精霊眼のスキル、獲得してるんだから)

「……まさか、そんな」

 そう言って中空を見た師匠は床に崩れ落ちた。

「俺は何かに呪われてるのか? 人生、そんなに波乱万丈でなくてもいいんだ。そうだ、いっそのこと、森の奥に移住……」

「師匠! しっかりして!」

「そうだ、ルオだから仕方ないんだ。ルオだから仕方ない、ルオだから仕方ない。うん。立ち直った」

 ぶつぶつ言ってゆらりと立ち上がった師匠の圧が凄いな。というか、俺に非常に失礼なこと言ってない?

「それで? 精霊眼のスキルを使ったんだな?」

 俺たちはソファーに向き合って座った。


「そう、様子が見たいな~って思ったの。それで呟いたら、ラヴァが」

(主の願いは叶えたいの。カルヴァがいるから、僕と繋げば見られると思ったの)

「繋ぐ?」

(私とルオは契約してないから目を繋いだのはラヴァとよ? ラヴァの目が私と繋がって、ルオはラヴァを通して見たのよ)

「そういえば繋ぐって言ってた」

(主もやってみる?)

「あ、ああ? え?」

 カルヴァは部屋の中をぐるぐる飛び回る。

「ま、待て、もう少しゆっくり。視界がぐるぐる回って酔いそうだ」

(もう、慣れよ、慣れ)

 ん? 俺の時は驚いて動けなかったのかな?

「僕、意識が引っ張られて動けなかったみたいで、イオにぼうっとしてるって言われた」

「意識を完全に目に集中したらそうなるな」

 ふむ、と顎に手を当てて師匠が考え込む。


「精霊眼のスキルは知られないようにした方がいい。ばれたら、精霊の姿が見えるスキルだと答えればいい。戦争をやっている国の軍部が欲しがりそうで怖い」

「戦争? してるの?」

「この国は立地がいいのか悪いのか、国土の境目が大河や山や海があるからそう攻め込まれはしないが他国は結構やってるぞ。特に南のドゥマ帝国はな。間者が居たりするから、気を付けないとな。光神教の祝福の儀は狙われるから、ルオはほんと精霊教会で受けられて助かったな」

「怖い。知られないようにしよう」

「精霊眼は俺の方で研究するから迂闊に使うな」

「はい」


「それと、新しいお酒は米を使うのか? 普通に食べてたが……」

「あのね、まず同じように精米するけど、もっと磨くの」

「磨く?」

「外側を削って中の方だけ使うと雑味のないお酒になるみたい?」

「どうして疑問形なんだ」

「僕試したことないもん」

 師匠が胡乱な目で俺を見る。

「それで、炊いたときと同じ手順を踏んで、炊かないで、蒸して蒸しあがったらカルヴァの出番になる、と思う」

(私が作るのね!)

「うん! 水が美味しいと米のお酒も美味しくなるはず?」

(水も使うの?)

「使う! でもよくわかんないんだよね。基本はリンゴのお酒作るのと似てるけど、果汁がないから水を足すんだと思う」

(ああ、なるほど。ビールと同じような感じね?)

「そう! 水が結構重要かな?」

(わかったわ! 村に帰ってから仕込みを始めるわ!)

「よろしくお願いします」

(任せて!)


「さっき、ご当主に隠し事はないとか言ってなかったか? お酒の作り方知ってると、言ってなかったな?」

「はう! あ、あのね! 大豆青いままで塩ゆでにすると、ビールのお供に良いよ!」

「……ルオ、もう一回ご当主に叱られて来い」

「ええ!? なんで!?」


 結局、師匠にこれからの酒造計画というのを書かされて師匠と一緒に父にプレゼンさせられた。

 枝豆は、農家の伝手を頼って仕入れてくるそうで、それから試そうということになった。

 うちの領は今ビールブームなんだ。師匠が魔道具で冷蔵庫を作って冷やして飲むのが爆発的に流行った。

 冷蔵庫自体は魔道具であったらしいけど、お酒に使うとか、温度管理とか考えてなかったらしい。

 酒造の経験ある人はいなかったしね。それにめちゃくちゃ高価なんだ!

 エール自体は自作で作るのがほとんどで、冷やすということがなかったそうだ。

 宿屋の食堂で取り入れられてドワーフさんが入りびたりだそうです。

 そこで美味しいお摘みがあったら、どうなるのかな?


 大人なんだから、大丈夫だよね?

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