第56話 師匠の屋敷
コンコンとノックが響く。開けるとネリアよりちょっと上くらいのメイドさんがいた。
「旦那様がお二人をお呼びです。ご案内いたします」
メイドさんの先導に従い、俺とイオは応接室に案内された。
「疲れてないか?」
そこには皆勢ぞろいしていて、師匠の側に家令のスピネルもいた。
ソファーに座るとジュースを俺とイオに出してくれた。オレンジジュースだ。
父からの問いに頷く。
「大丈夫だよ」
「大丈夫! おいしい!」
イオは早速ジュースを飲んで目をキラキラさせていた。みんなの目がイオに集まってほっこりする。
(主、出ていい?)
「ラヴァ、出ても大丈夫?」
「ああ、この屋敷なら問題ない。従魔登録を冒険者ギルドにしに行かないといけないな。そういえば。薬師ギルドと錬金術ギルドにもだな。忙しいぞ、ルオ」
「ラヴァ、出ていいよ。……初耳なんだけど! 冒険者ギルド!?」
ラヴァがシャツのポケットから出て肩に乗る。なんか、ファンタジーワードが出てきた!
「急に目が輝いたな。魔物を飼育するときに許可証を出すのは冒険者ギルドなんだよ。魔物専門の売買業者は冒険者ギルドと商業ギルドに登録しないと商いができないことになっているな」
「じゃあ、基本的にお金が絡むのは商業ギルドなの?」
「卸までは各専門ギルドだな。錬金術師ギルドや薬師ギルドなんかもそうだ。商業ギルドは商取引をするなら登録しておけば問題がない。大きなお金が動く時は商業ギルドの口座が必要だからな」
「口座?」
「お金を預かってくれる仕組みがあって、ギルドカードが口座の証明になっている。口座からお金を出し入れする時はギルドカードを取り扱い窓口に出せばいい。ギルドカードはどこのギルドでも共通で、口座自体はどこのギルドカードにでも登録できるが一番最初の口座開設は商業ギルドで行わないといけないし、ある一定以上のお金が動く時は保証人が要るな」
「へええ、そんな仕組みが……」
銀行じゃん!
「我が家も家の口座が商業ギルドにあるぞ。それを代々当主が受け継いできている」
「家の口座!」
「貴族は個人資産と家の資産は別管理だからな」
師匠が父の説明を補足してくれた。
「ん? 僕のポーション代金は? 口座作った覚えがないけど……」
「そこを今回手続きしないとな」
俺の個人資産が! いくらになってるんだろう!
「口座を正式に作るとなると、色々面倒事も増えていくんだが、仕方ない」
父がそう言いため息を吐く。
「仕方ないでしょうね」
「仕方ないわね」
師匠と母が続いて言って俺を見てため息を吐いた。なんで?
そんな微妙な空気の中、ラヴァがイオにジュースを分けてもらっていた!
カメラがあったら、ぜひ撮りたい!
「明日は王城へ登城しないといけないから明後日以降になるな」
「わかった! 決まったら教えて?」
「ああ、もちろんだ。スピネル、屋敷の中を二人に案内してくれ」
「かしこまりました」
師匠がスピネルに言うと、俺たちの前に来て手を胸に添え、頭を軽く下げた。
「フルオライト様、アイオライト様、ご案内いたします」
「ルオでいいよ」
「イオ!」
「では、ルオ様、イオ様と呼ばせていただきます」
「はい!」
「はい!」
俺たちはジュースを飲み終えると、スピネルに屋敷の中を案内してもらった。
「この階にあるのはお客様を招いてお話をする部屋がいくつかあります。今いた部屋も、そうですね」
応接室は一階にあって、他に食事をする部屋が五つあるとか。人数で振り分けたり、晩餐みたいな正式の場合は大きなテーブルがある晩餐室でやるとか、奥は厨房などで、使用人が働く場所だと教えてもらった。
「ルオ様、イオ様が泊まっている階がお客様のお泊りになる階です。旦那様が暮らすのはその上の階、ルオ様、イオ様が学院へ通われるときはその階にお部屋を用意いたします」
「よろしくお願いします」
「よろしくおねがいします」
俺たちが揃って頭を下げると、スピネルはふっと笑った。
「私は使用人ですから、そういう時はわかったと胸を張ってよいのですよ」
「そうなの? でもよそのおうちなんだし、いいのかなあ?」
「はい、身分とはそういうものです」
イオは首を傾げている。俺はマナーは学んだけど、使用人はローワンとネリアだけだったし、ギードとカリーヌも友達感覚だった。使用人に対する正しい接し方をしているとは思えないな。
でも覚えておかないと貴族学院に行ったら、貴族の子供ばっかりなんだろうから、困るかもしれない。
侯爵家の彼らにも会うだろうな。ちょっと憂鬱。
「こちらは庭園です。天気のいい日はお茶会も出来ますよ」
馬車から見た庭園に出た。色とりどりの花が咲き乱れて薔薇もいろんな種類が咲いていた。
(主、花の精霊が飛んでるよ)
(花の精霊)
その時風が強く吹き抜けた。花びらが舞う。
小さな光がその花びらと一緒に舞った。
花の精霊はあの光だろうか?
イオがキャッキャと笑って、花の側に駆け出す。風はすぐにはおさまらずにイオの周りをつむじ風のように舞って、吹き抜けていった。
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