第30話 収穫
精霊教会には俺だけじゃなく村の人が祈りに通うようになった。それだけじゃなく、今まで子爵領の教会で行っていた祝福の儀が教会で受けられることになった。
それは村のために良い変化だった。教会までの危険な道のりを往復しなくて済むし、誕生日を迎えた子供たちがまとまってではなく、任意の時期に受けられるようになったのだ。
祭司様は優しいし、スキルや加護を公表もしない。
子爵領では声高らかに読み上げられていいスキルや加護をもらった子供は集まった貴族や商家、子爵領の軍などに引き抜かれていたらしい。うちの父には事後報告だったらしい。酷い。
もちろん精霊教会から一応領主である父には報告があるし、職業やスキル、将来への相談も受けているそうだ。
特に生産系のスキルを持った子供たちはドワーフさん達の元で修行をしたり、建築工房さんのところに弟子入りしたりした。
そして建築工房さんも支店を村においてくれるということで、若い工房主が移住することになった。
村には鍛冶工房、建築工房、皮革工房、服飾工房、工芸品工房ができた。
ほとんどドワーフさん達のおかげなんだけれど、自分たちで行っていたものが産業化したので、その工房に弟子入りした村人たちも少なくなかった。
村の建築がひと段落して、麦の収穫が終わるころ、行商人さんたちがやってきて、市が開かれた。
いつもより、護衛の数が増えていて、少し物々しかった。
宿屋がにぎやかになっていた。建築工房さんもドワーフさんも今は宿屋を利用していないから、行商人さんたちだけで満員になっているそう。
屋敷に商人さんがやってきて、父に挨拶をして、倉庫に行ったりしていた。
イオと一緒に師匠に連れられて市を見て回る。イオがはしゃいで回って突然走ったりするから、大変だった。
「ルオも変わらんだろう」
イオの制御に疲弊していたら、師匠が酷い。
そりゃあ、ガラス製品ぽいものを見つけたら、ダッシュしたけど!
「あれー! なに?」
イオが手を引いて行商人の広げた品物を指して言う。
布製品で色とりどりの端切れを売っていた。布は高いから端切れでも結構する。しかも色付き。多分めっちゃ高い。これ、もしかしたら貴族用のドレスとか作って余った奴かも。
「イオの着ている服の元だよ。布だね」
「服ー!」
「欲しいのあったら是非どうぞ」
行商人さんがにこにこして対応してくれた。
イオが赤い布を手にする。きらきらした顔で俺を見た。俺は困った顔で、師匠を見た。
「仕方ねえな」
師匠が交渉の上、買ってくれた。かなりお高い布だったので師匠の交渉にも力が入っていた。
買った布はイオの腕に巻いてあげた。それを見て、イオは上機嫌になっていた。
うろうろしてると前にジャガイモを売ってくれた行商人さんがいた。
「よう、坊っちゃん、種買わねえか?」
「種?」
言われて見てみると、トウモロコシで、すっごく色とりどりのがあった。
「これが種?」
「おう。皮が硬くてあんまり美味しくねえんだが、綺麗だろ?」
色とりどりの皮をしたトウモロコシの実が見えた。皮が硬い。もしかして、あれかな~? あれ。
師匠を見た。師匠が苦笑した。
「美味くなくても、今のご時世だ。需要はあるんじゃないのか?」
「もっと主食になるものを多く植えるんだとさ。家畜用の種は売れなくなってきたんだよ」
「やっぱりか。安いのなら買うが、育て方を知らないとな」
「もちろんだ! なんでも聞いてくれ」
「ジャガイモは毒の部分を取り除けばうまかったぞ」
「はあ? 食ったのか?」
「種芋一個でかなりの量の収穫があったからな。今時分の一時的な収穫なら、飢えをしのげるんじゃないのか」
「……! 安くするぜ、旦那! おまけにこっちの種もつけるぜ」
「これは?」
「家畜用なんだがなー麦に似てるけど、粉にしても美味くないんだよ」
米、米!? 食い入るように見てしまう。師匠が俺の様子を見てまた苦笑を漏らした。
「家畜用の飼料ばかりだな」
「本業はそれなんで。この村は飼わねえんですかね?」
「家畜は高いし、この辺は魔物を狩って肉は足りてるからな」
師匠がそういうと行商人は声を潜めた。
「子爵領では魔物の被害が増えてるって話だ。現にここへ来る前に通った村で、廃村になっていた村もある。ひでえもんだった」
「……ありがとう」
師匠はお金を払うと種を俺にくれた。
ポップコーン! 米!
師匠は育て方を一通り聞いて、その場は離れた。
麦の収穫はやっぱり前年度以上で、余剰分を高く仕入れていったそう。
そして、行商人さんたちのなかで、俺にウィスキーグラスを売ってくれた行商人さんは俺の村に残ることになった。
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