第44話 春を迎える

 冬は雪かき、座学、雪かき、ポーション作り、雪かき、座学、剣術の鍛錬、雪かき、雪かき……。という具合に過ぎていった。うん、ほぼ雪かきだね!

 だって、半端なく降るんだもん! 総出で雪かきしないと、出られなくなっちゃうんだよ。たまに、ラヴァにお願いして雪解かしてもらったのは内緒。

 座学に暇を持て余したイオが参加。一緒にお勉強をするのが楽しいらしい。頭の回転は良いみたいで、問題なく吸収していき、基本文字はすぐ覚え、絵本もすぐ読めるようになった。俺が使っていた教材を使って師匠が教えてる。

 その間、母は父の執務の補助、ネリアは家の仕事をしていた。


 師匠は自分の研究に手を出す余裕ができたと工房に籠ることもしばしば。でも、雪をものともしないドワーフさんたちに連れ出されて、村に作った酒蔵で、ホップを使ったエール(ビール)の様子を見に行かされたりしていた。大麦の作付面積を増やす計画をしているようで、帰ってきていつもぐったりしていた。

 リンゴのお酒は順調で、早ければ春か夏ごろには出来上がるそう。ワインのボトルの空き瓶があるそうなので洗って使う予定だとか。蒸留は三分の二を使って行うことになった。

 そしてリンゴの木を挿し木をして村に増やすことにしたそうだ。食べても美味しいし、育てない手はないってことになった。木が育つには時間がかかるしね。実がちゃんとなるまでは採集で、少しずつ作っていくことにしたようだ。

 そういえばリンゴ酢って出来るんじゃないのかな? 健康にいいはずだし、お酒飲めないけど、お酢は薄めて飲めるし、殺菌効果もある。お酒が出来上がる頃、提案してもいいかもね。


 俺はガラスの製造をもっとうまくできないか試行錯誤していた。透明度を増す素材をどうしたら採取できるかとか、工房で前に作った屑ガラスをこねくり回していた。

 ガラスに色を付けるのは教会のステンドグラスを見たから、もう技術として浸透はしているんだと思う。ガラス瓶を詳しく見てないけど、もしかしたら吹きガラスの技法もあるのかもしれない。あの商人さんにガラス工房を紹介してもらえないかなあとちょっと思った。


 ギードはローワンに文官仕事を叩きこまれ、カリーヌは藍染めの研究を母とともに進めていた。

 父は溜まった領の書類をずうっとローワンと片付けていた模様。たまにギードも手伝っているようだった。俺は手伝わなくていいのかな? あと一年ちょっとで十歳を迎えるのに。


「五歳~」

 イオがくるくる回っている。可愛い。

 イオも五歳になった。俺が前世を思い出した歳だ。

 みんなでイオをお祝いした。ごちそうを食べて、プレゼントももらったイオは大はしゃぎだった。

「本格的に剣術を教えるぞ!」

 父が拳を握って宣言すると、イオが真似した。

「剣術する!」

 可愛い。みんながほっこりした。


(ふうん。あの子は風の精霊に愛されてるのねえ)

 カルヴァの声が聞こえた。ちなみに師匠の頭の上で寝そべり、足をパタパタさせている。

「風の属性魔法を覚えるかもしれないな」

「そういうものなの?」

「ルオは火属性の適性があるかもな。ラヴァがいるから」

(主、火属性?)

「十歳までわからないんでしょ?」

「来年が楽しみだな」

「うん!」

 師匠が俺の頭をわしゃわしゃとかき回す。くらくらする~!!


「それでだ。皆が集まっているから、これからの予定を伝える。私とローワンは侯爵様に依頼されたソア子爵領の廃村の復興事業にしばらくかかりっきりになる。復興した後はルヴェール領となることを約束された。まあ、本当にそうなるかはわからんがな。ソア子爵領から来た難民を冬前に移動させたのはその下準備だ」

 そんなこと、言われてたんだ! それでテントの難民たちを連れて行ったんだね。

「ルヴェールに一番近い村を職人村とするつもりだ。難民となった中に相当数職人だったものがいて、まとめて工房を作ったほうがいいということになった。炭・鍛冶・細工・服飾・建築は決まっている。他は難民の技術レベル次第だな。金もかかるし、すぐには動かないと思うが……なんだルオ」

 俺が妙な動きをしていたのが気になったのか、父が聞いてきた。

「ガラス職人がいたらガラス工房作って欲しいです!!」

 場の空気が、ああ、そうだねって感じになった。

「確か一人いたような気がしたな。わかったわかった。興奮するな。考えておくから」

「絶対作って!!」

 肩を師匠に押さえられた。めっちゃ前に出ていたらしい。父が苦笑いをしていた。

「本格的になったら、状況をヴァンデラー卿に伝える。ヴァンデラー卿と村の工房にも協力を頼んだ。色々慌ただしくなるがよろしく頼む」

 みんなが「はい!」と頷いた。


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