第55話 王都ネラーレ
オーア王国、王の住まう都、王都ネラーレ。
先ずは侯爵家の車列とお別れし、一路師匠のお屋敷へ。貴族の住む街は貴族街と言って門で検問がある。平民は通行証がないと通れないそうだ。王城はさらに奥で、王城の城門でも検問があるからおいそれと賊は潜り込めないってことだね。
色とりどりの花が咲いている庭園の奥に屋敷がある。入ったばっかりの区画はアパートメントタイプが多かったけれど、奥に行くほど、つまり城に近づくほど、広い敷地に大きな屋敷が立っている。
「あれがタウンハウスだ。大貴族ほど領地を持っているから、王都で行われる行事などに参加するときは所有するタウンハウスに滞在するんだ。なければ貸し出されているタウンハウスを借りて滞在する。宿に泊まることはしないな」
師匠がいろいろ教えてくれる。それを俺とイオがうんうんと聞いている。
「十二歳から通う学院はうちのタウンハウスから割と近いから見学に行くか?」
「行きたい!」
「たい!」
「そうか、二人はうちのタウンハウスから通えばいい。学院には寮もあるんだがな」
「いいの?」
「いいの?」
「ヴァンデラー卿、そこまでのご厚意は……」
父がさすがに間に入った。
「弟子ですからね。弟子の兄弟なら面倒見ますよ」
師匠太っ腹!!
「ヴァンデラー卿には世話になっている。ありがとう」
「あーいや、そんな」
師匠が両手を横に振る。照れてる!
(めちゃくちゃ照れてるわ。わたしに救いを求めてもどうしようもできないわ)
(そうなんだね)
カルヴァの呆れた念話が飛んできて、師匠って照れやさんなんだなと思った。
馬車は王城を通り過ぎ、東地区へと入った。東門に通じる道をゆっくりと進む。
「この区画は……」
「養父が王家の血筋に連なる家系なんですよ。元々の領地は王家直轄地だったせいで、周りは侯爵やら直轄地やらに囲まれている東の飛び地です。養父は私の師でもあったので、いろいろ世話になったんですよ。このタウンハウスもその一つですね。工房が併設されていて、そこを継ぎました。ああ、私は養子なので、王家の血は入ってないです」
いきなり、師匠の過去が!
「ああ、見えてきた。あの、白い壁の家です」
開けた窓から風が入ってくる。仄かな、花の香り。
鉄の柵に囲まれた美しい花園。そこから奥に白い壁の石造りの屋敷が見えた。アーチ型の窓は小さいがガラスが嵌っている。ガラス!
「ガラス窓!」
「言うと思ったなあ」
馬車の中が笑いに包まれた。
「お待ちしておりました」
白いお髭の、かっちりした家令の装いに身を包んだ老齢の家令が出迎えてくれた。
「スピネル、息災で何よりだ。世話になる」
「ここは旦那様の家です。いつでも帰ってきていいのですよ」
「……ありがとう。ルヴェール男爵家の皆様方だ。客人としてもてなしてくれ。それから、使用人たちと、領民の代表者たちだ。よろしく頼む」
「かしこまりました。案内して差し上げなさい」
後ろで控えていた、メイドさんたちが、後ろの馬車から降りてきた皆を誘導する。
「工房主たちや御者は使用人用の別棟があるからそっちに泊まってもらうことにした。その方が気を使わなくていいだろうと思って。ネリアとギードとカリーヌはルヴェール男爵家と一緒の区画にしてもらった」
「それでお願いする」
父が頷く。そして大きな重厚な両開きの扉を通り、エントランスホールへ入った。広いホールの奥に二階へ続く階段がある。奥には扉。
メイドさんがそれぞれついて客室に案内してくれた。三階に案内されて両親が一部屋、俺とイオで一部屋、ギードとカリーヌは二階に一部屋づつ。ネリアは両親の部屋の隣の使用人室で泊まることになった。
中は明るい色に塗ってあって壁は薄いグリーン。天井に夜空の絵が描いてあった。柱は石の柱で廊下はアーチ状になっていた。
侯爵邸より豪華なんじゃないかと俺は思った。
そしてガラス窓! 窓自体は小さく外に鎧戸がある。
「ソーダ灰ガラスだ。透明度は低いけど、窓ガラスだ」
そっと窓ガラスに触れた。
ルヴェールの屋敷にも設置したい。明るい、大きな板ガラスも作りたい。
「がんばろう」
窓から見える庭園を眺めて俺はぐっと拳を握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます