第36話 帰郷

 そんなこんなで、家族全員が疲弊しきった頃、領に戻れることになった。

「おうちに帰る~」

 イオは嬉しすぎて適当すぎる歌を歌ってしまうくらいだ。イオはほとんど部屋から出られなかったし、一番つまらなかったのかと思う。

 両親はずっと社交で張り付いた笑顔をしてないといけなかったのか、顔を手で揉み解していた。

 それと気になったのは俺たちの馬車の列に侯爵家の騎士と、商隊が加わったこと。

 収穫祭に来る行商人の代わりだそうだ。今まで来ていた行商人は子爵領から来ていて今回の騒動に巻き込まれて潰れたところも多いそうだ。なので、新たに侯爵のお声掛かりで、商人がやってくるということだ。いわゆるお抱え商人だろうね。あと騎士たちはうちの領の検分かな?


 それから、後二人、馬車に乗っている新メンバーがいる。

「初めまして、ギード・ソルアです。よろしくお願いします」

 ひょろりとして背が高め、黒に近いダークブロンドの髪、赤みがかった茶色の大きめの目を持つ、可愛い系の十歳くらいの男の子だ。

「初めまして、カリーヌ・デュモンです。よろしくお願いします」

 カーテシ―で挨拶してくれた女の子は、明るい茶色に近い肩より少し長いくらいの金髪。細いリボンをカチューシャのようにしている。目は鳶色、卵型の顔で少しきりっとした顔立ちだ。

「二人とも男爵家のお子さんで、行儀見習いとして受け入れることになった。ギード君はローワンの下に、カリーヌ嬢はネリアの下についてもらうことになる。ルオ、イオ、二人の世話もしてもらう予定だ」

 父が、事情を話す。うちと同格で、貧乏貴族家に行儀見習いっていいのかなあ?

「よろしくね、ギード、カリーヌ」

 使用人扱いだから、敬語はなしだよね? 確か。

「よろしく!!」

「馬車では一緒だから仲良くするように」

「はい!」

 二人で声を揃えて返事をした。

(はい!)

 ラヴァはしなくていいけど、可愛いからいいか。


 ローワンはいないからギードは手持無沙汰。カリーヌはネリアにいろいろ話を聞いている。

 家のことを任せられる人が増えるのはいいけれど、行儀見習いって事はうちからいなくなってしまうってことだよね。

 うーん、もうちょっと人手が欲しいよね。侯爵家と比べるのはおこがましいけれど、もっと使用人が必要なんじゃないかと思う。

 でも、うちは筋金入りの貧乏領。これから頑張らないとね。


 帰り道は商隊がいるので、ゆっくりだ。でも、基本行きと変わらない。野営が増えただけだ。

 ルヴェール領が近づいてくると心が浮き立つ。そういえば俺の農場、そろそろ収穫なのでは。

 コーンも米も全部種にするから多少遅れてもいいけれど、鳥とか虫とかの被害に遭ってないといいなあ。

 帰りは廃村になった村を父が兵を連れて検分していた。

 家がそのまま残っている村もあれば、火事なのか、何もなくなっている村もあった。

 家が残っていても荒らされていたり、全部持って出たのか、何もない家が多かった。農地はカラカラで、雑草も生えてはいなかった。

(精霊いない)

 なんのこと?

(たいていは精霊いるの。土の精霊。でもいない)

 あれ? 小人のようなのって、もしかして土の精霊?

 そういえば精霊王さんが祝福した地って言ってた。うちの領地。

 でも、ほかの領地はどうなのだろう?

(ここも豊作になるように)

 俺は農地の側にしゃがみ、精霊王さんに祈った。


『そうだね。祝福の地を増やすのも悪くない。君の祈りなら、聞き届けよう』

 精霊王さんだ! 祈りが届いた!

 きらきらと、光の粒が舞う。

 そのうちの一つがイオに向かっていった。くるくるとイオの周りをまわっているけれど、誰も気づかない。

『君の弟は風の精霊に好かれるようだね』

 あの光は風の精霊?

『剣士の素質がある子だから、風との相性がいいのかもね』

 光の粒が農地に注いで光って消えた。

(精霊、いる!)

 くるくると頭の上でラヴァが回る。じゃあ、来年は豊作になるんだろうか?

(精霊王様、ありがとうございました)

『うん。また、あの礼拝堂で祈ってくれれば嬉しいよ』

(はい!)

 後ろ髪をひかれつつ、父の呼ぶ声に馬車に戻った。

 それは立ち寄った廃村全てに起こり、そして、やっとルヴェール領が見えた。


「村だ!」

「わ~い、村~!」

 俺の声にイオがはしゃぐと、母とネリアも頷きながらしみじみと言った。

「やっとね」

「はい、長かったですね」

「あれが、ルヴェール領」

「霊峰が、雲に霞んでますわ」

 ギードとカリーヌは初めて見る霊峰に驚いていた。

「さあ、もうすぐだ。帰ってきたな!」

 父のその声にみんなが頷いた。帰ってきた!

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