第58話 謁見
父と母、師匠、ギードとカリーヌ、護衛の騎士さんたちが王城へ緊張の面持ちで向かった。師匠は誰っていうほどきりっとした顔で背中の中ほどまである髪を後ろにリボンで結んでいた。正装のマントがルヴェール染めの水色のマントだった。
いつの間に作ったんだろう。裏に師匠の家の家紋が刺繍してあった。
うちの父のマントは藍色のマントだった。母とカリーヌは藍色のドレスを着ていた。ギードは藍色の上下の正装でマントなし。ギードの顔が真っ青だったけど、大丈夫だろうか。
「行ってらっしゃい!」
馬車に乗って出て行く皆をイオと見送り、俺はそわそわして落ち着かなかった。
今はスピネルが座学をみましょうかと用意をしてくれてるところだ。
書庫の閲覧室で、スピネルの質問に答えて、スピネルが木の板に書き留めていく。
師匠の家でもメモは木なんだね。石板持ってくればよかったな。
そうして一時間ほどして休憩になった。
イオは少し疲れた顔をしている。それでも、勉強するときは集中していて、俺が六歳の時よりずっと優秀だと思う。
ほら、俺は転生で、勉強する姿勢というか習慣があったから。でも、イオは自分で身につけていったからすごいなと思う。もう、天使!
休憩にジュースを飲んで、ふっと気を抜くと、王城に行ったみんなのことが気になって仕方ない。
「あ~あ、様子を見られないかなあ……」
(見られるよ?)
頭に乗ったラヴァが、上から俺の顔を覗き込むようにして言う。
「見られるって……」
(カルヴァの目を通してみるの! 僕が繋げるからカルヴァを呼んで)
「カルヴァ」
俺は小声でカルヴァの名前を呼ぶ。
(主、様子が見たいって言った)
(あら、繋げてもらったの? いいわよ。わたしの目を通して見たものを精霊眼を使って見ればいいわ)
「精霊眼?」
(スキルにあったでしょう? 精霊眼を使うって意識するの)
精霊眼を、使って見たい。
目を閉じて、もう一度開けるとそこは閲覧室ではなかった。
『素晴らしい』
威厳のある男の人が鏡を見ていた。立派な椅子で、一人高い雛段にいて、対面には赤い絨毯にデュシス侯爵、父、師匠、見知らぬ貴族が三人、その後ろにギードが控えていた。全員が頭を下げ、跪いている。
『さすがはヴァンデラー師の弟子。いや、今はそなたがヴァンデラーの名を継いだか』
朗々と威厳のある声が響く。恭しく布で覆った箱を持った、侍従のような人が進み出て、その箱の上に持っていた鏡を置くといったんそれを頭寄りあげて捧げ持つと、頭を下げて下がっていった。
『はっ』
師匠が頭を下げたまま、声をあげる。
『マジックバッグといい、この鏡といい。さすがは賢者よの。褒美をとらせよう。なにか希望はあるか?』
『陛下に申し上げます。鏡は我が弟子の発案によるもの。私はしばし、ルヴェールの地で弟子の育成に努め、弟子が学院に通うようになった時、王都の工房に戻るつもりでおります。研究にも少し力を入れたいと思いますれば……』
『よかろう。鏡の作製は王家優先ということにしよう。王の注文で精いっぱいとでも言えばよい』
『ありがたき幸せでございます』
『さて、次はデュシス侯爵からの申し出だったな。ソア子爵領のスタンピードの顛末だったか。ソア子爵は貴族の義務を怠り、魔物を放置し、ダンジョンの発生を見逃し、領民の大半を死亡させ、街や村のほとんどを失い、ソア子爵家はその際に全員死亡と報告にあるが』
『恐れ入ります』
デュシス侯爵は頭を下げたまま答えた。
『ソア子爵領は壊滅の憂き目にあいましたが、ここに控えるルヴェール男爵家の尽力により、領民は新たに村を作り、新しい体制の下、活気を取り戻しております。ソア子爵一族は分家一つを残して全員の死亡を確認いたしました。現在その分家が代官として領を治めております。そして我が侯爵家、ガルニエ伯爵家、エルヴェ子爵、そして開発者のルヴェール男爵家とともに、新たな紙の生産を新しい産業として興したいと報告に参りました』
『ソア子爵の分家はその中には入らぬのか?』
『はい、その分家の治めている領地がございます。陛下の裁可をいただければここに控える分家のソルア男爵家の次男、ギード・ソルアがソア子爵領を治める当主となる予定です。参加はそのギード・ソルアの代にからになる予定です』
『ふむ。ルヴェール男爵はスタンピードにも対処し、終息に多大な貢献をしたとある。また新たに工房を起こし、農地も無事回復させたとある。難民も飢饉で各地が疲弊している中、食糧を提供し、保護したとも。男爵領も豊かではないと聞いていたがのう、ルヴェール男爵』
『はっ、恐れ入ります。飢饉の起こる二、三年前から、収穫が伸び、備蓄が増えていたためでございます。また、ヴァンデラー師を招くことができ、いろいろご助言いただいた経緯もございます』
『よかろう。ソア子爵領の割譲を認める。領地が加増したことにより、ルヴェール男爵を子爵に叙する。男爵位はそのまま、ルヴェール子爵のものとする』
『ははっ、ありがたき幸せでございます』
『また、ソア子爵領は割譲のため、男爵領とする。ソア家の名前は断絶する。ギード・ソルアは成人した後新たな家を興すことを認める。紋章官と相談するがよい』
『ありがたき幸せでございます』
ギードが震える声で答えた。
『ルヴェール子爵、ダンジョンの管理はくれぐれも頼むぞ。デュシス侯爵、紙の件は後ほど会議にかける』
『はっ』
『本日はこれまで!』
王の横に立っていた文官が終わりを告げる。そこで、映像が切れた。
王様怖い。圧倒的オーラを発してた。
「兄様? どうしたの?」
「イオ、なんでもないよ?」
「動かないから心配しちゃった」
「そうか~、考えごとしてたんだよ」
「そうですか、考えごとですか。ではこちらの問題集を解いていただきますね」
スピネルがドンと紙の束を置いた。羊皮紙だ。高い奴だ!
そしてたくさんの木の板。
「ぼんやりしていてごめんなさい」
俺は粛々と問題を解いた。
師匠、精霊眼、とんでもチートだったよ! 早く帰ってきて~!
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