第29話 ガラスの製造
そうこうしているうちにまた誕生日が来た。家族みんなが祝ってくれてプレゼントももらった。俺は八歳になった。
父と母からは魔法の本。イオからは河原の石。師匠からは錬金術の本。
魔法の本は父が初級を揃えてくれていたので書庫で時々借りて読む。本は高価なのだと、行商の市場を通じて知った。
俺は恵まれている。貧乏な男爵家だけど、家族はあったかくて、ひもじい思いもしてない。好きな事をさせてくれて、立派な家庭教師まで付けてくれた。
祝いの食卓には父がこの日のために狩ってくれた鹿の肉が並んでた。
付け合わせにヒマワリ油で揚げたジャガイモがあった。
とっても美味しかった。油は高価だし、まだ少量しか採れないので、本当に贅沢だった。
ジャガイモのおいしさをみんなが知って、耕作面積を広げることになったのは言うまでもない。
そして今日、念願のガラスの容器づくりの日。色々なことがあって延び延びになっていたがとうとう作れる。俺のテンションはマックスだ!
色々試行錯誤して、型を作った。型自体は壊してしまうので今のところ同じものは作れないけど、それも手作りだから仕方ないかな。
材料は今まで作ったガラスの試作品。それを粉にして型に詰める。最後に師匠が石膏で蓋をしておしまい。
それを炉に入れて熱する。ラヴァが自ら炉に入って鎮座してくれた。
(燃す!)
ふんすと鼻息荒く踏ん張るラヴァが可愛い。でも、扉閉めちゃうと見えないんだよなあ。
白い炎が見えたから結構高温で焼いている。
二時間ほど熱してラヴァに戻ってもらう。ゆっくり冷まして型から取り出す予定だ。
「明日か~」
「冷えないと固まらないんだろう?」
「そう。型が熱くなってるから、今まで作ったのより、時間がかかるんじゃないかなあ」
「明日が楽しみだな」
「うん!!」
おかげで興奮してなかなか寝付けなかった。いや、嘘だ。ラヴァによる強制寝落ちによって、あっという間に朝だった。
朝からテンションが上がっていたので、苦笑した師匠が座学の予定時間をガラス容器の取り出し時間に変えてくれた。
炉の中から型を取り出す。布の上に並べ、中のガラスを壊さないように石膏を割って剥ぐ。
「あ……」
現れたのは薄青緑のガラスのコップ。それが五つ。布で拭いて、滓を取り除いていく。
「できた!!」
「できたな」
髪をぐしゃぐしゃにして頭を撫でまわしてくれた師匠に、一つ差し出す。
「もらってください、師匠」
「いいのか?」
「うん! もらってほしいの」
「ありがとうな。大切にする」
にこっと笑って受け取ってくれた師匠が涙で滲んで見えなくなった。
「嬉しいよう~」
それから師匠に抱き着いて、大泣きして師匠の服をべしゃべしゃにしたのは、俺と師匠とラヴァの秘密だ。
残りの三つをきれいに磨いて木箱に入れた。これは家族への贈り物。
夕食の時に渡すつもりだ。
(僕のは?)
ラヴァの寂しそうな声が響いた。
「こ、これだよ!! ほら、これ!」
ラヴァは水とか飲まないから、頭の中になかった! そうだよ! ラヴァのも必要だった!
(これ、僕の?)
ラヴァはコップの中にちんまり納まった。
え?
納まった? ラヴァ、もうちょっと大きかったよね?
前足をコップの縁にかけて顔だけ出すラヴァはめちゃくちゃ可愛い。
「ふおおおおお!!」
「どうした!? 変な声出して!」
ぎょっとした師匠が俺を見る。
「ラヴァが!」
「ラヴァがどうした!?」
「ラヴァ、師匠に姿見せて!」
(うん)
両手にのっけた、ラヴァ入りコップを師匠に突き出すように見せる。
「え? ええ?」
「かわいいでしょ!!」
「……確かに可愛いな」
何とも言えない表情をした師匠は、俺の頭を何度も撫でたのだった。
俺の兼ラヴァのコップは師匠のコップと一緒に工房に置くことにした。
夕食の時に、勉強の成果だって木箱を渡したら、すっごく喜んでくれた。
「家宝にする!」
父が宣言すると母も頷いて、イオは首を傾げていた。
いや、使って? 割れたらまた作るし。
「ルオの初めての手作りプレゼントだから、絶対に大切にする!」
父……。
嬉しいけどね!
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