第26話 厳しい冬

 建築工房の面々は村の広場に拠点を作り、村の再建に乗り出した。

 この際だからと、村全体の造りを見直して建て直そうということになった。

 そしてその一環に領地に結界をかけるというのがあった。


「いいか、これが魔石だ。これに結界の魔法陣を刻む。魔法陣を刻んだ魔石を領地を取り囲むように配置する。配置が終わったら結界が発動する。魔石には魔力を時々補充しなければいけない」

「はい」

「魔力充填はしばらく俺とルオの仕事になる」

「え?」

「そのうちに魔法職を呼ぶ予定だが、今は予算がないそうだ」

「対価はもらいたいです!」

「だなあ。安売りはしちゃいかんよなあ。そもそも俺がそう教えたわ」

 結果、後払いで、毎月魔力充填代をもらうことになった。

 期限は三年だ。

 師匠は結界の魔法陣を教えてくれて、付与の手順も見せてくれた。後々、実際にやることになるらしい。

 錬金術師は付与魔法とかもするんだな。この結界の魔法陣て、工房の入口に使われているものに似てるな。おんなじなのかな?


「ああ、大体は同じだが、条件付けが違うな。この結界の魔法陣は悪意あるものを弾く、もしくは村人以外を弾く、だな。工房のは俺とルオ、招待者以外を弾く、攻撃は反射する、になっていたな」

「村のは攻撃を反射しないの?」

「この魔石じゃ、そんなに負荷をかけたらあっという間に魔石の魔力がなくなるから、しないな」

「そっか~」

「付与や、魔道具の場合は、コストと見合う性能に納めることが重要になる。錬金術師の工房は研究の成果や秘匿技術の塊だから侵入や攻撃は防がないといけないから、魔石も大きなものを使ってある」

「そうなんだ」

 だから、工房に避難させたんだな。

 俺も皆を守りたい。今回は怖くて何もできなかったけど、大きくなったら、父のように。


 ◇◆◇ ◇◆◇


「祭壇を作りたい?」

「精霊の王様に祈りを捧げたいんだ」

「精霊を崇める教会は王国にはないんだよな。獣人の多い国や、エルフ、ドワーフの国に多くいるから教会があったりするんだが……うーん、ちょっと聞いてみるか」

「師匠、お願いします」

「ああ、あんな力を見たら、崇めたくなる気持ちもわかるしな」

 師匠がラヴァのほうを見る。最近師匠はうっすらと見えるようになってきたんだって。ラヴァが懐いたのかな? 今は俺の肩でうろうろしている。出会った時より、大きくなったから、正直肩だと収まりが悪い感じがするんだけどね。


 師匠は羊皮紙を取り出して手紙を書いた。それを折って、蝋で封印をする。

 何かぶつぶつ言っていると思ったら、鳥の形に変化して、窓をすり抜けて飛んでいった!

 光の軌跡しか見えなくなったけど、連絡が速かったのって……

「えええええ!?」

「手紙を送る魔術だ」

「凄い!」

「あれは紙にもインクにも魔石を使うからちょっとコストがかかるんだ」

「コスト……」

「この対価は真面目な授業態度で頼むぞ」

「はい!」


 本格的に雪が降るようになって、積もりだした雪はすぐ、イオの背丈を越えてきた。

 そんな冬の間に、三度盗賊の襲撃があった。

 盗賊は結界を越えられずに、兵士に捕らえられて春になったら、子爵領の冒険者ギルドへ引き渡すらしい。

 盗賊や罪を犯したものの裁きの権限は領主に有って、本来はここで処分を決めてしまっていいはずだった。だけど、師匠が賞金首がいるはずだからと、冒険者ギルドに突き出すことにしたそうだ。

「ちょっと、気になることもあるしな」

 そう、師匠は言っていた。

 そういえば、収穫祭の後、師匠は面倒なことになる、と言っていた。

 盗賊の件はその面倒事、のような気がする。

 確かに豊作はいい事ばかりではないけれど、農民たちが頑張っているのだからどちらかといったらいい事なんだ。襲ってくる、盗賊が悪い!


「面倒事になったよ」

 父が朝食の時、師匠にため息を吐きながら切り出した。

「どうしたんです?」

「ソア子爵領から噂を聞きつけてきたらしい。うちの領は援助できるほど、豊作だった、と」

「それは……」

「普通はそんなことしらないはずだ。どこから買い付けたくらいは回るとは思うが」

「噂を流したものがいるということですね」

「まったく、面倒な」

 はあ、という父のため息はよく響いたのだった。

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