第27話 春が来た!
ドサッと、雪が落ちる音がする。
寒さも緩んで、雪解けが始まっている。二階に届くような積雪も、今では腰のあたりまで融けた。
イオの誕生日が過ぎてもう四歳だ。
イオの背がぐんと伸びて、一メートルを超えてるんじゃないかと思う。
俺、身長追い越されそう。体幹もしっかりしてきて、話す言葉も意味が通るようになってきた。ちょっと早いけど、剣術を教える下地を作ろうかと、父が言っていた。
俺の剣術は凡人の域を出ないので、上達するようならイオにいっぱい教えるといいと思う。父よ。
地面の色が見えるようになって、やっと村へ向かうことができた。魔石の魔力の状況をぐるっと回って確認する作業のためだ。
盗賊は村の外に連れて行ってしまって、今はもういない。
結界に阻まれるのは盗賊だけじゃなく、魔物にも効果があって、たまに結界に突撃している魔物がいたりするんだって。弾かれちゃうけど。
こんな結界を張れる師匠は物凄い人なんだなーって最近思う。
俺はこんな凄い人の弟子で、いいのかな?
思わず横を歩く師匠を見上げてしまう。
「まだ、半分は残っているようだけど、補充しておくか。ルオ、ここの魔石は任せる」
難しい顔をしていた師匠は結界の魔石を示して言う。俺は手を伸ばして、魔石に触れ、魔力を注ぐ。
それほど時間はかからずに、満タンになった。もう、魔力は中に入っていかない。
「先生、坊っちゃん、ご苦労様です」
声をかけてきたのは見回りの兵士だった。二人組で、結界の外側を警備している。
「こんにちは」
俺は立ち上がって挨拶をする。
「お疲れさま。異常はあったか?」
師匠は兵士に頷いて挨拶を返した。
「いえ、特にありません。強いて言えば小型の魔物が良く結界にぶつかっているくらいですかね?」
「そうか。出現量は増えているのか?」
「いえ、いつも春先はよく見かけるので。去年と同じ頻度です」
「ありがとう、気を付けて」
「いえいえ、先生方もお気をつけて」
二人は見回りに戻っていった。俺と師匠は彼らの後を追いかけるように次の魔石へと向かった。
二時間ほどかけて四分の一ほどの魔石に充填をした。
結界の外側の雪の下から、春の象徴であるタンポポや菜の花が顔を見せていた。薬草の新芽も出ていた。
薬草の在庫がなくなってポーション作りが滞っていたから薬草採取がしたくてたまらなくなった。そわそわしている俺に気付いたのか師匠が苦笑する。
「薬草採取は明日だな。今日はこのまま屋敷に戻ろう」
「はい」
ちょっとがっかりしながら、村の入口まで戻った。
村の中に戻ると、建築工房の人たちの声が聞こえる。壊れた家が撤去されて、新しい家が作られている。
冬の前に本当は終えたかったみたいだけど、思ったより大規模な工事になったようで、まだまだ村にいてくれるみたいだ。
村の人たちは今畑にみんな行ってるみたいだった。
坂になっている屋敷への道を歩く。
畑の全景が見えてきて、村のみんなが畑にいるのが見えた。
「雪、ほとんどなくなってるね」
「そうだな」
「畑、ちゃんと芽が出てるみたいだね。よかった」
「ああ、本当によかった」
そう話していると、小鳥が飛んできた。
手紙だ!
師匠に腕に止まって手紙になった。封を開いて師匠は中を読読む。
読んでいるうちに師匠の眉間に皺が寄った。
「祭壇の件だが、例のドワーフの工房が村に来てくれるそうだ」
「え? 祭壇のことで?」
「ああ。精霊が祝福した地なら、腕を振るわないと、いけないんだそうだ」
「いけない」
「ああ」
師匠は頭を抱えた。違う建築工房もいるのにドワーフの工房が来る。
村はますます賑やかになりそうだった。
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