第52話 献上品ラプソディ
インベントリ。
収納スキルだ。実験してみたところ、ゲームや小説でよくあるアイテムボックスやインベントリ、収納庫とほぼ同じ。
入れたもののリスト、個数が頭の中に浮かぶ。重さも感じないし、時間停止も自由。これは普通に保存、こっちは時間経過なしとかできる。
やっぱり鑑定とインベントリはチートだよ。
「インベントリはな、知られないほうがいい。マジックバッグだと思わせておけ」
師匠は真剣に、本当に真剣に言ったから、真剣に頷いた。
「インベントリは魔力量に比例する。ただ魔力自体は入れた時だけ使われて保存の時はほとんど使われてないな」
収納実験のため、収納していたものを工房に出してる時に師匠が言った。
あれ? この言葉って使ったことのある人じゃないと言えないんじゃない?
「師匠、インベントリ持ってる?」
そう聞くとにやっと師匠が笑った。意外とイケメンなのが腹立つ。
「ぶっちゃけると、持ってなきゃマジックバッグは作れなかったな。マジックバッグの作成方法はレシピ登録して使えるようになってるが、あまり使われてないな。魔力量と、時空間属性が難しいらしい。……というわけで、俺に作製依頼が来るんだよ。ほんと面倒」
「あの、マジックバッグ持っている商会って……」
「ああ、俺に作製依頼かけてきた中で、すっごくフレンドリーで気持ちよく依頼料払ってくれた太っ腹な商会で、今でもいいお付き合いをしているところだな」
なるほど! そういうことだったか~きっと太っ腹なところが響いたんだな。
「さて、検証はこのくらいにして、今日は鏡の作製をするから手伝え」
「もちろん! しないわけがない!」
ひゃっほ~! ガラスぅ!
「主、僕お手伝い!」
ささっと肩に乗ってきたラヴァが顔を俺に近づける。その鼻先を俺は指で軽く突くと、鼻息荒くラヴァはさっさと火を起こしに行った。
「献上品? 小さくない?」
俺はハンスが用意したと思われる型を見た。手のひらサイズだ。
「お子さん用に手鏡だ」
「ああ、お子さんいたね」
俺は侯爵の屋敷で会った面々を思い出した。
「ガラス工房のほうが設備はいいよ?」
俺の工房の炉は小さいからね。
「いいんだ。とりあえず手順通りに作っていくぞ」
「はい」
師匠が登録したという、鏡の作製レシピ。俺は補助をしながら、確認していく。
ガラスの材料が溶けて混じったところから、緑の色味を出す成分を師匠が錬金術で抜く。
「僕、できるようになれる気がしないんだけど」
「大丈夫、経験あるのみだ。スキルは持っているんだから」
「はい!」
前世ではなかった技術で作られるガラス。ガラス工房と言えど、材料はガラスの素材を作ってくれる製造会社から仕入れていたんだっけ。そのガラスより高品質なガラスにため息が出る。
「師匠はすごいな」
「は? いきなり何を言ってるんだ?」
「え、正直な気持ちを言ったのに、その返しとか!」
「わかったわかった! とにかく全部終わってからだ」
あれ? 師匠の耳が赤い? 照れてる?
俺、師匠の弟子になれてよかったな。
屋敷全体というか、ルヴェール領のみんながばたばたしていた。
「私、学院に行きたくありませんわ~~!」
カリーヌが最近一日一回は叫ぶ。みんな慣れて取り合わないけど、たまにギードがため息を吐きながら説得する。
「貴族なんだから行かないとダメだろう。旦那様にもご迷惑がかかる」
「なぜ私は十二歳なのかしら!」
あ、ギードの口が開いたままになった。
「奥様に呼ばれていたんじゃないのか?」
「大変!」
慌てたカリーヌが走り出す。
「走らない!」
「はい!」
ギードは苦労人だな。面倒見がいいというか。カリーヌは何でああなっちゃったんだろう?
「そんな憐れむ目で見ないでください。そもそもルオ坊っちゃんのせいなんですからね」
ギードがやや怒った感じで、去っていった。
ええ、俺のせいなの?
「ルオだから仕方ないって」
師匠もぼそっと言うの止めてください。
それはともかく、母とカリーヌの献身のおかげでルヴェール染めの布を二種、献上品とすることになった。それを一部に使ったドレスや俺たちの服も作った。
なぜなら、献上品を献上するのに、七月に全員で王都に行くことになってしまったからだ。
ギードとカリーヌは学院の入学前試験もあるので八月半ばにはどっちにしろ王都に向かわなければならなかったので、一緒に移動だ。今回は各工房主もギルド登録のため、一緒に向かう。もちろん師匠もだ。
ローワンと騎士たちの一部は留守番になる。
侯爵家に寄り、その後王都だ。初めての王都、どんなところなんだろう。
出来上がった鏡を磨きながら俺は旅立ちに思いを馳せた。
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