第35話 貴族の子供たち
夜は父と母は晩餐会に、俺たちは普通に部屋で食べた。ネリアがイオの面倒をよく見てくれた。
お茶会が終わってからイオは酷くぐずっていたのだ。
俺が四歳の頃なんか、ぼけっとしてただけだからイオのほうがいろいろ偉いんだけどな。剣術も習っているし、お勉強も始めた。いい子で天使。俺の癒し。
(いやし)
「ん? ラヴァは僕の癒しで、友人で大切な家族だよ」
(ふふ、僕家族!)
頭の周りを飛び跳ねるラヴァはめっちゃ可愛い。
イオはもうぐっすり寝ていて、ネリアは側仕えの部屋に下がっている。ラヴァのそんな姿は俺だけが見ている。真っ暗な中、ラヴァの纏う炎がキラキラ光ってとても綺麗だ。
胸の上に乗ってきて、体を丸める。
「おやすみ、ラヴァ」
(おやすみ!)
首の痣が熱くなって俺はまた強制的に熟睡した。
侯爵家には一週間ほどお邪魔した。
父と母は社交だと言ってほとんど部屋にいなかった。俺とイオは大体部屋にいたけれど、たまに侯爵の子供たちに呼び出されることがあった。お茶会ではなく、遊びの誘いだ。
なんとなく、派閥の形成をしているのだと、俺の前世の知識が言う。いまの俺は大分肉体年齢に引きずられて感情面はほとんど八歳児相当なんだけど、知識は違う。
お茶会でも、『うちの派閥だよね? 入るよね?』と圧をかけてきていた。イオは全然わかってなかったけど、後ろ盾は自分たちだって、いやというほど示してきたからね。
遊びには、俺だけ参加していた。イオの年齢の子がいなかったから。
今は庭園の四阿にグザヴィエとその友人二人と俺、俺の一つ下の男の子がいた。
グザヴィエの友人は同い年で、伯爵の子ブリス・ガルニエ、髪色はやや茶に近い金髪で、目の色は薄い緑。顎が少し尖っていて目が細長で鋭い印象。でもやっぱりイケメン。子爵の子マルク・エルヴェ、髪は赤みがかった金髪、目の色は水色。丸顔で、ブリスとは真逆の印象。可愛い感じだ。マルクの弟トマ・エルヴェ、俺より一つ下。髪色も目もマルクと一緒。ややシャープな顎のラインで、可愛いけど、将来はクールな美形になるのかなと思う。
挨拶をした後はどんな遊びをしようかと、グザヴィエの問いが皆に放たれる。俺は口出ししないよ? この場の主役はグザヴィエだから、ご友人に任せたい。
「かくれんぼとか……」
トマの提案でかくれんぼ。鬼は言い出しっぺのトマ。鬼とは言わないで、オーガとか言ってた。数を数えて庭に散る。こんな遊びなら、イオも連れてくればよかった。
茂みに隠れていると、声が聞こえた。
「真面目にやるのか?」
多分、これはブリス。
「多少はね。マルクの弟の顔を立てないと」
グザヴィエだ。
「すみません。せめてボードゲームとか言えなかったかな、あいつ」
多分、マルク。
「いいよ。まだ七歳だもの。難しいことは思いつかないよ」
「あの、フルオライトとかいう、男爵の子供ですが……側近にはふさわしくないと」
ブリスの声だ。俺の話題か?
「何故?」
「所作もマナーも平民並みですよ? 頭の回転もよくなさそうですし、身分が低すぎる」
「まあ、そうだね。でも、父からは仲良くしろと言われているんだ。そこはね、我慢してもらうほかない」
「明るくていいと私は思いますけどね。緊張で視線が泳ぎすぎてましたけど」
「マルクは優しいな。さて、そろそろ本格的に隠れよう」
声が通り過ぎて、俺はそうっと息を吐いた。
貴族って怖い。マウントの取り合いしてるじゃねえか。それに側近になるなんて聞いてないし、なる気もない。
ここで見つかると立ち聞きしてたのばれるから見つかりやすい場所で、あいつらのいないとこに行かないと。
(ラヴァ、どこかよさそうな場所ある?)
(あっち)
反対側からは丸見えで、四阿側からは茂みで見えない絶妙な場所に陣取った。
「見つけた!!」
「ああ~残念見つかっちゃったか」
トマは元気よく俺を見つけて嬉しそうにしていた。次々と他のメンバーも見つかって、そこでおしまい。日が傾いて少し寒くなったからだ。
「また誘うよ。今度は違うゲームをしよう」
グザヴィエは優しく微笑んで、そういって別れた。他のみんなも笑顔を浮かべていた。ぶんぶんと手を振っているトマだけが隔意を持ってないように見えた。
ほんと貴族社会は怖い。
頬をつついてくるラヴァの頭を撫でて俺は部屋に戻り、イオを可愛がり倒して嫌がられた。
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