第28話 祭壇
「ジャガイモで酒が作れるというのは本当か?」
ドーンといかにもなドワーフの方々が俺に迫って来るんだけど、どうしよう?
「こらこら」
師匠が俺に近づきすぎたドワーフの襟を引っ張って、俺から離している。思わず後ずさって、師匠の後ろに隠れた。
「作ろうと思ったが、このところの不作で作るほどの量を確保できてない。作るとしたら来年だ」
師匠がきっぱりと言ってくれた。
そうすると、ドワーフ工房の方々はションボリした。
え、もしかして、精霊の祭壇を建てに来たと言うよりジャガイモのお酒が目当てだったの?
「何しに来たんだ。祭壇建てる話じゃなかったのか?」
「お、おう、それも大事だが、酒は一番重要だろが」
「帰れ!」
気安いんだなあ。仲いいのかも。
「坊っちゃんもしかして、この辺に精霊がいるのかい?」
ちょっと若そうなドワーフが俺の肩のあたりを示して言う。
「え? うん。サラマンダーのラヴァがいるけど」
多分見えないけど、前足の片方をあげてラヴァが挨拶した。
「なんだってええええ!??」
大合唱に耳がキーンとなった。
ええ? 工房建てに来た時も、俺ラヴァ肩に乗っけてたよね?
「鍛冶工房の垂涎の加護だぞ」
「なんてことだ。ここに根を張りたい」
わらわらと寄ってきたドワーフの皆様に囲まれる。怖い。
「ルオが怖がっているからもう少し離れろ」
師匠がアイドルの警護みたいになっている。
「そういや、畑にも土の精霊の気配がしたぞ。霊峰が近いせいか?」
「精霊王が祝福したとか言ったそうだ。だからだろう」
師匠が疲れた顔をして言う。
「ふむ。この領地にとっては幸いだが、知られるとまずい事にもなりそうな気がするぞ」
このドワーフの集団のリーダーらしきドワーフがちょっと深刻そうな顔で言った。
「王国全土で不作なんだ。原因はわからん。雨の量が少ないという話だが、川の水が枯れ果てたわけでもない。小さな村々だと、餓死者も出ているという話だ」
「もう、冬にまずいことになってるよ。盗賊に三度も襲撃を受けた」
「それで結界を張ったのか」
「そうだ」
「よく魔力が持つのぅ」
「俺はここでそんなに魔力は使ってないからな。ルオがかなりの魔力持ちだから、できることだ」
「であれば、結界を補強する祭壇を建てればいいかの?」
何かの設計図みたいなものを取り出して、師匠に説明している。
「ああ、なるほど」
師匠が納得気に頷く。
「塵つもじゃ」
ちりつも?
祭壇は村と領主屋敷を円で囲んだ中心部に建てることになった。精霊教会の作法にのっとった小さな教会だ。
もちろん父の了解はとった。師匠が。
「ここが中心?」
元の村の広場の端っこだ。今、建設ラッシュな村はあちこち建造中の建物でいっぱいだ。
「開拓を進めるんだ。畑を広げる。村も建物が増えるから、この辺りが村の中央広場になる」
そういえばもう少し離れた場所に建物が建っているのに、ここは更地だ。
「門ももっと街道寄りになる。物見櫓も作る予定だ」
そういえば見なれない塔みたいのがあるなって思ってた。
「柵も作る。防衛しないとな」
それは作ったほうがいいよね。盗賊がやって来るなら。
ドワーフの皆さんは早速、測量したりしてる。あれ? 今回はどこに泊まるんだろう? 疑問に思って聞いてみた。
「村に宿屋ができている。今回はそこだ」
「えっ宿屋?」
「建築工房も来ているし、行商人も増えている。ちゃんとした宿がないと、領主の館に泊まるしかなくなる。世話する人間がいないから、それは避けたいだろう?」
「難しいことはわかんないけど、にぎやかになるのはいいことだと思う」
「そうだな」
師匠がわしゃわしゃと髪をかき乱した。もう!
今回は土台から建てるから、もっと時間がかかるんだって。
行くたびに出来上がっていく村と教会。
そして一か月が経って、完成の日を迎えた。
前世で見た西洋の尖った塔の建築様式。そんな外観のこじんまりとした教会だ。
ドキドキしながら中に入ると、祭壇が奥にあって、赤い天鵞絨がかかっていた。明るいと思っていたらガラスの窓があった。ステンドグラスだ。
「ガラス?」
「ああ、ガラスだ」
「ガラス!!」
俺は駆け寄って眺めた。青と緑と黄色のグラスが、模様のようになって窓に嵌っていた。
「もちろん夜は、外窓を閉めるんだが」
「すっごい高価なんだよね?」
「そこは、精霊教会から、予算を出させていただきました。私が祭司です」
ラヴァの存在をわかったドワーフさんだ。
「これからこの村に滞在させていただきますので、よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いします?」
何故か、やって来たドワーフさんの半数が移り住むことになっていた。
まだ作ってもいない、ジャガイモのお酒目当てじゃ、ないよね?
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