第25話 襲撃(二)
父が今夜は工房で過ごしなさいというので、母とネリア、イオと俺は三階の住居部分に泊まった。盗賊の残党がいるかもしれないので用心のためだとか。
工房は結界魔法が施されていて登録したものか、師匠がゲストとして招いたものしか入れない仕組みになっているからだそう。
屋敷には父とローワンと師匠、そして兵士が数人駐留する。
明日も父や師匠、ローワンは村や屋敷の周辺を兵士とともに残党がいないか確認する予定だという。
要するに工房にいる俺たちは明日もおこもりだ。
食材を工房に運び入れて食事は簡単なものをネリアが用意した。母とイオ、ネリア、俺と三部屋に別れて寝ることになった。
窓をしっかり閉めているし、もう蝋燭の火も落としたから、部屋は真っ暗だ。
ラヴァだけがぼうっと浮かび上がっている。ラヴァは寝ている俺の頭の横に移動して、俺の頬を舐めた。
(大丈夫だよ。王様が怒ってたからね!)
「王様?」
(王様だよ! ドッカンて、凄かった!)
王様がドッカン?
『手を貸そう。我らが祝福の地を血で穢すのは許さない』
あの声は王様? ラヴァは精霊だから、精霊の王様?
「王様って、精霊の王様?」
(そうだよ? 主、会ってるよね?)
……えええ!?
衝撃の事実!
それがショックだったのか、すぐ意識が飛んだ。いや、きっとラヴァが吸い取っただけだよな。
きゃっきゃとイオが俺が作った積み木で遊んでいる。
可愛いなあ。
母はイオを見守りつつ、編み物をしている。ネリアはお茶を淹れたり泊った部屋の掃除をしたりしている。
ラヴァは師匠についてもらっている。心配だからね。三階の部屋から少し下の様子を見たけれど、あちこちの地面が荒れていた。
村の方も煙が上がっているところがあった。煮炊きの煙ならいいけれど、焼き討ちされたとかだったら、心配だ。
「ルオ、こっちにいらっしゃい」
母の呼びかけに顔をあげた。立ち上がって母の傍に行く。
「そんな皺を作らないの」
優しい母の指が俺の眉間を撫でる。
「父様は強いのよ? 安心して、待ってて」
そのまま胸に抱き込まれてぎゅっと抱きしめられる。
「もっと大きくなったら、父様を手助けしてあげて。それまでは父様に任せて。ね?」
「うん」
抱き込まれてるせいで、声がくぐもる。
「ふふ、はい、じゃなかった?」
「は、はい!」
ええ? 母にまで怒られるの?
それから二日後、やっと外に出る許可が出た。それで師匠と二人村に向かっている。
「村の皆は無事なんだよね?」
「ああ、大丈夫だ。神のご加護があったからな」
「神のご加護?」
「ああ、地割れがあって、盗賊を飲み込んだり、風が吹いて飛ばしたり。雷に打たれた者もいたぞ」
あの時のことだ。凄い音がした時。
「あの、ね? あれって精霊の王様がしてくれたんだって。ラヴァが言ってた。王様怒ってたって」
「は?」
「精霊の王様」
師匠がしゃがみこんで両手で顔を覆った。しばらくそうしてると、両手を組んで祈る姿勢になった。
「精霊王、感謝を捧げます」
慌てて俺も同じように祈る。
「ありがとうございます」
あの時みたいに金色の光が降った。
「祝福の光だ」
呆然とした師匠が呟いた。
「よし、これからは何でも、ルオだから仕方ないって言おう」
「なんで!?」
俺なんにもしてないよ!?
上から見た村は所々、家が壊されていたり、地面が荒れていた。畑も踏み荒らされていたりした。村まで降りてくると、けっこう酷い被害があったのがわかった。
「酷い」
「村人たちは避難してもらって兵士が守っていたから、大丈夫だった。壊された家には人はいなかったし、お金だけは持って逃げたからね」
「よかった」
「ああ、よかった」
俺の頭をぐりぐりした師匠は俺の肩を抱き寄せた。
壊れた家を片付けているのは村人と兵士。俺を連れ出して遊んでくれていた子供たちの顔もあった。
無事だったんだ。よかった。
「これから雪の降ってくる季節だからな。早めになんとかしないとな」
「そうだね。寒くて困っちゃうね」
「村には建築士はいないようだし、呼ぶにしても通常だと、時間がかかる」
俺は頷く。
「だから知り合いに来てもらうことにした」
あのドワーフさんたちかな?
その翌日には、建築工房の人たちがやってきた。手紙は襲撃の当日に送っていたらしい。
仕事早いね、師匠。
でも今回はドワーフさんたちじゃなかった。普通の人族だった。
師匠、どのくらい顔広いの?
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