第41話 冬支度(一)
リンゴのお酒造りをした。ワインみたいにすればいいという話になって破砕し圧搾して搾汁した汁を瓶に移した。酵母は圧搾した果汁にあると師匠による鑑定結果が出たので、そのまま発酵させることに。ガラス瓶に木で蓋をして地下室に置いた。
時々、師匠が見に行って鑑定で状態を確認すると言っていた。そこは師匠とドワーフさんたちの自由で。
ジャガイモのお酒は来年の収穫からできればと言っていたので、もう好きにすればいいと思う。
あの実は心の中でもうリンゴと呼んでしまっていたが、師匠が鑑定したらリンゴと出たそうだ。未発見の実で俺が名付けたような話になっているぞ、とこっそり教えてくれた。
そんなこともあるんだね、と視線を逸らした。フレーバーテキスト的な奴だ、きっと。
蒸留したものを木樽で熟成させる事に錬金術師の腕がと張り切っていた。冬はそれで師匠の暇が潰れそう。
そんなこんなで晩秋から初冬に移ろう季節。最後の結界の魔力充填に向かった。
「結界の魔石に魔力を充填、ですか?」
ついてきたギードが俺を見て首を傾げている。
「そうだ。村と屋敷を覆ってる結界だ。中心に精霊教会の建物がある。そこは祈りに来た人たちからもらってるから充填しなくて済むんだが、外に置いてるのには定期的に補充しなくちゃだめなんだ」
師匠が最初の補充地点に向かいながら、ついてきたギードとカリーヌに説明をしている。
そうだ。精霊教会でお祈りしなきゃ。お世話になっているからお供えもしたいな。
「それは凄いシステムですよね」
感嘆の声でカリーヌが賞賛する。不審者モードなのに照れた。やっぱ女の子には弱いのだろうか。カリーヌは十歳だから事案だけど。
「着いたぞ。ルオ、頼む」
「はい」
俺は魔石に触れて魔力を流した。あっという間に満タンになる。
「終わったよ」
「相変わらず早いな」
師匠にぐりぐりと頭を撫でられる。いや揺さぶられる。
「はあ!?」
「え?」
ギードとカリーヌが驚いていた。何か驚く要素があったんだろうか?
「いや、あり得ない。このクラスの魔石に魔力を注入することは十歳の祝福の儀を終えた子供もできない」
「そうよ。そもそも、魔力の操作は職業や魔法の適性が判明してから行うものだし、それ以前の子供の魔力量なんて高が知れていて……」
ギードとカリーヌが眉をよせた。
「え、ちょっと待って! なんだか、圧を感じるぞ」
「そうよ。おかしいわ。私は魔力に鈍感なほうだけど、ルオ坊ちゃまはもしかして」
「ルオはその辺の魔法使いより魔力あるんだよ」
師匠が視線を逸らしながら言う。
「生活魔法のクリエイトウォーターはめちゃくちゃ出せるよ!」
「……」
「……」
ジト目で二人は師匠を見た。
「ルオ坊ちゃま。そのお歳で、生活魔法は普通使えません」
言い聞かせるように肩にギードが手を置いて視線を合わせて真剣な顔で言った。
「? ポーション作りの基本だって言ったから、頑張ったよ?」
「そもそも、ルオ坊ちゃまの年齢でポーションは作りません!」
ギードがくわっと目を見開く。カリーヌはため息を吐いて頬に手を当ててた。
師匠はへたくそな口笛を吹いていた。
んん? これはやっちゃった案件? 師匠が。
ジト目に晒されながら、魔石への魔力充填を終えた。
「師匠、教会でお祈りしたい」
「ああ、いいぞ。寄っていくか」
師匠が頷くと、ギードとカリーヌも頷く。
「凄く立派な教会ですよね」
「精霊教会はこの国ではあまり見かけませんから驚きました」
ギードとカリーヌが言う。
元々が俺が精霊王に何かできないかなって思ったのが始まりだから精霊教会なんだけど。
「ルオ様!! よくいらっしゃいました! ささ、こちらへ」
ドワーフの祭司様は俺が教会を訪れるたびに下にも置かない歓迎をするから、ちょっと困る。
「え、僕、普通に祈りに」
「ありがとうございます! ささ、どうぞ」
礼拝堂の祭壇のすぐ前の中央を祭司様が浄化をかけた。
ギードとカリーヌの目が点だ。
覚悟を決めて膝をついて両手を組む。ラヴァが祭壇へ飛び乗った。ラヴァ~何してるのぉ~!
(精霊王様、すぐこれなくて申し訳ないです。これからはもっときます。雪が降ったら、ちょっと来れないかもしれないけど)
『大丈夫だよ。ラヴァを大切にしてくれてありがとう。凄く成長してるようだね。嬉しいよ』
(ラヴァは僕の大切な相棒だから当然です!)
(相棒!!)
ラヴァがくるくると祭壇を回る。ぱちぱちっと赤い光が線香花火の光のように跳ねた。
『ラヴァが喜んでいるね。ありがとう』
(精霊王様、いつも見守ってくださり、感謝してます!)
『とんでもない。祝福の地を広げてくれてありがとう。またおいで』
きらきらとまた金の光が教会の中を降りてくる。
「ルオ様! 今、今!」
祭司様が飛びついて来ようとするのを師匠が止める。
「まあ、いつものことだろう。また来る」
さっさと俺を引っ張って師匠が教会を出る。ギードとカリーヌがぎくしゃくとした動きで続いた。
「いまのは?」
「奇跡? いつものこと?」
ぼそっとギードとカリーヌが呟くのが聞こえた。
精霊王様は気軽に俺には声をかけてくるんだよな。ラヴァのことがほんとに心配なんだな。
「愛されてるな、ラヴァ」
(ん? 僕、あるじ好き~!!)
「僕のことじゃなく王様にだよ。もちろん僕もラヴァ大好きだけど」
(王様も大好き~!)
「そっか~!」
足取りが軽くなってスキップするように歩いた。今度来る時、お供え物、何にしようかな?
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