第54話 献上品ラプソディ(三)
翌朝はネリアが来て世話を焼いてくれた。
「午前中はお部屋でお過ごしくださいとのことでしたよ」
ネリアは水差しの用意をして、また来ますと出て行った。
仕方ないので、積み木をしたり、あっち向いてホイとかやってたら、疲れたようで、イオは寝てしまった。もうすぐお昼になるくらいの頃で、俺も寝ることにした。
服は皺にならないようにできるだけ気を付けたけど、どうかな?
「ルオ坊ちゃま」
ネリアの声に目が覚めた。イオはもう起きてるようで、物音が聞こえた。
「急ですがお昼に出発するそうです。夜はすぐ近くの街で、宿屋を手配していると伺いました」
「ほんとに急だね。お昼はみんな食べたの?」
「軽く済ませて出発だそうです。こちらに用意しましたよ」
テーブルに簡素な食事が乗っている。パンとスープ。
「ありがとう。寝ぐせついてるかな?」
そういうとくすっと笑ってネリアが髪を梳かしてくれた。
「かっこいいですよ。ルオ坊ちゃま」
「ありがとう!」
「にいさま、かっこいい」
「イオも可愛いよ!」
「まあ、お二人ともかっこいいし、可愛いですよ」
(主かっこいい!)
褒め殺しにされそう!
昼食を済ませてイオとネリアと一緒に、両親と師匠がいる応接室にむかう。
「おお、来たか、体調はどうだ?」
「げんき!」
「僕も大丈夫」
イオは父に飛び付いた。疲れた顔だった父が笑顔になる。部屋にはギードとカリーヌもいた。工房主さんたちは宿をとっているそうだ。
宿に使いを送って、領都の門を出たところで合流するということだ。
「王都まではデュシス侯爵の手配で進むからついて行けばいいそうだ。王への献上品も城への手配をしてくれると言っていたから……」
父が旅程を話してくれた。とりあえず後をついて行けばいいんだね。
「大貴族らしいと言えばらしいんだがな」
師匠の眉間に皺が寄っていた。母も疲れた顔をしていたし、高位貴族は男爵家には畏れ多いってことだったのかな?
(私はあんまり好きじゃないわ。献上品出した時なんか、つまらなそうな顔が一気に変わったし、主の名前を聞いて態度をころっと変えたのよ)
カルヴァが腕を組んで嫌そうな顔で呟いた。師匠から何かを言われたのか、両手で口を押さえた。
(まあ、主は凄いっていうのはわかったんだけど!)
(カルヴァ、落ち着く)
ラヴァが宥めに入った。大人たちの話はどうもカルヴァにとってはいい話し合いじゃなかったみたいだ。
「とりあえず、私たちは侯爵の依頼はやり遂げたんだから、胸を張って、屋敷を出ればいい」
父がそう締めた。
しばらくすると馬車の準備ができたと、侯爵の使いがやってきて、俺たちは車寄せに移動することになった。侯爵たちはもう出発してしまったらしい。
「車列の一番後ろだ。見失わないようにするだけだ」
はっはっはと父は笑って、俺たちはそれぞれ、馬車に乗り込むと、侯爵家を後にした。
侯爵家と一緒にする旅は毎回いい宿に泊まって野営なんかなかった。
王都が近いので、街道を通る馬車や旅人が多く、侯爵の馬車が通るとさっと両脇に避けていた。
俺たちの馬車もだ。通り過ぎるまで頭を下げて目線が合わないようにしていた。
貴族とは関わり合いにならないように気を付けている、そんな感じだ。
侯爵家を出発して五日目の午前、大きな城壁が見えてきた。
「あれ、凄い大きい」
「あれが、王都の城壁だ。ぐるっと街を囲んでいる」
師匠が目を細めてそちらを見て言う。
「王城が真ん中にそれを囲むようにして貴族の屋敷が、それを囲むように騎士たちの家が建てられていて、八方向に大きな通りが王城を囲む城壁の門から続いている。多分、方向的に西門から入場すると思う。私の屋敷は王城の東にあるから侯爵邸より東に向かうことになるな」
「すまない、面倒をかける」
父が師匠に頭を下げた。
「いえ、弟子の実家のことですし、私の屋敷は大きい割に誰もいませんからね。かえって屋敷と家令が喜ぶでしょう」
「大きいんだ」
「まあ、な」
馬車はすんなり王都の門を通り過ぎて、中に入った。
人、人、人、お祭りのような、喧騒。カラフルな家々、遠くに見えるお城。
「王都だ!」
初めての王都に、俺とイオのテンションはMAXだった。
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