第34話 侯爵家の人々

「こちらでございます」

 いかにもメイドさんって服を着た女性が案内してくれた客室に俺たち一家は案内された。続き部屋で、父と母が主寝室を使い、俺とイオが一回り小さい部屋を使う。ベッドは二つづつ。

 ネリアは主寝室の隣にある側仕えの部屋に案内された。そこにはお茶くらいは淹れられる設備があったようで、お茶を淹れてくれた。

 兵士さん達は騎士の宿舎へ泊るようで、落ち着いたら警護に来てくれるそうだ。

 今夜は部屋に食事を持ってきてくれるそうで、それまでに旅の汚れを落として着替えることになった。

 部屋は凄く煌びやかで細かい装飾が壁についている。床は分厚い絨毯が敷かれて、歩いても音はしない。

 俺たちがそれぞれ着替えるとネリアは着替えをクローゼットに入れて、汚れ物をまとめると出て行った。

 クリーンの魔法があると言っても、普段は手で汚れものは洗っている。洗濯場を借りに行ったんだろう。


 イオはきょろきょろと部屋の中を見て落ち着きがない。

「すごいね!」

 興味深げにうろうろと歩き回る。そしてラヴァもイオの後ろについて歩きまわった。

 なんで? 可愛いけど!

(空気薄い。あまり好きじゃない)

 うろうろするのに飽きたのか、ラヴァは俺の肩に乗ってきてふんすと息巻いて寝に入った。首の痣が少し熱い気がするから魔力搾り取られているのかも。ここで寝ちゃったら困るんだけどな。

 ネリアが淹れた紅茶の香りが室内に漂ってすごくいい香り。

 俺とイオはまだ紅茶は飲めないんだけど、凄くいい紅茶だってわかるほどの香りだった。

 侯爵家、凄い。

 ルヴェールは大麦を煎って麦茶を沸かすことを覚えて、いま麦茶祭りだ。

 紅茶は高いし、庶民の口には入らない。うちも、多分、そんなにいい紅茶は仕入れてない。貴族のたしなみでお茶の時間に飲んでいる感じだ。

 俺とイオも、今までジュースだったのが半々で麦茶を飲むようになった。夏は麦茶のほうが多い。やかんを川の水で冷やして、飲むのだ。

 今無性に麦茶が飲みたくなった。

 豪華な部屋が居心地が悪い。早く帰りたい。


 運んでもらった夕食は豪華で、美味しいだろうけど、こってりしたソースの味しかしなかった。

 肉も、飾りのような野菜も、素材の味は薄かった。さすがにパンは白くて、そこそこ柔らかかった。

 夕食を食べたらすぐ眠くなって、柔らかなベッドでぐっすりと寝た。

 朝、朝食が終わると父が言った。

「私は侯爵に呼ばれている。母様と、ルオ、イオは侯爵のお子さんとお茶会に誘われている。粗相のないように」

「は、はい」

「おちゃかい?」

 イオが首を傾げていた。


 一番いい服に着替えて、部屋で待機していた。メイドさんが先導して、お茶会の会場に移動する。

 長い廊下を移動すると、庭園に出た。テーブルが用意されていて、侯爵の奥様と、子供たちが待っていた。


「お初にお目にかかります。ゼオライト・ルヴェールの妻、オリビン・ルヴェールと申します」

 母が、挨拶をして、俺たちを紹介する。

「お初にお目にかかります。フルオライト・ルヴェールです」

「アイオライト・ルヴェールです」

 二人そろってぺこりとお辞儀する。

 イオ! お前、アイオライトって名前だったの!? あ、だからイオね。知らなかった……。

 目の前には、デルフィーヌ・デュシス侯爵夫人、嫡男グザヴィエ、長女エレーヌが柔らかな頬笑みを浮かべていた。

「ふふ、ここでは楽にしてらして」

 侯爵夫人に着席を勧められて腰を下ろす。イオが、めちゃめちゃ緊張していた。目の前には紅茶とお茶菓子が用意された。

 侯爵夫人主導で、人生初のお茶会が始まった。


「フルオライト君は八歳なのね。グザヴィエの三つ下ね」

「はい」

 俺は頷くしかない。

「学院には通うのでしょう? エレーヌは一つしか離れていないから、何かあれば頼りなさい」

「はい、よろしくお願いします」

「わたくしも頼られるように頑張らなくてはね」

 ふわりと笑うエレーヌは、金髪で細いリボンを髪に結んでいた。目の色は青灰色。侯爵夫人に似て、美少女といえる。

「僕にも頼ってくれていいんだよ。学院は一緒に通えないけれど、お茶会やらなんやらで顔を合わせるはずだから」

 グザヴィエは甘い感じのイケメンだ。まだ子供だけど、絶対モテるようになる感じがする。ショートボブのさらさら金髪に灰色の目。

 貴族の子供って感じがする。所作も流れるように綺麗で、これが貴族のマナーかと、驚愕した。

 二時間ほどのお茶会だったけど、緊張しすぎてどんなお菓子が出たかも覚えてなかった。

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