第45話 職人村
村丸ごと職人計画始動! じゃじゃん!
俺は下準備のため、視察に向かう第一陣の中にいた。馬車三台と騎馬五騎の護衛を引き連れての移動になる。馬車で三日の距離だ。
馬車も騎馬も魔馬なので、移動が速い。この馬車には師匠と俺、ギードとカリーヌが乗っている。
「村の近くにダンジョンがあってそれで壊滅したんだ」
一緒に乗っている師匠が説明してくれる。
「ダンジョンは魔物が湧く場所で、昔からあったり、突然現れたりする。中が魔物でいっぱいになると外に溢れ出て、群れで移動する。数が多いから村人では対抗できないことが多い。だから、たいていは逃げる。ルヴェールの村に来た難民がそれだ」
「今はダンジョンから魔物は出てないの?」
「領主様の領軍と侯爵家の領軍が殲滅して、ダンジョンの中もある程度間引いたと聞いた。今は大丈夫だろう。冒険者にも依頼したと聞いた」
「冒険者!?」
俺は食い気味に師匠の方に身を乗り出す。
「近い。なに興奮しているんだ」
「え、だって冒険者だよ? ……って何するのが冒険者なの?」
「……まあ、いい。冒険者は冒険者ギルドっていう組織に登録した者をいう。仕事内容は多岐にわたるが主に危険地域の討伐と護衛任務、薬草などの採取だな。他には街中での清掃作業や手紙配達などもやる。いわゆる何でも屋だ。十歳から登録ができて、身分証明にもなるから登録者は多いな」
「そうなんだ。成りあがることもできるの?」
「ランクが上がれば収入もよくなるから成りあがることもできるな。成りあがるのが良いことだとは俺は思わんが……」
そういう師匠の瞳が少し暗い色をしたのが印象的だった。あんな格好であちこち旅していたのも、何かあったのかもしれないなあ。
「村のあった場所は建物や魔物の残骸は処分して更地に戻してあると聞いているから、何もないと思うぞ。弔いの儀式もしたからレイスやアンデッドの心配もしなくていいはずだ」
そしてついた場所は、何もなかった。ダンジョンの方向は道になっていた。森があったけれど、なぎ倒されたりして、危ないから伐採をしたらしい。
うちの村と同じくらいの広さだ。畑分も入れて。最近は森を少し切り開いて畑を広げているからもう少し大きくなると思うけど。
まず、綱を引いて区画を決めて、建築するそう。それぞれの工房の人が何やら紙を見て話し合いをしていた。父もギードを補佐につけていろいろ指示していた。
「ルオ、来なさい」
父に呼ばれて向かう。そこには村人が一人いた。三十代後半くらいのひょろっとした茶髪の男の人だった。
「ガラス工房に働いていた職人のハンスだ。領都にあった工房で働いていたのだがそこがなくなってしまったそうだ。彼は村に里帰りしていて助かった」
「ハンスです。よろしくお願いします。独立寸前だったので、残念でした」
頭を下げた彼はすまなそうな顔をした。
「独立寸前?」
「ああ、親方になるのは資格が必要で、ギルドに工房主として登録する際、親方の承認や推薦がいるんだ」
師匠が説明してくれる。
「彼の勤めていた工房の親方は亡くなってしまったそうだ」
父が補足する。
「彼一人の技術じゃだめなの?」
「ギルドの資格は持っているんです。推薦の書類をもらえればってとこで」
ハンスが事情を付け足す。
「そこは私がかけあってみよう」
父が言うとハンスが「よろしくおねがいします」と頭を下げた。
「この辺りがガラス工房になる」
「やったああああ!」
俺は飛び上がって喜んだ。師匠が口を押さえて笑いをこらえていた。カルヴァは遠慮なく笑っていた。ラヴァは首を傾げていた。
「落ち着きなさい。炉の建設や材料をどこから調達するのかとかいろいろあるんだよ」
父は俺の頭を押さえるようにぐりぐりと撫でまわした。
「ずっとここで作業するの?」
ハンスの視線は父に向かった。
「今回で、建築工房に指示が終われば自宅に戻らせる予定だ」
こほんと父が咳払いする。
「じゃあ、じゃあ、僕の工房でガラスの研究、手伝ってもらってもいい!?」
え? と頭の上に疑問符を浮かべたハンス、手を顔に当てる師匠、苦虫を噛み潰した父。
「…………まあ、よかろう」
「やったあああ!! よろしくハンスさん!」
「呼び捨てで構いません、ええとルオ様?」
終始、父や師匠の顔を見てきょろきょろしていたハンス。帰りは一緒の馬車でお持ち帰りされることになった。
ちなみにカリーヌは母に連れまわされ、服飾工房に携わる人たちと打ち合わせをしていた。
第一回目の下見が終わって、俺は上機嫌で屋敷に戻ったのだった。帰りの馬車の中で、ハンスを質問攻めにして涙目にさせてしまってごめんなさい。
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