第60話 試食会

「その新しいお酒とは何だ?」

 父が眉間に皺をよせて聞いてきた。両肩に乗る父の手に力が入っている。

「えーと、ほら、コーンと一緒に僕の農場で育てていた米があるでしょ?」

「米? ああ、あれか。あれがどうした? 食べるために育てていたんだろう?」

「そう。品種改良もしたの! あの神業農夫さんすごいよ! 二種類育ててもらってて……」

「ちょっと待て、ルオ、お……私は一種類しか、買ってないよな?」

「そうだよ? 育ててれば品質にばらつき出るじゃない? そこを選んで、増やしてもらったの」

「そうなのか?」

 父が師匠の顔を見る。

「これは農夫に聞くしかないようですね」

 師匠は諦め顔で肩を竦めた。

「食べられる方は僕、持ってきてるけど、食べてみる?」

 二人は胡乱げな目を俺に向けたが頷いた。


 再び厨房!

「この粒を炊く、ですか?」

「水で煮るんだけど、コツがあって……」

 エリックはすぐわかってくれた。籾殻がついてるんだけど、どうしようかな。

「殻がついてるが、これはどうするんだ? このままか?」

「籾殻は取って欲しいんだけど……それとね、籾殻をとって実だけにするけど、その周りに粉がついてるの。それもね、とりたい。その状態のほうが栄養はあるけど、とった方が美味しいはずなんだ」

「ここのボールに入れなさい」

 師匠が米をじっと見て、手をかざす。空のボールが横に置かれている。


「分離、抽出」

 魔法陣が現れて、光った後は籾殻と精米したコメに分かれていた!

「鑑定したら詳しく出ていた。俺は世の中の神秘に出会った気がする」

 ファンタジーだ! まあ、錬金術師の師匠が凄いってことでいいよね? もう、ほんとに師匠えもん!

 そういえば水色着てたから、ポケット付ければいいんじゃないかな! インベントリも持っているし、完璧! 


「この殻は肥料にできるんだな。んん?? 糠、美容? 漬物? なんだ? 抽出」

 師匠の手の上に糠が!

「……これは薬師ギルドに提出だな」

 じっと糠を見ていた師匠はため息をついて、どこからか取り出した革袋へ糠を入れて消した。インベントリに入れたんだね。


「こ、これをさっき聞いた方法で炊けばいいんですね?」

「うん。で、これはパン代わりなので、おかずが必要なんだけど……」

 エリックに耳打ちした。師匠のうちの料理人も寄ってきた。三人でこそこそする。

「では、夕食にお出しいたします」

 師匠の料理人さんが綺麗な礼をした。


「ルオ様、奥様がお呼びです。庭園でお茶会とのことです」

 厨房まで探しに来たメイドさん、すみません。

 庭園に出ると、テーブルが用意された四阿に案内された。

 母とカリーヌがいた。あれ? イオはいないんだ。

「そろそろ、ルオもお茶会慣れしたほうがいいと思ってこういう形式にしたわ」

 俺が座ると、紅茶が出された。皿に乗ったお菓子も、横に置かれた。

「どうぞ、いただいて」

 母がカップを手にとって先に口を付けた。俺も習って口にする。


「王妃殿下にお茶会に呼ばれたの。鏡と布を献上したおかげでね。王妃殿下は気さくにお話されたのだけど、今回の献上品をことのほか喜ばれて。ご子息がいると聞いたって根掘り葉掘り聞かれて。ルオもそのうち、王族のお茶会に呼ばれそうよ」

「ええ!? そんな畏れ多い!」

 やだよ!!

「ああ、えっと、そのこと?」

「そうよ。二つともルオの仕業なのだもの。母を労わって欲しいわ。ねえ、カリーヌ」

「はい。奥様」

 カリーヌは硬い表情のままなんだけど、すっごく緊張したってこと?


「王妃様は魔法師の職業を持ってらしたので、一時宮廷魔法師の地位にいたのよね。見学に行った陛下に見初められたというのが馴れ初めね。私は一時、王妃殿下に師事していた時があって短い間だったのだけど。一応、縁はあるものだから好感度がものすごく高くて」

 頬に手を当てて困ったわ、と呟く母を何とも言えない顔でカリーヌが見ていた。何があったのか。

「王都にいる間、顔出しするようになったのよ。ルオ、貴方のせいなのよ?」

 あ、八つ当たりだった!

「あ、あの母様、新しい食材が夕飯に出されるんだ! で、師匠がその食材の副産物をね、美容に良いって!」

「美容、ですって?」

 ギラリと、目を光らせた母は猛禽類の顔してた!

 ごめんね、師匠!


 夕食はみんなで米の試食。


 やっぱり生姜焼きだよね! 薄切りにしたボアの肉を醤油と生姜とワインにつけてもらって玉ねぎと一緒に焼いてもらった。

 ん? なんで醤油があるのかって?

 大豆を前に唸っていたら精霊王様がね。

 師匠に鑑定させなさいって言ってくれて。醤油の製法がわかったの。

 精霊王様も俺も師匠を便利遣いしてるよね!

 少しずつ量を増やしてるけど、慣れない人には匂いが気になるらしいんだよね。

 だからインベントリに入れてるんだ。

 それを使ってもらって、スープは普通の野菜スープ。味噌はさすがにこの世界の人の口に合わないかもなって。でも、海産物が手に入ったらやってみようかな?

 味噌をつけたおにぎりも美味しいんだけどな! あ、焼きおにぎりも! 夢が広がる!


 ほかほかのご飯と生姜焼き! 実食です!

「美味し~!!」

 ご飯、美味しく炊けてる! さすが美食の神の加護を持つ料理人!

「美味しい」

 みんなが一斉に言ってくれた。

「この米、お腹にたまりそう」

 ギード、もしかして食事たりてない? 成長期だものね。

「糧食にいいな」

 父がぼそっと呟いた。

 まあ、乾燥してるからね。武将たちも米持って戦場行ったらしいし。

「耕作面積に対する収穫量が多いって神業農夫さんが言ってたよ!」

 試食会は大好評で終わったんだけど、夕食後、俺は父に情報を搾り取られた。

「もう隠してることはないか?」

「ないと思う?」

「そこは断言しなさい」

「はい」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る