第23話 食糧難

 師匠と領の資料を見ながらお勉強。

 小学生がやる内容かわからない点があれなんだけど。大分難しくない?


「食料が足りないの?」

「聞こえてたか。ルオが心配することではないよ」

「今回のジャガイモ、種芋だけ取っておいてその子爵領? に回せばいいんじゃないかな? ダメなの? お酒造りは問題解決してからでいいんじゃないのかな?」

 師匠がぽかんとした顔をしていた。

「ははっそうだな。その通りだ!」

「毒があるって食べない可能性とかもあるけどね」

「そこは気を付けるところを周知させればいいだろう。ありがとうな」

 頭をぐりぐりされて目が回った。ギブギブ!


「師匠!」

「ジャガイモの作付けは次回は倍だな。倍!」

「お酒好きなんだね。師匠。葡萄も植えたらいいのに。それに大麦でも蒸留酒は作れるでしょうに」

 ぴくん、と師匠が震えた。

「なに?」

「え、大体アルコールは糖を酵母が分解することで作られるんでしょう? 糖分のあるものはみんな基本的にお酒になるんじゃないのかな? 美味しいかは別として」

 でも俺は将来的にホップを見つけて生ビールを作りたい。エールじゃなくビールを!

「待て。ちょっと待て」

「ん?」

「……まあ、いい。ルオだから仕方ない」

「は?」


 師匠は座学が終わると父の執務室に行ってしまった。訓練の時間になっても、父は現れず、ローワンがやってきて『走った後、好きな事していいですよ』という伝言を伝えてくれた。

 やった!! 遊びの時間だ!

 いつもの距離を走り切って、俺はイオのところに顔を出した。天使を最大限に可愛がり、俺は大変満足した。


 夕食に現れた父の顔の眉間の皺は取れたようで、和やかな空気に俺はほっとしたのだった。


 そして冬がやってくる。


 錬金工房の中はあったかい。

 炉にラヴァが鎮座しているからだ。吹きガラス方式は今は道具が足りないということで、パート・ド・ヴェール方式を試せないか、色々試行錯誤している。

「この煉瓦ってどうやって作るの?」

 師匠に炉に使われている煉瓦を見て首を傾げる。

 それと必要なのは型にする石膏。石膏ってあるのかな? 天然石があるのかも。

「錬成で作ってるな。鍛冶師か錬金術師がスキルで」

 スキル、スキルか―……


「師匠作れる?」

「作れるな」

 俺はきらきらした目で見つめる。

「秘密兵器を手に入れた!」

「言っとくが金をとるぞ」

「えええ?」

「当たり前だ。言っただろう? 技術には対価が必要なんだ」

「弟子が研究頑張るのにぃ」

「う」

「師匠の意地悪~」

「泣き真似だろ」

「てへ」

「仕方ない。出世払いにしておこう」

「やったー!!」

「職業が錬金術師だったらすぐできるように、作る時はよく見ているんだぞ」

「はい!」

 師匠、優しい!


 そして、成型技法でガラスのコップを作ろうと、もとになる型を作り始めた。

 粘土で作っているんだけど、歪んじゃうなあ……ろくろとか作ろうか? あれはあれでコツもいるし、大変なんだけど。

「ううーん」

 俺が唸っていると、ラヴァが粘土のコップに巻き付いた。

「あ」

 みるみるうちにひびが入ってぼろッと崩れた。

「あああああ!」

「どうした?」

 師匠が慌ててやってきた。実験は大丈夫なんだろうか?

「ラヴァが、型の粘土を焼いてしまって……」

「……やりなおしだな」

 ぽんと肩を叩いて師匠は去っていった。うん。わかってる。首を傾げているラヴァには何の非もない。ないんだけどなぁ!

「がんばろ」

 師匠が協力してくれるんだから、頑張らないとね。


 そうして頑張ったおかげで、そこそこいい形の粘土ができた。

「師匠! できた!」

「コップに見えるな」

「酷い!」

「乾かして、石膏で固めるんだったな?」

「うん。乾かすのは二、三日でいいはず」

「乾いたら、石膏を用意しよう」

「やったー!」

(やったー!)

 ラヴァも前足をあげている。めっちゃ可愛い。


「そうだな、ここに置いておこう」

 師匠が示した場所は炉のある部屋の棚。木版を置いてその上に並べる。

 なんだか、陶器を作っている気分だけどこれは型。

 石膏で固めて、粘土を取り除いてそこにガラスの粉で作った材料を入れる。それを焼いて、石膏を取り除けばガラスが現れるんだ。

 わくわくする。師匠はそんな俺の頭を撫でて、笑った。


 次の日、空は雪雲でどんよりしていて、今年一番冷え込んだ。

 そんな朝に、屋敷に村から人が飛び込んできた。


「盗賊が、盗賊が来たみたいです!」


 魔馬でやってきた領軍の兵士が大声で叫んだ。


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