第53話 献上品ラプソディ(二)

 出発の日は快晴。

 献上品はマジックバッグに仕舞って父が持っている。マジックバッグは師匠の貸し出しだ。馬車は三台と荷馬車一台。

 一台は車体を大きく豪華にうちの家紋入りで新しく作った。それをなんと、父の魔馬が牽く。騎馬がいいのかなって思ったけど、いいらしい。父が騎馬に乗って移動はいろいろ貴族的にアウトらしいから。本人は騎乗して数騎で往復したほうが楽なんだがとブツブツ言ってた。


 家紋入りにはうちの一家と師匠、前に侯爵領に乗っていった馬車にはギードとカリーヌとネリア、服飾工房の工房主、ハンス、エリック。残りの一台(家紋なし)には今回、それぞれのギルドに加入する各工房主の皆さん。荷馬車には、テントや食料、ギードとカリーヌの荷物、一部王都で商会に売る商材が積んである。

 それをうちの騎士五人が護って移動する。正直、護衛が少ないけど、侯爵領からは侯爵たちが合流するそうだから大丈夫だそうだ。


 俺のインベントリには最低限の食料と水、お金が入っている。何かあったら、それで生き延びろと言われた。ラヴァもいるから頼れとも言われた。

 ラヴァは人前ではしゃべらないように言ってあるし、食べるものと言ったら甘いお菓子。その甘いお菓子は食料と一緒にインベントリに仕舞ってある。

(主、お出かけ?)

(そうだよ。侯爵領と、王都に行くんだ)

(楽しそう?)

(初めて行くところだからわくわくしてる)

(わくわく!)

 ラヴァが俺の膝の上でくるくる回る。それを馬車に乗っている全員が見てほっこりする。


「ラヴァ、可愛い!」

 イオがラヴァを手招きするとラヴァがイオの膝の上に飛び乗る。

(可愛い? 撫でて!)

「イオ、ラヴァが撫でてだって!」

「ふふ~」

 イオが鼻息荒く、ラヴァの身体をそっと撫でる。すべすべ感が気持ちいいらしい。

 ラヴァも大人しくされるがままだ。多分、家族を一周する。


 王都では師匠の持つタウンハウスにお邪魔することになっている。うちは侯爵家と違って王都で、社交をしてないせいで(本音は貧乏なせい)タウンハウスを持っていない。そういう貴族はその期間、貸し出されているタウンハウスを借りるそうなんだけど、師匠のおかげで借りずに済む。

 その代わり料理人を貸してほしいとのことで、エリックがついてくることに。

 めちゃめちゃ緊張してたよ! ハンスと慰め合っていた。

 馬車は結構速い速度で進む。馬車を引いているのはみんな魔馬だ。

 うちの領には魔馬が結構いる。昔から飼育していて増えてきた経緯があるらしい。騎士達の騎馬はみんな魔馬だし。


 前回は難民たちが街道を歩いていたけど、今回は見かけない。それだけでほっとするけど、お尻!

「椅子、痛くない」

 座席のクッションを押すと結構反発がある。

「さすがに最新式を作ってもらったんだよ。私も辛かったからな」

 父が遠い目になった。最新式はお尻が痛くないのか。

 え、お金は大丈夫だったのかな。俺が心配することじゃないけど、そういえば俺のポーション代金はいくらになってるんだろうか? 今度教えてもらわなきゃ!


 侯爵領には十日ほど、王都にはそこから四日ほどだから移動だけで片道二週間。一か月はかかるんだね。今回は街道を真っ直ぐ進む。前回は行きは廃村を避けた道行だったみたいだ。

 そうして、廃村だった村は嘘のように活気を取り戻していた。

 領を出発して一日目の夜。村の外にテントを張った。道中、魔物の襲撃も、盗賊の襲撃もなかった。

(主、村、精霊いる)

(そうなんだ! よかったね)

 あの時降り注いだ祝福は地に満ちて精霊を集めたんだろうな。


 前回より旅程が早まり、八日目の昼過ぎに侯爵領の領都についた。すぐに門を通り、侯爵家へ。今回も大きなお城の侯爵家に泊めてもらう。


 今日は疲れをとるようにと客室に案内された。前回と同じ部屋だった。

「疲れたか?」

 コンコンとノックの音がして扉を開けたら師匠だった。

「うん。でもお尻が前回ほど痛くないから大丈夫!」

「痛くない! ししょー」

「そうか、よかった。俺たち大人は晩餐に招待されているが、ルオとイオは部屋に食事を運んでくれるそうだ」

「そうなんだ。部屋で大人しくしてればいい感じ?」

「そうだな。何があるってわけでもないが、ラヴァは見つからないようにしておいた方がいい」

「うん。隠れてもらってるから大丈夫」

 ラヴァは器があっても見えなくなることができるんだって!

(わたしは主についていくから何かあったら、連絡しなさいね、ラヴァ)

(わかった! カルヴァ!)

 どうやら、精霊同士は離れていても、話ができるみたいだ。

「ゆっくり休め。あとでネリアが来るそうだ」

「うん。わかった」

「わかった! ししょー」

「出発は、明日かもしれないからいつでも出かけられるようにしておいてくれ」

「はい!」

「はあい!」

 真似をするイオが可愛いと悶えながら師匠を見送った。


 食事を運んできた侯爵家のメイドさんとネリアが一緒に来て、ネリアが食事の世話と夜寝る支度をしてくれた。

 部屋の灯りを落としてネリアが出て行く。

 あの子供たちの顔がちらりと頭をよぎったが、すぐに振り払った。

「おやすみ、イオ」

「おやすみなさい! にいさま」

 イオは最近、兄様呼びだ! めっちゃ可愛い! 打ち震えていると、また強制的に寝落ちた。


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