第47話 鏡を作ろう!
「え、その炎は?」
ハンスにラヴァが見つかった件。
「高温な炎を追及してて」
視線を逸らしつつ言った。ちなみに焚き木の上にラヴァが鎮座してめっちゃ踏ん張っている。炎の色は白い。ラヴァはもう自分のお仕事だと思っている様子だ。
「いやいや!! ちょっと待ってください? 木の燃える炎の色って赤ですよね!? しかも熱い! え?」
「この炉には火の精霊が時々出るんだ」
「ええええ!?」
「この炉は錬金の材料を融かすぐらいの炉だから小さいんだが」
師匠はこほんと咳払いをした。
「なぜか気に入られたようで、遊びに来ることがあるんだ。火の精霊は火が好きなんだろう」
師匠、目が泳いでるよ。
「そんなものですか? ああ、そういえば村に精霊教会がありました! 精霊にゆかりの地ってことですか? 凄いです!」
ハンス、凄い良い人。騙されやすいかもしれない。
「さてこれに型に入れたガラスを入れて焼く、と」
小さな丸いコンパクトの鏡のような板を型で作ることにした。まず、屑ガラスを作って粉々にして、型に入れる。型が一番時間がかかったよ。
「溶けてるガラスを吹いて作ったりは?」
「したことはないですね? 吹く?」
吹きガラス、ないのか? でも、秘匿技術が多いから、どこかで作ってるとは思うんだけど。
「そうなんだ。瓶も型?」
「そうですね。綺麗に大きさを揃えるのが難しいです」
「大変そう。どうしよう」
「そこは練習って奴だな」
師匠が笑って言って、俺の頭をぐりぐりする。目が回るから!
丸い板ガラスができた。失敗すると見込んでいるのでたくさん作った。
材料は必死にかき集めた。
師匠が河原で錬金術を使って探してくれた。いや、あれは鑑定なのかな?
「これに光を反射するものをか。銀とか言ってたな。ルオ」
ギクッと肩をすくませた。
「だって、銀て磨けば顔が映るから……」
師匠との晩餐会に有ったのだ! だから誤魔化せると思う。
「確かに。金属鏡は磨くと物が映るようになるものだったな。銅の合成物が多いが、銀もあった。ふむ。道理に合っているな。ただガラスに定着させるとなると……めっきか」
「めっきできる職人はいるんですか?」
「仕方ない。見つかるまで俺がやろう。錬金術で何とかなる」
師匠、チート! さすが師匠!
わくわくした顔で見ていたら、ジト目で見られた。
「ガラスの表面の汚れを落とすくらいやれるな?」
「もちろん!!」
ガラス~! 俺は鼻歌を歌いながら磨いた。
「銀を付着させても、とれやすいと思いますが……」
「そこは別の金属で覆うしかないな。予定としてはこんな感じで、貴金属で覆う予定だ。宝石もちりばめる」
「え?」
俺は師匠の顔を見る。
「完成したら王家と寄り親の侯爵家に献上する。技術は錬金術ギルドに登録する。なに、俺がギルド長だから何の問題もない」
はい!? ギルド長ってお偉いさん……!
「特許料ががっぽり入ってくるようにしてやる!」
師匠、めっちゃ悪い顔になってるよ! もしかして守銭奴なの?
「めっきは問題ない。ただ、ガラスの色がもう少し、水晶のように透明だといいんだが」
「他の金属を混ぜるとかで色が出ますが、透明にする金属は知りません」
「緑だから紫の色を発色する金属を入れればどうかな?」
色々あるんだけど、鉛とか。でも一番よく知られている方法は補色で打ち消す、だ。
「紫の色を入れる、ですか?」
「うん。多分透明に見えると思う」
「多分」
あ、師匠がジト目で見てきた。
「僕たちの目って何を映してるのかなってところを考えてみるんだけど、光の反射、だよね」
師匠のジト目がさらに強まった。なんでー??
「目で見えるものは正しくものを映してることは少ないと思うんだ。精霊は見えないし、魔力も見えない。でもある。目に見えるものを誤魔化したらいいと思うんだよ。あとは……石英の純度の高い物をそのままガラスにする。この薄緑色って鉄だと思うから」
「……なるほど、このガラスから鉄成分を抜けばいいのか。抽出」
あっれー?? ファンタジー系の解決策がやってきたぞー?
「どうだ?」
ドヤ顔の師匠と、困り顔のハンスの対比が酷い。
「ま、まあ、確かに透明になったと思うよ」
そっとガラスを取り上げて、太陽光に透かして見る。うん、透明。ハンスにも渡して確認。
素晴らしいガラスだと思います。でもね。
「却下。だって錬金術師じゃないとできないもん!」
「あ!」
あじゃないです。師匠。
その後、色々な金属を試して一年かけて透明に近い割合を見つけ出した。ハンス、凄い。
師匠が作ったガラスは錬金術ギルドへの登録には適しているのじゃないか、と後で気付いた。そこで、登録用にいっぱい師匠にガラスを作ってもらった。
材料の段階に抽出をかけるか、溶解した後のガラスに抽出をかけるかで色々師匠が試した結果、溶解しているところにかけたほうが綺麗にできるとなり、その手順で行くことになった。
そして何とか平らなガラスを作ることに成功。献上するガラスは師匠が手掛けたガラスを使った鏡になった。
鏡の反射面は薄く純銀を張って保護剤として銅、台座に接着するのは魔物からとれる樹脂とのこと。
ここにもファンタジー素材が! 多分、トレントとか、そんな感じなんだろうな。
師匠のめっき錬成もすごかった。あっという間なんだもん。そこの部分は後にめっき職人を見つけないといけないんだけど、当分先になりそうだった。
その先の献上品の細工や外装については父に丸投げ。細工師工房の立ち上がりの品にしたいらしく、そっちに任せるとのことで俺たちの手を離れた。
「ラヴァ~ガラスの融かす温度、千四百度でいいんだって」
(せんよんひゃくど?)
「うん。あんまり高温はダメなんだって」
(じゃあ、僕いらない?)
「ううん、赤い炎で頑張って欲しい! 赤い炎の限界よりちょっと下くらいキープで」
(わかった! がんばる!)
「よろしくお願いね。おやすみ~」
(おやすみ~)
いつものように、ラヴァによる安らかな眠りですぐ翌朝になった。
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