第24話  襲撃

 兵士の叫んだ声に一番最初に動いたのはローワンだった。コップに入れた水を渡し、状況を確認した。

 俺たち家族は朝食をとろうとしたところだった。兵士の声に全員玄関ホールへと出てきた。

「被害状況は?」

 父が、冷静な声で兵士に聞く。

「街道に怪しい集団を見かけたと一報が入りまして、相手に見つからないよう様子を見に。手に武器を持って、近づく集団を確認。村を襲うとの言を聞いたとのことです。まだ村に到着はしていない様子ですが時間の問題かと」

「わかった。すぐ向かう」

「ご家族と屋敷は私が守りましょう」

 師匠がそう父に言った。

「すまないがよろしく頼む。行くぞ、ローワン」

 ローワンと父は村に向かっていった。


「皆には工房へ避難してもらう。よろしいですね、奥様」

「ええ。すぐに移動しましょう」

 母とネリア、イオと俺はすぐ工房へ移動した。普段は俺と師匠しか入れないけれど、師匠が何かしたのか、すんなり入れた。

「私が中に入るまで絶対に開けないでください」

 母が師匠の言葉に頷くと師匠は工房を出て行った。

「さ、終わるのを待ちましょう」

 母が言うと、応接室に移動する。ネリアがお茶を淹れるために台所に向かった。

「にーに!」

 イオがいつもと違う場所に興奮したのか、ソファーの上で体を揺らした。

「なに、イオ」

「あそぼ!」

「遊ぶ? うーん、お外は出られないし、二階は危ないからなあ」

「だぁ!」

「わわ!」

 イオが抱き着いてきた。もうかなり重くなったなあ。こんなことなら積木とか、作って……ん?

「ちょっと待っててね!」

「どうしたの? ルオ」

「遊ぶ道具持ってくる!」

 確か、木材があったから、少し加工すればいい。積み木、作るぞ!

 俺は炉の側に合った、焚き木を手に取った。それを鉈で割る。前世の積み木のように、四角や三角にした。

 このままだと、棘が刺さったりするかもしれないけど、今すぐはできない。やすりもないし、塗料もない。積み上げることができるかだけ確認して、それを籠に入れて応接室に戻った。


「おかえりなさい」

「ただいま!」

 母とネリアはお茶を飲んでいた。俺とイオにはジュースだ。師匠が、台所に残してくれててよかった。

「それは何かしら?」

「木の破片でしょうか?」

 母とネリアが首を傾げた。

「うん。これをね」

 俺は四角を二つ立てて上に三角を載せた。

「イオ、やってみる?」

「やる―!」

「チクってしたらすぐ手を離して教えてね」

「うん!」

 わかってるかなあ? イオはすぐに夢中になった。

「まあ。ルオは凄いわね」

 母が俺の頭を撫でてくれた。照れるな。


 ◇◆◇ ◇◆◇


「師匠、遅いね」

「そうね。でも、安全が確認できるまでは出ちゃだめよ?」

「うん」

 イオが静かになったと思ったら、寝ていた。

「上にベッドがあるけど」

「そうね。ネリア、寝かせてきてくれる?」

「かしこまりました」

 ネリアがイオを抱き上げて三階に向かう。俺は先導するのに一緒に出た。

 お昼寝にしか使ってない部屋だ。

 ネリアが寝かせるのを見て、部屋を出る。廊下にある窓を少し開けて、外を見た。

 途端に光が目に映る。

 炎だ。

 師匠が、魔法を使っている。

 新しく作った倉庫の前で、誰かと戦っている。音は何も聞こえなかった。

「ラヴァ、お願い! 師匠に力を貸して!」

(いいよ!)

 ラヴァがするりと窓の外に出て行った。師匠の肩に乗り、炎の魔法を強化した。

(神様、誰か、みんなを助けて!)

 俺は両手を握り締めて祈った。


『手を貸そう。我らが祝福の地を血で穢すのは許さない』


「え?」


 ドン! と音が聞こえ、地面が揺れた。

 何が起こったのかわからないけれど、響いた声はあの、不思議な空間にいた男性の声だった気がする。

 思わず目を開けて窓の外を見た。

 師匠を避けて風が舞う。雷が光り、雨が降り出した。風に攫われた、盗賊らしき者たち。

 俺に見えたのはそこまでで、しばらくすると、雨も風も止んだ。

 俺は一階の母の元へと向かった。


「母様!」

「ルオ、どうしたの?」

「外、外で……」

 ガチャリと音がして扉が開いた。師匠が、ラヴァと一緒に入ってきた。

 無事だ。よかった!

「師匠~!」

 思わず駆け寄ってしがみ付いた。そんな俺を苦笑しながら師匠は頭を撫でてくれた。

「多分、終わったと思うが、村の様子を見てくるから、もう少しここで待っていてくれ」

「気を付けて」

 母が心配そうに見送る。俺も、追いかけたいけれど、母に抱き着いてやり過ごした。


 しばらくした後、父もローワンも戻ってきて、建物や畑の被害はあったけれど、軽いけが人だけで済んだと教えてくれた。


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