第46話 ガラス職人

 「ここが工房ですか」

 ハンスがびくびくしながら俺の工房の中を見て回っている。とりあえず、俺の石コレクションを見て引いていたのだけは言っておこう。

「これが作ったガラスコップですか。よくできてますよ。ガラスの作り方は合っているんじゃないでしょうか。あとはその……造形の問題かと」

 あ、言い淀んだ! いいんですよ! 下手って言ってくれて!

「俺が鑑定しても、ガラスって出るからな。そこは大丈夫だろう」

「うう。下手くそなのはわかってるんだよ~! どうしたら上手く作れるのかなあ?」

「それは……練習あるのみ?」

 人のよさそうな顔に申し訳なさそうな表情を浮かべハンスは言う。

「やっぱり!」

 俺は当然の返しに床に手を着いた。


「まずは工房の建設と炉の立ち上げか。ちょくちょく見に行かないとまずいか」

「私はガラスの製造自体はできるんですが、炉のこととかは、あまり……独立する時は親方が手配してくれるはずだったので……」

 それもなくなってしまいましたがと乾いた笑いを漏らすハンス。

「そこは領主様が受け持ってくれるそうだから心配するな」

 師匠が笑ってハンスの背中を叩く。

「それで、ガラスの材料なんだが……」

「それはですね、親方のところは……」

 大人の話し合いが始まったので俺はカルヴァとラヴァと遊んだ。


「ふむ。やっぱり、ルオの揃えた材料で間違いはないな」

「多分、材料の状態で、色々粗が出ているかと思いますが、製造方法も間違いはありません。もっと材料の質が良ければ綺麗なガラスができるでしょう」

 二人の話に耳がぴくぴくっと動くような気がする。前世の知識から似たような鉱石とか、集めたのは無駄じゃなかったんだな。嬉しい!


 綺麗なガラスか~ステンドグラス作ってみたいなあ。

 あともっと透明なガラスと……そうだ! 鏡だ! 鏡がないんだよ。水が入った桶とかで、容姿はわかるけど、やっぱり鏡欲しいよな~

 侯爵邸にも見当たらなかったけど、ない感じなのかな? 金属板を磨いて作ってたけどそっちも貴重な感じなのかな?


「師匠、姿を見るものってないの? 桶に貯めた水に風景とか、自分の顔とか映るじゃない?」

「ああ、なんだ突然。まあ、いつものことか。あるぞ、鏡って言って、金属を磨いて作る」

「侯爵様のうちでも見かけなかったけど、高価なの?」

「手間がかかるからな。それなりにする。客には使わせないだろうな」

「ガラス製の鏡はないんだ?」

「んん?」

 師匠の声がひっくり返った。ハンスも首を傾げている。

「聞いたことはありませんが、どこかの秘匿技術ですか?」

「あー、思いついたから言っただけで、ないならいいんだけど……師匠近い近い!」

「吐け、思っていること吐け」

「えええ~」

 俺は説明する羽目になった。はあ。


「ガラスって光を通すじゃない? 裏に光を反射する素材を張ったら鏡になるでしょ?」

「光を反射する」

「素材」

 師匠とハンスがオウム返しだ。

「宝石とか水晶ってきらきらするじゃない? でも暗いところでは光らないじゃない? あれって光を反射してるから綺麗なんだと思うの。水晶ってガラスの材料だから同じ性質があるはずなんだよね。昼間物が見えて、夜ものが見えないのは光があるかないかでしょ? だからできると思うんだよな~銀とか薄くね、こう、板ガラスに貼って」

 あれ、師匠が頭を抱えている。


「それで、ルオはどうして気付いたんだ?」

「んん?? 桶を見ればわかるよね?」

「桶?」

「水を入れた桶。透明な水の下に桶があるから、顔が映って見えるんだよね? 暗く見えるけど、それは桶が木だから暗いんじゃない? 水もゆらゆらするから歪むし。透明なゆらゆらしないものって水晶やガラスでしょ。桶の代わりのものを下にすれば鏡の出来上がり!」

「……板状のガラスができたら実験しよう。ハンス、協力をお願いする」

「はい」

「ルオ、ガラス作ろうか? せっかく専門家がいるからな」

「やったあああ!」

 小躍りして喜ぶと、生暖かい目で見られた。いいじゃん、ガラス作りたいんだから!

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