第13話 春の訪れ

「うわー凄いことになっている」

 雪解けが始まり二階まで届くような雪もなくなり、ぬかるんだ道には解け残った雪があるが日に日に小さくなっていく。


 鳥のさえずりが聞こえ、草花が顔を出し、虫が飛び始め、魔物の姿も見かけるようになった。父や領軍の騎士や兵士、村の有志の皆さん達が毎日頑張っている。

 その結果、ここのところ、無くなりかけてた干し肉の代わりに新鮮なお肉が並ぶようになった。感謝だ!


 今日は久しぶりに河原に来たのだが、河原はなくなって、ごうごうと激流が流れていた。

「雪解け水だな。ずいぶんと積雪があったせいで水量が多くなっているんだ」

 普段いる河原は雪解けで増水した水に覆われて立ち入ることはできない。やや低い谷になっていたのはこういうことだったんだな。

「危ないから縁には立つなよ。あっという間に流されちまうぞ」

「はい」


 今は四月だ。三月にイオが二歳になってみんなでお祝いをした。大分しっかりと立って歩くようになり、言葉も大分語彙が増えた。俺よりしゃべっている。

 そのせいか母がやたらと話しかけてくるようになった。

 もういいのに。俺は一人でも遊べるし、今は師匠について学ぶことが第一で、特に寂しくもない。

 ちゃんと、忙しい中、本を読んでくれたりしたのだから、親として真っ当だ。気にしなくていいと俺が言うのも変な気がする。困ってしまうのだ。

 そういう時は師匠がさり気に母を遠ざけてくれる。大抵勉強中にやってくるからね。


 弟子にするって言ってくれた時から一杯話しかけてくれて、気にかけてくれたから、俺にはちょっと年上のお兄ちゃんみたいなものだ。

 今は滑舌もよくなって語彙も多くなった。本は偉大だ。でも俺の言葉が単語のみが多いのは話すの面倒と思っているからなんだけど。

 同年代がいない弊害かな? 村の子供たちは二つくらい上だった気がするんだよな。


「水不足って言ってたが、これだけの雪解け水があるんだ。大丈夫だろうと思うんだが、気になるな」

「なに独り言言ってるの?」

「あ、いや、前行商人が言ってたことが気になってな。それでだ」

 水不足か。この川が村に流れているからうちの領ではないと思うんだけど。

「村は水不足じゃないと思うけど」

「この領はな。他領の話らしい」

「うーん、他のところがそうなるの、困る?」

「困るな。治安が悪くなるんだ」

「治安?」

「悪いことを考える人たちが増えるってことだ」

 つまり、盗賊とかがやってくるというわけなのかな?

「それは困るかも」

「まあ、それは大人が考えることだから、今はいいさ。川の増水が終わるまで、石拾いはできないかな」

「残念」


「しかたない。春の野草を見て回ろう。錬金術は医学や薬学も兼ねるからな」

「野草を見ることが医学、とか、薬学? に繋がるの?」

「ポーションの材料は薬草や植物の素材から作るからな」

「ポーション!」

 憧れのファンタジーの産物!

「なんだあ? テンションが上がったな? 興味あるのか?」

「ポーションってどんなの? 見たことない!」

「あ、そこからだったか。わかった。ただ、工房と道具を揃えないと作れないからな」

「え、あの、錬成! ってできるんじゃないの?」

「液体なんだ。零れちゃうだろうが」

「あ」

「まあ、工房は必要だから、話しておくよ。ルオの工房がな」

「僕の!?」

「作業場所はどっちにしたって必要だからな。ガラスを作りたいんだろう?」

「はい!」

「よし。だがその前に知識と採取能力を身につけような。ほれ、行くぞ」

「薬草?」

「そうだ。ついでにこの時期にしかない、美味しい野草も摘むぞ」

「ええ? 美味しい野草?」

「この森、魔力に満ちているからな。色々採れるぞ」

「早く行こう!」

「わかったわかった。引っ張るな」

 森の浅い場所で採取だ!


 ラヴァが退屈している。森の中は火気厳禁だから肩でじっとしていたけれど、あくびをしだした。

「これが一番基礎になる薬草だ。最低ランクのポーションからハイポーションまで全部に使う」

 師匠が示したのは青々とした、ミントに似た葉だ。めっちゃ茂りそう。

「このハツカ草は繁殖力が強く群生していることが多い。葉の成分にすっとする匂いの元が含まれていて、虫も近寄らない。全部摘んでも根が残ればまた生えてくる」

 まんまミントじゃねえか! 和名なのが怖い。

「じゃあ、この森全部がこの葉っぱになっちゃうの?」

「いや、他にも強い野草があるから。そうはならないな」

 とりあえず、あるだけ摘むと、別の場所に移動だ。

「あっちに花畑があるな。近くに蜂の巣があるだろうから、気を付けろよ」

「蜂! 刺される?」

「温厚なのは襲ってこないが、魔物の蜂は赤ん坊くらいの大きさで、人を見ると襲ってくることもあるから、近づくなよ」

「怖い!」

 異世界の蜂、怖い!


 美味しい野草は見たことのない草ばかりで、どんな風に美味しいのか見当もつかなかった。

 ネリアが調理してくれた野草はちょっと苦くて、苦手に思ったけど、翌日体が軽くなった。毒素を排出する成分が入っているんだって。デトックスか~

 自然てすごいな。

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